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「膵臓がん」になるリスクがある『膵嚢胞』をご存じですか? 放置するとどうなる?【医師解説】

 更新日:2025/11/26

膵嚢胞(すいのうほう)は膵臓にできる液体のたまった袋状の病変で、多くは良性ですが、中にはがんに進行するタイプもあります。放っておいていいのか、経過観察や治療が必要なのか、正しい理解が大切です。花田内科胃腸科医院の花田先生に詳しく教えてもらいました。

花田 亮太

監修医師
花田 亮太(花田内科胃腸科医院)

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昭和大学(現・昭和医科大学)医学部卒業。川崎市立川崎病院初期研修医、川崎市立川崎病院総合内科、川崎市立川崎病院内科(現在、非常勤。週2回胆・膵内視鏡検査に従事)。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医、神奈川県内緩和ケア研修会修了、TNT(Total nutrition therapy)研修会修了、嚥下機能評価研修会修了、難病指定医。

膵嚢胞とは? 良性? がん化のリスクもある?

膵嚢胞とは? 良性? がん化のリスクもある?

編集部編集部

膵嚢胞とはどんな疾患ですか?

花田 先生花田先生

膵嚢胞とは、膵臓にできる液体のたまり(袋状の病変)のことをいいます。大きさは数mmから10cm以上と幅広く、ひとつだけ見つかる場合もあれば、複数見つかることもあります。その多くは良性ですが、種類によっては将来がん化する可能性のあるものも含まれます。膵嚢胞は多くが症状を伴わず、人間ドックや健康診断などの腹部エコー、CTやMRI検査などで偶然見つかることが多いとされています。

編集部編集部

「がん」になるものもあるのですね。

花田 先生花田先生

膵嚢胞にはさまざまな種類があります。その多くは良性ですが、中には長い年月をかけてがんに進展する可能性をもつものもあります。その代表が「IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)」と言われるタイプです。膵嚢胞の中では比較的よくみられるタイプで、多くは良性のまま経過しますが、一部では時間の経過とともにがん化することがあります。さらに、IPMNがある人は、嚢胞そのものががんになるだけでなく、膵臓のほかの場所にもがんができやすいことが知られています。一方で、膵炎のあとにできる「仮性膵嚢胞」のように、がんとは関係のない良性のものもあります。

編集部編集部

膵嚢胞の種類、良性と悪性はどのように判断されるのですか?

花田 先生花田先生

MRIやCT、超音波内視鏡などの画像検査で嚢胞の性質を詳しく調べることが基本です。さらに、年齢や性別、家族歴、これまでの病歴(膵炎や糖尿病など)といった背景因子も、嚢胞の種類を診断するうえで欠かせない情報です。

編集部編集部

膵嚢胞はすぐにがん化するのですか?

花田 先生花田先生

いいえ。がん化の可能性がある膵嚢胞でも、すぐにがんになるわけではありません。実際には、数年から十数年という長い経過の中で、少しずつがんの発生のリスクが高まっていくと考えられています。

膵嚢胞の原因は? 症状は?

膵嚢胞の原因は? 症状は?

編集部編集部

膵嚢胞はなぜできるのですか?

花田 先生花田先生

膵嚢胞の原因は、その種類によって異なります。たとえば「仮性膵嚢胞」と呼ばれるタイプは、膵臓の炎症に伴ってできます。一方で、炎症とは関係なく自然に発生する嚢胞もあります。検診や人間ドックで見つかる膵嚢胞の多くはこのタイプです。こうした嚢胞は加齢に伴って発生することがあったり、体質や遺伝的な要因が関係していたりする場合もあります。中には、長い年月をかけてがんに進展する可能性をもつものも含まれるため注意が必要です。

編集部編集部

どんな人がなりやすいのですか?

花田 先生花田先生

膵嚢胞の種類によって、「なりやすい人」の特徴は異なります。たとえば、IPMNは中高年の男性に多くみられます。一方で、MCN(粘液性嚢胞性腫瘍)と言われるタイプは、中年の女性に多いことが知られており、IPMNと同様にがんに進展するリスクがあります。また、糖尿病や肥満のある人、家族に膵臓がんの人がいる場合は、膵臓がんそのものができやすいと考えられており、膵嚢胞が見つかった際には「がんが隠れていないかどうか」を慎重に確認することが大切です。

編集部編集部

どのような症状が見られますか?

