夜中スマホ・寝酒はNG! 本当に疲れが取れる“エビデンスのある休み方”を医師が解説

近年、休息しているつもりでも疲れが取れないという悩みを抱える人が増えています。疲労が慢性化している原因として、質の悪い休息や誤った習慣である場合も少なくありません。スマートフォンや寝酒が睡眠に与える影響、サウナや軽い運動による自律神経の調整、食事が体調に及ぼす影響など、休養をめぐる情報には、科学的根拠に基づく知見が必要です。そこで今回、加藤浩晃先生に休養のコツについて説明していただきました。

監修医師:
加藤 浩晃(医師)
休息の質を高めるためのエビデンス

編集部
加藤先生が医師として、またはビジネスの世界で働く中で、「休むこと」について考えるようになった理由などはあるのでしょうか?
加藤先生
自分が仕事を「休めない人」だったことが一番の理由です。25~35歳くらいまでの臨床医の間も、厚生労働省で働いていたときも、その後に医療×ビジネスの領域で仕事をするようになってからも、「がむしゃらに働く」「人が休んでいるときに働いて、働く時間を増やす」ことで差別化を図ろうとしていました。39歳ごろ、コロナの時期にはワンルームマンションを借り、誰とも会わないようにして、無音の中でひたすら仕事をしたり、部屋からYouTubeの配信をしたりと、がむしゃらに働き続けていました。
編集部
その働き方に限界を感じたきっかけや、転機となった出来事について教えてください。
加藤先生
40歳を過ぎてからは、その働き方が通用しなくなりました。徹夜も難しくなり、大酒も飲めなくなってきたのです。40歳を境に、「今のままではだめだ」と感じるようになりました。20代や30代前半のような「活力」が、明らかに落ちてきたのです。そこで、自分の身体やパフォーマンスについて本気で考えるようになりました。日本抗加齢医学会には以前から入会していたのですが、それは教授に勧められて入っただけで、毎月送られてくる学会誌や雑誌には目も通さずに放置していました。
編集部
そこからどのように「休むこと」について考えるようになったのでしょう?
加藤先生
そんなあるとき、たまたまその学会誌を見てみると、「活力」や「パフォーマンスアップ」、そして「予防」について書かれていました。抗加齢医学について勉強を始め、その流れで日本抗加齢医学会の専門医も取得しました。そこで得た知見を自分に試してみたところ、「活力」が再び戻ってきたのです。仕事も、昔のようにできるようになりました。この感動を周りと共有したいと思い、知り合いの経営者を中心に学んだ知見を伝えていきました。彼らも試してみて大いに喜んでくれました。今では、日本抗加齢医学会では専門医だけでなく、評議員も務めています。
編集部
科学的エビデンスに基づく休息と基づかない休養では、どのような違いが出てくるのでしょうか?
加藤先生
まず、エビデンスに基づく休養は、休養の時間効率が高く、しっかりと休養できることにつながりやすいと感じています。一方で、エビデンスに基づかない休養は、ただ単に「休む」だけになってしまうのではないかと思います。あるいは、なんとなく思いつきでやってみているだけ、というケースもあるでしょう。もちろん、時間が無限にあるのであれば、いろいろ試しながら自分に合った休養を見つけていくのも良いと思います。しかし、限られた時間の中でしっかりと休養をとろうとする場合には、「まず、これが多くの人にとって効果が高かったとされる休養方法です」と示されたものを試してみて、そこから自分に合うようにアレンジしていくのが、最も早くて効果的だと考えています。
睡眠の質を劇的に上げる “黄金ルール”

