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応募1500組殺到! 神奈川県医師会が仕掛ける「子ども向け医療イベント」の狙い

 公開日:2025/10/06

神奈川県医師会が参加した子ども向けイベント「かながわMIRAIストリート」が大きな話題を呼んでいます。抽選で当たった参加者に本物の聴診器をプレゼント、白衣を着た記念撮影など、子どもたちが医療の世界を体験できるこのイベントに1500組の応募が殺到しました。さらに、夏休みのイベントとして映画「はたらく細胞」の上映会を開催し、18歳以下の参加者全員に聴診器をプレゼント。その背景には「18歳人口が半分になる時代」を見据えた、医療人材確保への強い危機感がありました。

医師のキャリアを生涯にわたってサポートする「かなドク」プロジェクト、DXで変わる医師会の業務改革など、2040年の医療を見据えた神奈川県医師会の挑戦について、鈴木紳一郎会長に詳しく聞きました。

子どもたちに医療の魅力を伝える「かながわMIRAIストリート」と映画「はたらく細胞」上映会

2025年5月に開催された「かながわMIRAIストリート」の開催と連動した映画「はたらく細胞」上映会は、想定を大きく上回る反響を呼びました。

「100組の募集に対して1500組の応募がありました。やっぱりみんな興味があるのですね。子どもたちを連れて、親が白衣を着させて、すごく喜んでくれました」

参加した子どもたちには、特別なプレゼントが用意されていました。 「来てくれた子どもたちに、本物の聴診器をプレゼントしました。看護師さんが使っているのと同じ、ちゃんと使えるものです。組み立てキットになっていて、親子で一緒に作れるのです」

この取り組みの背景には、将来の医療人材確保への危機感があります。 「18歳人口が半分になっても、医療人材がいれば医療は守れます。でも、このままいったら医療人材はいない、お金も出てこない。一度なくすと本当に戻らないのが社会インフラ、社会資源ですから」

神奈川県医師会は、映画「フロントライン」への後援をおこない、映画の公開前に神奈川県知事や厚生労働省などコロナに立ち向かった当時の担当者との座談会を開催し、医療従事者の苦悩を知ってもらう取り組みもあわせておこなっています。

「ダイヤモンドプリンセス号から始まるコロナとの闘いを描いた作品は、テレビでも5分ぐらい特集されました。こういう形で、子どもたちが医療に興味を持ってくれれば嬉しいです」

鈴木会長は、この戦略の狙いを説明します。 「ターゲットは子ども、そしてそこにいる若い親です。子どもが楽しそうに聴診器を持って歩いていると、それがまたほかのお客さんを呼ぶ。将来の医療人材を増やしていける土台になると考えています

医師のキャリアを生涯支える「かなドク」プロジェクト

神奈川県医師会が運営する「かなドク」は、研修医や勤務医向けの情報提供から始まりましたが、その構想はさらに大きなものです。

最終的には、神奈川県に住むすべてのドクターのサポートができるようにしたいですね。いろいろ情報を『かなドク』に集約して、このサイトさえ見れば、問題解決の糸口が見つかるようにしたいのです

具体的なサービス内容について、鈴木会長は次のように説明します。 「子育て中の女性医師への支援、ファイナンスの知識提供、税金や教育費用の相談など。開業した人も病院に戻ってきてもいいし、病院で疲れたら開業の手伝いに行ってもいい。完全に分かれたままじゃなくて、最後はまた交わってもらいながら、医師として幸せな人生を送れるようにしたいですね」

特に注目すべきは、人材マッチング機能です。 「田舎では学校医が足りなくて困っています。一方で、子育て中の女性医師で週に何日か働きたい人もいる。このマッチングができれば、お互いのためになる。今はアクセスもいいから、横浜から足柄に行ったっていいじゃないですか

最終的には、会員だけでなく非会員にも開放する計画です。 「最初は会員のためのサービスとして作るけど、最終的には会員じゃなくても利用できるようにする。それを見て『医師会って役に立つな』と思ってもらえれば、自然に会員になってもらえると思います」

DXで変わる医師会の業務

鈴木会長は、医師会自身のDX化にも積極的に取り組んでいます。 「最近、文字起こしやChatGPT(対話型AI)を使い始めました。長い話があったら、録音して要約する。これだけでもずいぶん楽になります」

さらに、RPA(Robotic Process Automation:定型業務の自動化)の導入も検討しています。 「日々のデータ処理など、定型的な作業は自動化できます。神奈川県医師会が先頭に立って、デジタルやAIを活用した医師会運営を進めたい。そうすればみんな楽になると思うのです

ただし、鈴木会長は注意点も指摘します。 「録音禁止の会議もありますし、便利な反面、気をつけなければいけない点もありますね」

「3割負担」の裏側 - 県民に伝えたい医療の実情

鈴木会長は、県民の医療に対する理解を深める必要性を強調します。 「外来で診察していると、『今日の診療代が7000円です』と言うと『なんで?』と驚く患者さんがいます。でも、検査をたくさんしたら本当は2万円以上かかっている。3割負担だから7000円なのです

国民皆保険制度の恩恵について、改めて考える必要があると指摘します。 「爪のネイルに1万円かけるのに、診療費7000円には文句を言う。皆保険のありがたさがわからなくなっている。皆保険が要らないというなら社会保険料を下げてもいいけど、本当にそれでいいのか、県民に問わなければいけません」

鈴木会長は、県民一人ひとりが「医療を守るパートナー」になってほしいと訴えます。 「医療情報だけでなく、医療体制や医療の成り立ちについても理解してほしい。賢い医療のかかり方を学ぶことで、限られた医療資源を有効に使える。それが結果的に、自分たちの健康を守ることにつながるのです」

2040年の医療を見据えて

鈴木会長は、2040年の医療について独自の展望を持っています。 「2040年になったら、もうDXなんていう言葉はなくなっているでしょう。みんな当たり前にデジタル技術を使っている。その時代には、医師1人で100人を1時間で診られるかもしれないし、遠隔地でも専門医の診察を受けられるかもしれない」

人口減少社会における医療のあり方についても言及します。 「民間病院は人口2万5000人ぐらいないと成り立たないと言われるけど、将来は違うかもしれない。3つの病院を1つにまとめて、でも経営は3つに分けておくとか、離れていてもDXで1つの拠点として機能させるとか、いろんなやり方ができると思います」

最後に、鈴木会長は医療の本質について語りました。 「手術をロボットだけでできるか、車が完全自動運転になるか、まだわからない部分もあります。でも、少なくとも人がいないとできないことは必ずある。だからこそ、人材育成が重要なのです

「一枚岩となって、2年間の任期を全力で取り組みます。それができたかできないか、自らが評価する。そんな医師会運営をしていきたい」

編集部まとめ

子ども向けイベントや映画上映会から始まり、「かなドク」やDX推進まで、神奈川県医師会の取り組みはすべて未来の医療人材育成と持続可能な地域医療の実現に向けられています。人口減少や財政難という逆風の中でも、「最後の医局」として医師をつなぎ、県民に医療の本質を伝え続ける鈴木会長の姿勢は、2040年を見据えた地域医療の新たな道筋を示しています。神奈川県医師会の挑戦は、2040年の医療を見据えた壮大な構想の第一歩でした。

この記事の監修医師