花田 先生花田先生

膵嚢胞の多くは、自覚症状はありません。ただし、嚢胞が大きくなったり、あるいはがん化して進行したりすると、お腹の違和感や痛み、背中の痛みを感じることがあります。まれに、膵臓の中を通る胆管や膵管を圧迫し、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、肝機能の異常、食欲低下などを引き起こすこともあります。

編集部編集部

嚢胞を放置するとどうなるのですか?

花田 先生花田先生

膵嚢胞の中には、時間の経過とともにがんに進展する可能性があるタイプもあるため注意が必要です。ただし、すべての膵嚢胞ががんになるわけではありません。リスクが高い嚢胞をしっかり見極め、適切なタイミングで定期的に検査を続けることが大切です。膵臓がんは症状が出たときには進行していることが多く、治療が難しいがんのひとつです。しかし、早期に発見できれば治療成績は大きく改善することもわかっています。

早期発見に必要な検査は? 治療法は?

早期発見に必要な検査は? 治療法は?

編集部編集部

膵嚢胞を見つけるにはどんな検査を受ければよいですか?

花田 先生花田先生

膵嚢胞を調べる方法はいくつかあります。まず、一般的な健康診断などでおこなわれる腹部超音波検査でも膵臓を確認できます。ただし、膵臓は胃の裏側にあるため、体格や胃のガスの影響で見えづらいことがあり、特に肥満のある人では観察が難しいことがあります。そのため、より詳しく調べるにはMRIやCT、超音波内視鏡検査(EUS)が有効です。これらの検査では嚢胞の大きさや内部の性状を詳しく評価でき、膵嚢胞の性質やがん化のリスクを判断するのにも役立ちます。

編集部編集部

発見された場合、すぐに手術が必要になるのですか?

花田 先生花田先生

いいえ、膵嚢胞が見つかったからといって、すぐに手術が必要になるわけではありません。発見された時点でがんが強く疑われる場合には手術を検討しますが、そうしたケースは多くはありません。多くの場合は、定期的な画像検査で経過を観察します。ただし、嚢胞が急激に大きくなる場合や、内部にしこりのような部分(腫瘤)が見つかる場合には、がん化が疑われるため手術を検討することがあります。

編集部編集部

経過観察中はどのくらいの頻度で検査をしますか?

花田 先生花田先生

膵嚢胞の大きさや性質によって検査の間隔は異なりますが、一般的には6カ月から1年ごとに腹部エコーやMRI検査をおこない、嚢胞に変化がないかどうかを確認します。もしMRIで大きさの変化や内部に異常が見られた場合には、超音波内視鏡などの精密検査を追加し、より詳しく調べることがあります。一方で、長期間にわたって嚢胞の状態が安定している場合には、医師の判断で検査の間隔を延ばしたり、検査を終了したりすることもあります。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

花田 先生花田先生

膵嚢胞は多くの場合、すぐに命にかかわるものではなく、定期的に経過をみることで安心して過ごせます。ただし、一部には将来的にがんに進展する可能性をもつタイプもあるため、医師の指示に従って検査を続けることが大切です。「がんになるのでは」と過度に不安を抱く必要はありません。大切なのは、自分の嚢胞のタイプを正しく知り、必要に応じて検査や治療を受けていくことです。膵臓がんは進行すると治療が難しい病気ですが、早期発見できれば治療成績は大きく向上します。したがって、定期検査が必要とされた場合には放置せず、きちんと受けることが重要です。

編集部まとめ

がんのなかでも膵臓がんは治療が難しいもののひとつ。そのため、膵嚢胞ができると不安になる人も多いと思います。しかしすべてががん化するわけではないので、まずは医師の指示に従って適切に検査や治療をおこなうこと。家族歴がある場合などはあらかじめ膵嚢胞や膵臓がんについての知識を仕入れておくと、いざというとき安心かもしれませんね。

医院情報

花田内科胃腸科医院

花田内科胃腸科医院
所在地 〒210-0834 神奈川県川崎市川崎区大島4丁目16-1
アクセス 「川崎市バス」または「臨港バス」にて『大島四丁目』バス停下車より徒歩2~3分
診療科目 消化器内科、内科

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