編集部
夜中に目が覚めてもスマートフォンを見てはいけない理由について教えてください。
加藤先生
夜中の中途覚醒時にスマートフォンを見る行為は、睡眠医学的に非常に問題があります。スマートフォンから発せられる波長380〜500nmのブルーライトは、目の奥の網膜を刺激し、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を急激に抑制してしまいます。特に重要なのは、スマートフォンの使用距離が約20cmと非常に近いことです。光の影響は距離の二乗に反比例するため、テレビ視聴時の約100倍もの強い刺激を受けることになります。さらに、SNSやメールといった情報刺激が交感神経を活性化させ、本来、副交感神経が優位になるべき夜間の自律神経バランスを乱してしまいます。その結果、再入眠困難や睡眠の質の低下、翌日の認知機能の低下を引き起こし、長期的には生活習慣病のリスクも高まります。夜中に目が覚めた際には、暗い環境を保ち、深呼吸などをおこないながら自然な眠気の回復を待つことが重要です。
編集部
寝酒はリラックスどころか睡眠の質を下げる可能性があるのはなぜですか?
加藤先生
寝酒やアルコールは入眠を促す作用がありますが、体内でアルコールがアセトアルデヒドに代謝される過程で強い覚醒作用を発揮し、深い睡眠である徐波睡眠やレム睡眠が大幅に短縮されてしまいます。血中アルコール濃度が下がる就寝後3〜4時間頃に「リバウンド覚醒」が起こり、夜中に何度も目が覚める原因となります。さらに、アルコールの利尿作用によって抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が抑制され、夜間の頻尿が増え、中途覚醒がさらに増加することになります。質の高い睡眠を得るためには、就寝の3時間前には飲酒を控えることが望ましく、代替手段としては温かいハーブティーや軽いストレッチなどによるリラクゼーションが効果的です。
編集部
睡眠アプリやウェアラブルデバイスの有効な活用法について教えてください。
加藤先生
睡眠アプリやウェアラブルデバイスは、心拍変動(HRV)や体動から睡眠段階を推定し、客観的な睡眠データを提供しています。ただし、そのデータの精度は医療機器レベルではないため、あくまで傾向を把握する目的にとどめることが重要です。データに過度に依存し過ぎると、「睡眠パフォーマンスへの不安」を引き起こし、かえって不眠の原因となることがあります。効果的な活用法としては、週単位での睡眠時間や就寝時刻の変動パターンを把握し、生活習慣を見直すための指標として使うことが挙げられます。体感的な疲労感と客観的なデータを組み合わせて判断し、一喜一憂せず、長期的な視点で睡眠の質の向上に役立ててもらえると良いと思います。
サウナ・お風呂・運動で最速リカバリー

編集部
サウナで脳の疲れが取れるのですか?
加藤先生
医学的に「疲労」は、主に2種類に分類されます。ひとつは末梢性疲労(身体疲労)で、筋肉などに由来する疲労感覚を伴う状態です。これは筋肉のエネルギー枯渇や老廃物の蓄積による、物理的な疲労とされています。もうひとつは中枢性疲労で、脳が主体となって疲労を感じている状態を指します。中枢性疲労は、精神的なストレスや緊張状態が続くことで引き起こされ、視神経や脳の過緊張から発生すると考えられています。そして、サウナはこの中枢性疲労の回復に確実に効果があります。80〜90℃の高温環境では、細胞保護タンパク質であるヒートショックプロテイン(HSP70)が産生され、ストレスによって損傷したタンパク質の修復や除去機能が高まります。
編集部
ほかにもサウナによって得られる効果はありますか?
加藤先生
さらに重要なのが、自律神経への作用です。サウナで高温の部屋に入っている間は交感神経が一時的に活性化されますが、その後の水風呂や休憩により副交感神経が優位となる「自律神経のスイッチング効果」が生まれ、深いリラクゼーション状態が実現します。このプロセスの中で、脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌が増加し、記憶力や集中力の向上にもつながります。また、サウナ中の瞑想的な状態はデフォルトモードネットワークを活性化させ、創造性の向上にも寄与するとされています。
編集部
入浴で増える「ヒートショックプロテイン」とはどのようなものですか?
加藤先生
ヒートショックプロテイン(HSP)は、熱ストレスに反応して細胞内で産生される生体防御タンパク質です。40℃以上の入浴によって誘導され、なかでもHSP70は抗炎症作用や細胞保護作用が最も強く、ストレスによって損傷したタンパク質を修復・除去し、細胞を正常な状態に戻す働きがあります。40℃で20分間の入浴により、HSP70を効果的に増加させることができます。
編集部
「疲れない運動」でも休養に効果があるのはなぜですか?
加藤先生
「疲れない運動」とは、中強度以下の有酸素運動を指します。こうした運動を取り入れることで、強い疲労を引き起こすことなく、血流の改善や代謝の促進によって疲労回復効果が得られます。軽度の運動によって、成長ホルモンやβエンドルフィンの分泌が促され、筋肉の修復と気分の改善が同時に期待できるのです。特に重要なのが、自律神経への作用です。適度な運動は、交感神経の過度な緊張を和らげ、副交感神経の活性化を促すことで、ストレス状態からの回復を早める効果があります。さらに、脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌が増加することで、認知機能の向上や精神的疲労の軽減にもつながります。
食事&フェムテックで“疲れにくい体”をつくる

