頑張るのに評価されない… 『適応障害』になりやすい人の特徴と話し方【医師解説】

適応障害は、環境の変化や人間関係のストレスが引き金となって起こる心の不調です。実は、なりやすい人にはある傾向や性格の特徴があります。話し方や言葉の選び方などに表れるサインを含め、アンジェロ三田クリニックの岩谷先生に詳しく教えてもらいました。
※2025年11月取材。

監修医師:
岩谷 泰志(アンジェロ三田クリニック)
適応障害になりやすい人の特徴・性格は?

編集部
「適応障害になりやすい性格」はあるのでしょうか?
岩谷先生
結論から言えば、「この性格だから適応障害になりやすい」という明確なタイプは存在しません。むしろ、性格よりも認知機能の偏りがどのくらいあるかが重要です。
編集部
認知機能の偏りについて、もう少し詳しく教えてください。
岩谷先生
適応障害とは、環境の変化や新しい人間関係といったストレス因子に対して、心と行動が適切に調整できなくなる状態を指します。性格とは別次元の問題であり、「物事をどう捉えるか」「相手の意図や組織の文脈を読み取る力」「状況に合わせて柔軟に行動を変えられるか」という認知の働きに強く依存しているのです。
編集部
そもそも「適応する」とは、どういう能力なのですか?
岩谷先生
適応とは、新しい環境に入ったときにその場の風土、文化、暗黙のルール、人間関係などを察し、それに合わせて考え方や行動を調整する能力を意味します。例えば、新しい上司が来たときには、その上司がどんな性格で、どんなミッションを背負っていて、自分にどんな役割を求めているのかを理解し、振る舞いを合わせる必要がありますよね。しかし、認知的な読み取りが苦手な場合、上司の意図を誤解したり、画一的に判断したり、自分なりの解釈のまま動いてしまったりすることがあります。その結果、上司やチームとの関係性にズレが生じ、本人や周囲のストレスが強まります。こうした「環境の文脈を理解しにくい状況」が適応の難しさにつながるのです。
編集部
具体的に、どのような「認知の偏り」が適応障害につながりやすいのですか?
岩谷先生
認知の偏りとは、簡単に言うと「環境の意図を読み取り、必要な行動を選ぶプロセスが苦手」という特性のことです。特に、適応障害と関係が深いのはASD(自閉スペクトラム症)です。自閉スペクトラム症の診断がつかない人でも、ASD傾向は誰にでも一定の幅で存在し、程度には個人差があるとされています。この傾向が強いと、
・暗黙のルールを察するのが苦手
・相手の意図を読み損ねる
・状況に合わせて柔軟にやり方を変えるのが難しい
・自分なりの解釈を優先しがち
などが起きやすく、組織や上司の期待とズレが生まれます。
編集部
ASDの傾向が強いと、周囲との関係性にズレが生じ、適応障害になりやすいのですね。
岩谷先生
はい。「努力しているのに成果につながらない」「人から誤解される」「コミュニケーションがうまくいかない」といった悪循環が強いストレスを生み、適応障害に至るケースもあります。
編集部
ASDの人はなぜ、環境の意図を読み取る能力が低いのですか?
岩谷先生
ASDの特性の一つとして知られるイマジネーション能力や、メタ認知能力の弱さが関係しています。メタ認知とは、自分や周囲を客観的に把握する力で、
①空間的メタ認知(その場の空気・関係性を読む)
②時間的メタ認知(“次に何が起きるか”を推測する)
という2種類があります。どちらも弱いと、上司の期待や組織の暗黙のルールをつかみ損ねやすくなり、「頑張っているのにズレていく状態」が起こります。
編集部
ほかにも、ASDの人に共通する特徴はありますか?
岩谷先生
ASDの特性には「固執性」というものもあります。これは単なる「頑固さ」ではなく、相手の意図や状況をイメージしにくいために、自分のルールに頼らざるを得ないというASDならではの脳の特性です。他者の視点を読み取りにくいと、安心できる唯一の基準が自分の考えになり、結果としてこだわりが強くなってしまいます。「自分の考えで突き進むしかなくなる状態」が続くと、上司とのすれ違いや業務の方向性のズレにつながり、適応困難を招くことがあります。
適応障害になりやすい人の「気質」とは?

