抜け毛・だるさは「甲状腺異常」のサインかも？ 健診で「要精密検査」が出たときの正しい対応とは
健診で「要精密検査」と記載されると、重大な病気ではないかと不安になる方は少なくないと思います。特に、甲状腺の異常は抜け毛や強い倦怠感といった身近な症状として現れることがあり、年齢や疲れのせいと見過ごされやすい点が特徴です。しかし、早めに検査を受けて状態を知ることで、生活に大きな支障を残さずに済むケースが多くあります。今回は、健診で甲状腺異常を指摘されたときの捉え方とその後の検査・治療について、よこすか甲状腺内科クリニックの向笠浩司先生に詳しく解説していただきました。
監修医師：
向笠 浩司（よこすか甲状腺内科クリニック）
甲状腺とはどのような臓器？
編集部
はじめに、甲状腺はどこにある臓器でどのような働きをしているのか教えてください。
向笠先生
甲状腺は首の前側、喉仏（のどぼとけ）の下にある小さな内分泌腺で、左右に広がる蝶の形をしています。甲状腺ホルモンを作り、エネルギー代謝や体温、心拍、腸の動き、皮膚・髪の新陳代謝を全身で調節しており、気分や集中力、コレステロール値などに影響します。子どもでは成長や脳の発達を支える体のペースメーカーになります。日々一定量を血液に放出し、季節や妊娠などに応じて微調整されます。この働きが崩れると全身に不調が広がるため、早期発見が重要です。
編集部
甲状腺の働きが乱れると、体にどのような影響が出るのでしょうか？
向笠先生
ホルモンが不足すると代謝が落ち、だるさや寒がり、体重増加、便秘、むくみ、皮膚の乾燥、抜け毛、脈が遅くなるなどの症状が出ます。逆に過剰だと汗が多い、体重減少、動悸、手の震え、いらいら、不眠などの症状が出ます。また、気分の落ち込みや集中力低下、コレステロール高値、月経異常が出ることもあります。症状はゆっくり進むため、年齢や疲れのせいと見過ごされがちです。複数の症状が続くときは甲状腺の血液検査で確認しましょう。
編集部
甲状腺の病気や異常にはどのようなものがありますか？
向笠先生
甲状腺の病気には、ホルモン分泌が減少する、甲状腺機能低下症（主な原因は橋本病）と、ホルモン分泌が過剰となる、甲状腺中毒症（バセドウ病など）があります。そのほか、しこり（結節）や甲状腺がん、甲状腺全体が腫れる状態、数値が少しだけずれる“潜在性”の異常などがあります。また、思春期の女性では単純性甲状腺腫と呼ばれる一時的な腫れがみられることもあります。多くは血液検査やエコー検査で経過を確認し、症状がなければ経過観察となります。
健診で「要精密検査」と言われたときの対応を知る
編集部
どのような検査や所見から、甲状腺異常が見つかるのでしょうか？
向笠先生
健診では血液検査でTSH（甲状腺刺激ホルモン）・FT4（遊離サイロキシン）などの甲状腺が関与しているホルモンの数値を測り、ホルモンの不足や過剰を確認します。触診や頸部エコーでは、腫れや結節の有無、性状、血流をチェックすることで見つかります。数値の基準は施設で異なるため、判定はその施設の基準値に沿って総合的におこなわれます。コレステロール値、貧血、肝機能異常などの間接サインから疑われることもあります。
編集部
健診の結果、「要精密検査」と書かれていた場合、どのようなことを意味するのでしょうか？
向笠先生
「要精密検査」は、さらに詳しい検査で原因を確かめましょうというサインです。すぐに大病という意味ではありませんが、放置は禁物です。専門の医療機関で、血液（TSH・FT4・抗体など）の再検査、頸部エコー、必要に応じて穿刺吸引細胞診をおこない、治療や経過観察の方針を決めます。健診は毎年受けていても、ある年を境に急に数値が動くことがあります。その背景に甲状腺の異常が隠れていることもあり、疲れや貧血などほかの診療科を受診してからたどり着くケースも少なくありません。だるさや抜け毛、動悸などの症状が続くときは、早めに専門医を受診することが大切です。
編集部
健診で異常を指摘された場合、実際にどの程度の方が治療を必要とする病気を抱えているのでしょうか？
向笠先生
甲状腺の異常といっても、全てが治療を必要とするわけではありません。多くの方は、軽い数値の変化や良性のしこりが見つかる程度で、定期的な血液検査とエコーで様子をみる経過観察になります。実際に治療が必要になるのは全体の1〜2割ほどで、ホルモンのバランスが大きく崩れている場合や、がんが疑われる所見、大きな結節がある場合などです。妊娠を考えている方は基準が変わることもあるため、早めに専門医に相談すると安心です。
精密検査・治療と日常生活への影響
編集部
「要精密検査」となった場合、病院では具体的にどのような検査を受けるのですか？
向笠先生
まず、血液検査でTSH、FT4といった値を調べ、ホルモンが足りているかどうかを確認します。橋本病が疑われるときは、体がつくる抗体（抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体）もチェックします。さらに首に超音波（エコー）をあてて、腫れやしこりの有無、形や血流の様子を詳しく見ます。しこりが気になる場合には、細い針を使って細胞を少し取り、がんかどうかを調べることもあります。どの検査も外来でおこなうことができ、体への負担や痛みは少ないのが一般的です。
編集部
甲状腺の異常が見つかったとき、治療が必要な場合と経過観察でよい場合の違いは何ですか？
向笠先生
甲状腺の病気でも、全ての方がすぐに治療を始めるわけではありません。ホルモンが大きく不足している場合は、足りない分を薬で補う治療をおこないますが、数値の異常が軽く症状もほとんどなければ、定期的に検査をしながら様子を見ることもあります。また、甲状腺にしこり（結節）がある場合も、多くは良性で経過観察となります。ただし、大きくなってきたり圧迫症状が出たりなど、がんの疑いがあるときには細胞を採取する細胞診を検討します。最終的な判断は年齢や体調、妊娠の希望なども踏まえて医師と一緒に決めていきます。
編集部
健診で異常を指摘された方に向けて、受診や治療に対する心構えを教えてください。
向笠先生
甲状腺の病気は、早めに受診して原因を調べ、必要な対応をすれば十分コントロールできることが多いとされています。大切なのは「心配しすぎず、でも放置しない」こと。健診の結果を持参し、だるさや抜け毛、動悸など気になる症状がいつから続いているのかをメモして伝えると診察がスムーズです。普段飲んでいる薬や、妊娠の予定があるかどうかもあわせて伝えましょう。疑問があれば遠慮せず医師に質問し、不安な点は一緒に解消していくことが大切です。
編集部まとめ
健診で「要精密検査」と書かれていても、必ずしも深刻な病気とは限りません。甲状腺の異常は女性に多く、抜け毛や倦怠感、むくみなど身近な症状として現れることがあります。早めに専門医を受診し、血液検査やエコーで状態を確かめることが安心への第一歩です。多くは経過観察で済むケースも少なくありません。心配しすぎず、でも放置しないことが大切です。本稿が読者の皆様にとって、健診結果と向き合うきっかけとなりましたら幸いです。
医院情報
| 所在地 | 〒238-0011 神奈川県横須賀市米が浜通1-7-2 サクマ横須賀ビル1階 |
| アクセス | 京浜急行本線「横須賀中央」駅より徒歩5分 |
| 診療科目 | 甲状腺内科 |
