甲状腺を摘出したらどうなるかご存じですか? 生活への影響や注意点を医師が解説!

甲状腺疾患は決して珍しくなく、治療の選択肢として手術による摘出が検討される場合もあります。しかし、摘出と聞くと、その後の生活にどんな影響があるのか、不安を抱く人は少なくないでしょう。そこで今回は、甲状腺の基本的な役割から、疾患の治療、摘出後の生活への影響まで、「ひるま甲状腺クリニック蒲田」の蛭間先生に解説していただきました。

監修医師:
蛭間 重典(ひるま甲状腺クリニック蒲田)
甲状腺の基礎知識

編集部
まず、甲状腺について教えてください。
蛭間先生
甲状腺は首の前にある小さな臓器で、甲状腺ホルモンを分泌し全身の代謝を調整しています。体温や心拍、血圧の維持に加え、成長や神経機能にも影響する重要な器官です。
編集部
甲状腺疾患には、どのような種類があるのでしょうか?
蛭間先生
大きく、甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」と過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症」に分けられます。甲状腺機能低下症は「橋本病」、甲状腺機能亢進症は「バセドウ病」が代表的な疾患として挙げられます。また、良性や悪性の腫瘍などもあります。
編集部
甲状腺疾患の症状の特徴はありますか?
蛭間先生
低下症では疲れやすさやむくみ、物忘れ、気力の低下などがあり、亢進症では動悸や発汗、イライラなどが目立ちます。いずれも「歳のせいかな」「疲れているからかな」と思われがちな症状で、様子を見ているうちに発見が遅れることも少なくありません。早期発見のためにも、違和感があれば受診することをおすすめします。
編集部
検査・診断はどのようにおこなわれるのでしょうか?
蛭間先生
症状や生活歴、家族歴を問診したり、血液検査でホルモン値や自己抗体を調べたり、超音波検査で腫瘍の有無や大きさを確認したりします。体への負担が比較的少ない検査で診断が可能です。ほかには、脈の速さの異常や脈の乱れなどがある場合には心電図検査、甲状腺の中にしこりがある場合には良性か悪性かを判断するための細胞診が必要です。
甲状腺疾患の治療・手術

編集部
甲状腺疾患はどのように治療されますか?
蛭間先生
薬でホルモンの過不足を補正するのが基本です。場合によっては放射性ヨウ素を内服する放射線治療や、甲状腺の一部または全体を切除する外科手術をおこなうこともあります。
編集部
どのようなケースで外科手術が選択されるのですか?
蛭間先生
外科手術が選択されるのは、腫瘍が甲状腺がんと診断された場合です。また、良性腫瘍であっても、大きくて気管や食道を圧迫してしまい、食べ物の飲み込みや呼吸に支障があるときなども手術適応となります。ほかには、バセドウ病の人で、薬や放射線治療で効果が得られない場合にも検討されます。
編集部
手術について、もう少し詳しく教えてください。
蛭間先生
甲状腺外科手術は、全身麻酔下にて首の前側を切開しておこなわれ、1週間程度の入院が必要です。腫瘍の位置や大きさ、性質に応じて甲状腺の右葉か左葉のどちらか一方だけを切除し、もう片方を残す部分摘出と、全体を取る全摘出が選択されます。最近だと、脇の下や鎖骨の下に小さな穴を開けて、医療用のマジックハンドで腫瘍を摘出する内視鏡手術ができる医療機関も増えてきています。全ての腫瘍が内視鏡で摘出できるわけではありませんが、傷口が目立たないというメリットがあるのと、傷自体も小さくて済むため、ケロイド体質の人にも向いています。
編集部
摘出後、甲状腺ホルモンの分泌はどうなるのですか?
蛭間先生
全摘出した場合、自力でホルモンを作れなくなるため、ホルモン薬を服用します。部分摘出は、残した甲状腺が十分に働けば、術後にホルモン薬を内服せずに生活できる可能性もあります。
編集部
手術後、影響があるのは甲状腺ホルモンだけでしょうか?
蛭間先生
甲状腺のすぐ裏には「副甲状腺」という小さな臓器が付着しており、血液中のカルシウム濃度の調節を担っています。甲状腺を全摘出する際には副甲状腺もセットで一度取り出し、その後に副甲状腺だけ体内に戻す処置をおこないますが、必ずしも十分に機能が回復するとは限りません。そのため、場合によってはカルシウム製剤やビタミンD製剤を用いて不足を補う必要があります。カルシウムが不足すると手足のしびれなどの症状が出るため、注意が必要です。
甲状腺摘出後、生活にどんな影響がある?

編集部
摘出後の生活にはどのような影響がありますか?
蛭間先生
ご自身で甲状腺ホルモンが作れなくなったとしても、ホルモン薬をきちんと服用していれば、普段通りの生活を送れます。仕事や家庭に大きな支障はなく、疾患自体が治療されるため体の調子も安定します。ただし、服薬を怠ると疲れや体重変化が出ることがあるため、継続して内服することが重要です。とはいえ、3〜4日忘れたからといって大きな問題になることはありません。この薬は一度服用すれば体内に1週間以上残存するため、多少の飲み忘れについては不安に感じなくて大丈夫です。ナーバスにならず、前向きに服薬を続けていただければ大丈夫です。
編集部
食事や運動など日常生活で注意すべき点はありますか?
蛭間先生
特別な制限はほとんどありません。手術直後のみ、美容院でのシャンプーや歯科治療などで首を大きく後ろにそらす動作は、傷口が引き伸ばされる恐れがあるため控えていただきますが、それ以外は普段通りの生活で問題ありません。
編集部
甲状腺の摘出術後について、最新のトピックがあれば教えてください。
蛭間先生
甲状腺摘出後、通常はT4というホルモンを補充しますが、T4の一部は体の中でT3というホルモンに変わります。このT3こそが、体のエネルギー代謝を強く助ける役割があるのです。しかし、体質によってはうまくT3に変換できず、T4を十分に飲んでいても「疲れやすい」「気分がすっきりしない」と感じることがあります。その場合の対応として、「①T4を通常量よりも過剰に服用するやり方」と「②T3を直接補う薬を使う方法」があります。しかしながら、両者とも心臓に負担をかけるリスクが指摘されており、人によって最適な治療は異なるため、まさにオーダーメイドの治療が大切です。もしT4を飲んでいても体調がすぐれない場合は、一度、甲状腺の専門医に相談し、治療方法について一緒に検討してみることをおすすめします。
編集部まとめ
甲状腺は小さくても全身に影響を与える大切な臓器です。腫瘍や機能異常のため摘出が必要になることもありますが、術後はホルモン薬の内服によって多くの人がこれまで通りの生活を送れるとのことでした。不安があっても、専門医のもとで適切な治療を受けることで安心して日常を続けることができるので、気になる症状のある人は、ぜひ早めに専門医に相談することをおすすめします。
医院情報

| 所在地 | 〒144-0051 東京都大田区西蒲田7-48-3-2F |
| アクセス | JR・東急「蒲田駅」 徒歩2分 |
| 診療科目 | 内分泌内科 |




