「ピロリ菌を除菌したから安心」これってホント? 医師が警鐘を鳴らす“見逃されやすいリスク”とは

ピロリ菌感染は胃炎や潰瘍だけでなく、胃がんの最大の危険因子として長らく注目されてきました。近年では、除菌することによって胃がんリスクを大きく減らせることが明らかになっています。しかし、除菌を終えたからといって病気にならないとは言い切れないようです。そこで今回は、ピロリ菌の除菌後にも定期的な内視鏡検査が必要とされる理由や適切な受診間隔について、所沢みやた内科クリニック院長の宮田大士先生に詳しく解説していただきました。

監修医師:
宮田 大士(所沢みやた内科クリニック)
ピロリ菌と胃がんの関係について知る

編集部
はじめに、ピロリ菌感染が胃に与える影響について教えてください。
宮田先生
ピロリ菌は胃粘膜に慢性炎症を起こし、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因になります。感染が長期化すると粘膜が薄くなる萎縮性胃炎へ進み、さらに「腸上皮化生」というがんの前段階の状態になることもあります。これらの段階的変化は胃がんの土台となるため、単なる胃の不調ではなく、がんのリスクとして認識することが重要です。細かい話ですが、「ヘリコバクター属」の「ピロリ菌」だけでなく、最近はヘリコバクター属のほかの菌も悪さをしていたり、実はピロリ菌にも5、6種類あるという報告があったりもします。ただし、診療の対応は変わりません。
編集部
ピロリ菌は、どのような仕組みで胃がんリスクを高めるのでしょうか?
宮田先生
ピロリ菌は尿素を分解してアンモニアを産生し、粘膜の機能を損ねます。慢性炎症が持続するとDNA損傷や修復異常が蓄積し、がん化する確率が上昇します。また、胃内環境の変化により、本来は出現しにくい腸型上皮が胃粘膜に置き換わる腸上皮化生が進行し、発がんリスクが上昇します。すなわち、炎症の長期化と粘膜構造の変化が二重に作用して、胃がんの発生リスクを高めるのです。
編集部
除菌をおこなうことで胃がんリスクはどの程度低下するのでしょうか? 完全に防ぐことは可能なのか教えてください。
宮田先生
除菌により炎症は軽快し、将来の胃がんリスクは有意に低下します。若年時に除菌するほど予防効果は高いとされますが、いったん進んだ萎縮や腸上皮化生は完全には回復しない場合があります。このため、除菌はリスクを大幅に下げる手段であっても、ゼロにする手段ではありません。とくに萎縮が強い方や家族歴のある方は、除菌後も定期的な内視鏡検査を継続し、早期発見・早期治療の機会を失わないことが重要です。
ピロリ菌除菌後も内視鏡検査が必要な理由とは

編集部
ピロリ菌を除菌しても胃がんが発生する可能性があるのはなぜでしょうか?
宮田先生
除菌をすると炎症は落ち着きますが、除菌までに蓄積した粘膜ダメージやすでに形成された萎縮・腸上皮化生が残存することがあります。胃がんは年単位で進むため、過去のリスクが将来に影響する点が本質です。実臨床でも除菌後の胃がんは一定数認められます。したがって、除菌=検査不要ではなく、粘膜の質を見守る目的での定期的な内視鏡検査が欠かせません。とくに高齢者や強い萎縮例、家族歴のある方は継続フォローが推奨されます。
編集部
ピロリ菌を除菌した後に、再び感染する可能性はあるのでしょうか?
宮田先生
日本では成人の新規再感染はまれで、年間発生率はきわめて低いと報告されています。多くは小児期に感染し、その後は衛生環境の改善もあって新規感染は少数に留まります。ただし、衛生状況の悪い地域への渡航や感染者との密接な接触などで、再感染がゼロとは言い切れません。胃の不調が再燃したなど、ピロリ菌が関連する疾患が疑われる状況では、医師の判断で再検査・再除菌を検討します。
編集部
除菌後に内視鏡検査を受ける必要性について教えてください。
宮田先生
内視鏡は粘膜の微細変化を直接観察でき、前がん病変の評価や早期胃がんの拾い上げに最も有効です。早期に発見できれば、内視鏡による治療で完治を目指すことができ、体への負担も少なく済みます。さらに、胃炎や潰瘍、ポリープなど合併疾患の早期対応にもつながります。経口・経鼻のいずれでも診断能はほとんど同じですが、苦痛の少ない経鼻法は継続受診のしやすさという利点があり、結果として見逃し低減に寄与する可能性があります。
内視鏡検査の重要性とメリットを知る

編集部
内視鏡検査では具体的にどのような病変や異常を確認できるのでしょうか?
宮田先生
胃炎や潰瘍、ポリープ、早期胃がんまで幅広い病変を直接観察できます。拡大観察や特殊光を併用すれば、平坦・微小病変の拾い上げにも有用です。疑わしい部位はその場で生検して病理診断に回せるため、画像検査のみでは難しい質的評価が可能になります。バリウム検査に比べ、診断の確実性と治療をすべきかの判断が同一日で進む点が大きな利点です。
編集部
内視鏡検査は、どのくらいの間隔で受けるのが理想的なのでしょうか?
宮田先生
一般には、除菌歴のある方は年1回を目安に検討します。萎縮・腸上皮化生が強い、家族歴がある、喫煙などの追加リスクがある場合は、より短い間隔を勧めることもあります。一方、リスクが低く所見の安定している方では2年に1回でも差し支えない場合があります。大切なのは無理なく継続する計画です。鎮静や経鼻内視鏡の活用も含め、担当医と最適な頻度をすり合わせましょう。
編集部
除菌後も定期的に内視鏡検査を受けることで、患者さんにはどのようなメリットが期待できるのか教えてください。
宮田先生
最大の利点は「早期発見できること」です。早期胃がんなら内視鏡による治療で根治が期待でき、入院・費用・生活への影響を最小化できます。胃がん以外の炎症や潰瘍、ピロリ菌関連疾患の再燃も早期に対処でき、症状悪化や合併症を防ぎます。さらに、定期的に診ているという心理的安心感は、受診中断の防止にもつながります。苦痛の少ない検査方法を選ぶことで継続性が高まり、結果として見逃しの抑制に寄与します。
編集部まとめ
除菌は胃がんリスクを大きく下げますが、完全に防ぐことはできません。とくに萎縮性胃炎(胃粘膜が薄くなる状態)や腸上皮化生(前がん状態)が残る方、家族歴のある方では、定期的な内視鏡が将来の安心につながります。負担の少ない受け方を選び、続けられる頻度で粘膜の変化を見守ることが重要であると宮田先生に解説していただきました。本稿が読者の皆様にとって、適切な検査間隔を考える一助となりましたら幸いです。
医院情報

| 所在地 | 〒359-0038 埼玉県所沢市北秋津585-1 |
| アクセス | 西武新宿線・西武池袋線「所沢」駅 徒歩12分 |
| 診療科目 | 一般内科・消化器内科・糖尿病内科 |