編集部
認知機能の偏りのほかに、適応障害のなりやすさに関係するものはありますか?
岩谷先生
生まれつきの気質が関係することもあります。人は生まれつき3タイプの気質に分類されると考えられており、そのうち最も多いのが「優位性志向型」です。全体の約6割がこのタイプに該当するとされ、他者から評価されることで自己肯定感が満たされやすいという特徴があります。しかし、ASD的な認知の特徴があると、相手の意図や組織のルールを読み取る力が弱くなりやすく、努力しているのに成果につながりにくいという状況になることがあります。
編集部
頑張っているのに評価されないということですね。
岩谷先生
はい。例えば、上司の期待を誤解したまま頑張ってしまったり、独自の解釈で行動してしまったりと、周囲との認識のズレが生じやすいのです。その結果、「努力しているのに評価されない」という現象が起こり、優位性志向型の人にとっては自己肯定感が大きく揺らぎます。しかも、評価されない理由が分からないため、他人や環境のせいにしやすくなることもあります。こうした認知のズレとストレスの積み重ねにより、適応障害になってしまうことがあるのです。
編集部
周囲との間に認識のズレがあると、大きなストレスを抱えてしまいそうですね。
岩谷先生
そうですね。優位性志向型でよく見られるのは「頑張っているのに評価されない→理由が分からない→自己肯定感が下がる→この職場にいるのがつらい」という流れです。評価と自己肯定感が強く結びついているため、認知の偏りから「頑張りと成果が一致しない状態」が続くと精神的ダメージが大きくなります。「自分はこんなに貢献しているのに、なぜ理解してもらえないのか」という思いが強くなり、時には「他責的」な解釈になってしまうこともあります。こうした悪循環が続くと、心身の限界が近づき、「ここではやっていけない」「毎日がつらい」と感じるようになり、適応障害として症状に表れるケースが多いのです。
話し方の特徴は?

編集部
適応障害の人の話し方には特徴がありますか?
岩谷先生
ASD傾向のある人は、一般に「画一的な話し方」になりやすいといわれています。これは、相手との関係性に応じて言葉遣いを調整する、メタ認知が苦手なためです。
編集部
具体的に、どのような話し方をするのでしょうか?
岩谷先生
例を挙げると、仲よくなってきた相手にも不自然なほど丁寧な話し方を続けてしまったり、親しくない相手に急にフランクな口調で話しかけたり、などですね。対人関係を的確に理解できないため、状況に応じた言葉遣いの調整が困難になります。なぜこういった現象が起こるかというと、本人のメタ認知の弱さが大きく影響しています。「今、相手はどんな気持ちか」「自分と相手の距離感はどれくらいか」「この状況ではどんな言葉が適切か」を客観的に把握することが難しく、周囲との温度感のズレが起こりやすくなるわけです。
編集部
「話がかみ合わない」という特性は、適応障害の原因になるのでしょうか?
岩谷先生
直接的な原因になることはありませんが、職場での誤解やコミュニケーション不一致を引き起こしやすい点では、間接的に関係します。ASD傾向がある人は、「行間を読む」「曖昧な指示を相手の意図通りに解釈する」「暗黙の了解に合わせる」といった非言語的調整が苦手なことがあります。その結果、
・上司の期待に気付かないまま努力してしまう
・仲間のニュアンスを読み取れず協力が得にくくなる
・「なぜ伝わらないのか」と双方がストレスを感じる
というようなズレが生じ、業務がスムーズに進みにくくなるのです。
編集部
適応障害は本人だけでなく、周囲の人にも大きな影響を与えるのですね。
岩谷先生
その通りです。適応障害による影響は、本人のパフォーマンスや精神的な負担だけでなく、チーム全体の雰囲気や生産性にも波及します。そのため、周囲の理解やサポートが非常に重要です。もし困っていることがあれば、積極的に産業医などに相談してほしいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
岩谷先生
適応障害の治療で最も大切なのは、「自分がどのような経緯で適応できなくなったのか」を言語化し、「見える化」することです。上司とのすれ違い、環境とのミスマッチ、認知の特性など、原因を具体的に捉えることで初めて効果的な対策や解決策が導き出せます。薬だけでは根本的な改善にはつながりません。大事なのは、自分の特性と状況を丁寧に理解し、それに合ったソリューションを一緒に考えてくれる医師や相談先に出会うことです。困っていることがあれば適応障害について正しく理解し、伴走してくれる専門医に相談してみるとよいと思います。
編集部まとめ
適応障害は「心が弱いから起きるもの」と誤解されがちですが、実際には環境との相性や認知の特性によるすれ違いが背景にあります。だからこそ、自分がどのようなプロセスで適応できなくなったのかを可視化することが大きな助けになるはずです。一人で抱え込まず、状況を丁寧に理解し、解決策を一緒に考えてくれる専門医に相談してみましょう。
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