編集部
腸が喜ぶ食事とはどのようなものですか?
加藤先生
腸が喜ぶ食事とは、腸内細菌叢の多様性を高める「プロバイオティクス」と、善玉菌のエサとなる「プレバイオティクス」を組み合わせたものです。発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌、キムチなど)を通じて多様な乳酸菌やビフィズス菌を摂取し、さらに、食物繊維やオリゴ糖を豊富に含む野菜、果物、全粒穀物、豆類によって善玉菌を育てていきます。とくに重要なのは、腸内細菌の「多様性」です。理想的には、週単位で30種類以上の植物性食品を摂取できるとよいとされています。一方で、加工食品や過度な糖分、人工甘味料などは悪玉菌の増加につながるため、できるだけ控えることが望ましいでしょう。
編集部
ビタミンやミネラルが不足すると疲れやすくなるのですか?
加藤先生
ビタミンやミネラルの不足は、確実に疲労の原因となります。これらの栄養素は、細胞内にあるミトコンドリアでのエネルギー産生(ATP産生)において、必須の補酵素として機能しているからです。主要な疲労関連栄養素としては、ビタミンB群(特にB1、B2、B6)が挙げられます。これらは糖質・脂質・タンパク質の代謝過程で補酵素として働き、不足するとエネルギーをスムーズに得ることができなくなります。
編集部
ほかにも疲労と深く関係する栄養素はありますか?
加藤先生
鉄分は酸素の運搬に必要不可欠で、不足すれば組織への酸素供給が低下し、慢性的な疲労につながります。マグネシウムは300以上の酵素反応に関与しており、不足すると筋肉の緊張や神経の興奮状態が続きやすくなります。さらに、ビタミンDは免疫機能や筋肉機能に関与しており、不足することで疲労感や抑うつ気分を引き起こすことがあります。現代の食生活では、特に亜鉛、ビタミンD、マグネシウムが不足しやすい傾向にあります。なお、一般的な健康診断では、こうしたビタミン・ミネラルに関する詳細な血液検査がおこなわれないことも多いため、改めて血液検査によって栄養状態を把握し、必要に応じてサプリメントを活用することが望まれます。
編集部
PMSや生理痛を軽減して生産性を守る「フェムテック」について教えてください。
加藤先生
フェムテックとは、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決するヘルスケア分野のことを指します。生理周期の管理にとどまらず、妊活・不妊治療、妊娠・出産、更年期症状など、幅広い領域をカバーしています。PMS(月経前症候群)は、月経前の3〜10日間に現れる身体的・精神的な症状であり、イライラ、抑うつ、頭痛、乳房痛、むくみなどが代表的です。これは女性ホルモンの変動に対する個人の反応性の違いによって生じるとされ、原因はまだ完全には解明されていません。
編集部
実際には、どのようなアプローチがされているのでしょうか?
加藤先生
主なアプローチとしては、生理周期予測アプリによるホルモン変動の可視化、低用量ピルやIUD(子宮内避妊器具)による医学的介入、さらには骨盤底筋トレーニングアプリの活用などが挙げられます。こうした技術を活用することで、女性の社会参加や生産性の向上を目指しています。
編集部
男性の更年期についても教えてください。
加藤先生
男性更年期とは、テストステロンが20代をピークに低下していくことで引き起こされる一連の症状群です。性機能の低下だけでなく、精神面への影響も大きく、年代によってその特徴が異なります。30〜50代では、ストレス性の男性更年期が見られます。慢性的なストレスが主な原因となり、テストステロンの低下によって、やる気の消失や活力の低下、不安感、対人関係への億劫さ、易疲労感などが現れます。うつ病と誤診されることも多く、現代のビジネス環境における過労やプレッシャーが引き金となっているケースが少なくありません。60代以降では、加齢性の男性更年期が中心になります。これはテストステロンの自然な加齢的減少によるもので、筋力の低下や体調不良など、身体的な症状が主に現れます。運動不足や食生活の乱れが、こうした減少をさらに加速させる一因となります。改善策としては、適度な運動や質の良い睡眠(副交感神経を優位にしてテストステロン分泌を促進)、バランスの取れた栄養摂取、そしてストレスの軽減が基本となります。
編集部まとめ
「もっと頑張らなきゃ」と無理を重ねてきた人ほど、正しい休み方を学ぶ必要があるのかもしれません。加藤先生のお話からは、疲労の背景にある自律神経やホルモン、腸内環境など、医学的な視点に基づいた具体的な改善策が見えてきました。大切なのは、感覚に頼らず、科学的に“戦略的に休む”という視点ということだと学びました。本稿が読者の皆様にとって、自分自身のコンディションと向き合い、日々の休養を見直すきっかけとなりましたら幸いです。




