救急医療の“ボトルネック”を突破せよ──順天堂医院 救急科が受け入れ数最多を記録した舞台裏(2/2ページ)

JスタットコールとHCU――急変・中等症を支える緩衝機能

編集部
院内での急変時対応に関する「Jスタットコール」についても、少しお話を伺えますか? まず、「Jスタットコール」とはどういったものか簡単にご説明いただけますか?
近藤教授
順天堂医院では、このコールが全館に響くように設定されており、迅速な対応が求められます。ただし、特定の疾患においては、対応する医師の専門性によって判断が難しい場合もあります。そこで、救急科が中心となって全体の対応にあたる体制を整えています。
編集部
現在は救急科が中心となって対応していると伺いましたが、以前はどのような体制だったのでしょうか?
近藤教授
急変の原因検索や、必要に応じた気管挿管、心肺蘇生などにも対応しています。眼科や耳鼻咽喉科の患者さんであっても、状況によっては重症化することがあるため、そうした患者さんも対象としています。
また、最初は救急科が診療を担当し、状態が安定したら本来の診療科である眼科や耳鼻科へと引き継ぐ、といった運用もおこなっています。以前は救急科の人手不足により対応が困難でしたが、今年からは体制が整い、こうした取り組みも本格的に始めることができています。
編集部
次に、HCU(ハイケアユニット)の役割についても、工夫されている点があるとうかがいました。
近藤教授
必要に応じてICUへ移動したり、状態が安定したら精神科へ転科したりと、緩衝的な役割を果たすHCUの存在は、当院において非常に重要な位置づけとなっています。
編集部
総合診療科との連携について、あまり聞いたことがない連携なのですが、順天堂独自の取り組みなのでしょうか?
近藤教授
総合診療科は、とくに重症よりはやや落ち着いた内科寄りの疾患が得意な科です。入院を基本的には総合診療科と救急科で一旦は受け止めて、その後落ち着いたところで各科にお願いするような体制をとっています。
そうすることで救急がパンクせずにうまく回っています。救急科で大変なときには総合診療科にお願いしたり、総合診療科が大変なときは救急科で診たりするなど、お互いに助け合ってやっているような形ですね。この二つの診療科が両立する病院は少ないと思うのですが、そこのコミュニケーションを順天堂医院ではすごく大事にして、うまくいっているのだと思います。
桑鶴院長
当院の救急科と総合診療科のトップ二人が率いて、互いの診療科を高め合っていく構図になっているのが、うまくいっている理由なのではないかと思っています。
救急救命士の配置と院内搬送ネットワーク――タスクシフトの成果

編集部
救急科では救急救命士を雇用されたとのことですが、それが病院にとってどのような利益をもたらしているか教えていただけますか?
近藤教授
まずその電話対応を救急救命士にお願いするところから始めて、さらに看護師が自分たちの受け持ちで手一杯になったときには、検査への移動や処置の準備など看護業務の一部も担ってもらっています。今後は新しく転院搬送もやろうと思っています。
病院全体として稼働が上がって病床が埋まっている状況となり、今後はそれをいかに効率よく出していくかが大事なところです。救命士の力を借りて、ほかの病院、とくに附属病院に患者さんを搬送することを強化していきたいと思っています。
桑鶴院長
近藤教授
桑鶴院長
救急救命士の配属が救急科になっているので、救急科の医師とのコミュニケーションが取りやすいということも重要な点だと思います。
近藤教授
編集部
とても興味深い取り組みをたくさん伺うことができたのですが、順天堂医院ではどうして組織改革に前向きに取り組めるのでしょうか?
近藤教授
桑鶴院長
近藤教授
編集部
すごいことですね。最後に先生のご専門でもある敗血症について、とくに順天堂医院さんでやっていらっしゃる取り組みがありましたら教えてください。
近藤教授
これまでの研究の多くは敗血症を治すことに目が向いてきました。実際に亡くなる方の多い疾患なのですが、治る人も増えてきています。そこで今は、治った後にいかに後遺症を残さないかが重要になってきています。
その辺りに着目して、例えば敗血症になった後に認知機能障害を防げないかとか、筋肉の障害を防げないか、そういった研究を進めているところです。具体的には新しい治療薬を作るとかメカニズムを解明するとか、そんな研究を進めています。
編集部
最後に救急科の展望、未来について一言お願いします。
近藤教授
その中で順天堂医院にできることとして、まずは元々通院している患者さんが亡くなりそうだったり何かあったりするときには対応するのが最も重要な使命ですし、かかりつけの患者さん以外でも命に関わる疾患だったり、困ったりしたときにすぐに順天堂に来ていただけるようなシステムを作りたいと思っています。将来的には日本一の救急にしたいと考えています。
編集部まとめ
順天堂医院救急科では、多職種連携や診療体制の柔軟化、専用病床の整備を通じて、救急受け入れ件数の過去最多を実現しました。救急救命士やNPの活用、総合診療科との協力体制、JスタットコールやHCUによる急変対応など、院内全体のフロー改善にも取り組んでいます。背景には、現場の声をすぐに反映できる組織文化と、現代の救急医療ニーズに即した先進的な取り組みがありました。本稿が読者の皆様にとって、今後の医療体制のあり方を考えるきっかけとなりましたら幸いです。




