肥満だとなぜ「2型糖尿病」になりやすいのかご存じですか? リスク7倍の研究も【医師解説】

現在、糖尿病の患者数が増えています。肥満は糖尿病の発症リスクを高める重要な因子。裏返せば、肥満を解消することで糖尿病のリスクも低下できるということです。一体なぜ、肥満だと糖尿病になりやすいのか、 竹の塚糖尿病内科・ヒフ科の佐藤先生に聞きました。

監修医師:
佐藤 元律(竹の塚糖尿病内科・ヒフ科)
なぜ肥満だと糖尿病になりやすいのか?

編集部
はじめに、糖尿病について簡単に教えてください。
佐藤先生
糖尿病は、血糖値を下げる働きを持つインスリンの分泌量が低下(インスリン分泌低下)したり、インスリンが十分に働かなくなったり(インスリン抵抗性)することで、血糖値が慢性的に高くなる病気です。
編集部
なぜ肥満がインスリンの働きを悪くするのですか?
佐藤先生
肥満により皮下脂肪に脂肪が貯めきれなくなると、普通はつかない場所に脂肪がつく異所性脂肪蓄積がおこることにより、インスリンが十分に働かなくなるインスリン抵抗性が惹起(じゃっき)され、糖尿病の発症リスクが高まります。
編集部
普通は脂肪がつかない場所とはどこですか?
佐藤先生
普通はついてはいけない場所とは肝臓や筋肉、腸間膜などのことです。それぞれにつく脂肪を、脂肪肝、脂肪筋、内臓脂肪といいます。この脂肪が増えるとインスリンの働きが阻害され、血糖値が上がりやすくなります。
編集部
体重が増えただけで糖尿病になるのでしょうか?
佐藤先生
必ずしも体重の増加だけで糖尿病になるわけでなく、異所性脂肪蓄積の量や生活習慣、遺伝的なインスリンの分泌能力が関係します。逆に体重自体は重くなくても、生活習慣が崩れていたり、遺伝的に異所性脂肪がつきやすかったり、インスリン分泌能力が低かったりすると糖尿病になってしまう人もいます。日本人にこのタイプの非肥満糖尿病患者は多いのです。しかしながら、肥満の人は太っていない人に比べて糖尿病のリスクが数倍に上がるのは確かです。研究にもよりますが、肥満は2型糖尿病の発症リスクを2~7倍増加させることがわかっています。
肥満の目安は? 危険な肥満のタイプは?

編集部
肥満かどうかは、どのように判断すればよいですか?
佐藤先生
BMI(体格指数)という数値で判断するのが一般的で、「BMI=体重(kg)÷身長(m)²」で計算され、25以上が肥満とされています。ただし、体組成も大事で、同じ体重でも筋肉量の多い人と少ない人では糖尿病になるリスクは違うため、一概に体重だけで判断はできません。参考程度に考えておくとよいでしょう。
編集部
肥満の中でも、特に注意が必要なタイプはありますか?
佐藤先生
はい。特に注意すべきなのは異所性脂肪型肥満です。前述した通り、肝臓や筋肉、腸間膜などに脂肪が溜まるタイプの肥満の人は、見た目はそれほど太っていなくても、生活習慣病のリスクが高いのが特徴です。
編集部
自分の肥満のタイプをどうやって見分けるのですか?
佐藤先生
内臓脂肪が多いか、脂肪肝かは、ウエスト周囲径が目安になります。男性で85cm以上、女性で90cm以上あると、内臓脂肪が多く脂肪肝の可能性が高いとされています。一般に健康診断などで腹囲を測るのは、このリスクをチェックするためです。脂肪筋蓄積の簡便な見分け方に関しては、まだ研究段階です。
編集部
体重やBMIが問題なければ安心ですか?
佐藤先生
いいえ、体重やBMIは正常でも、筋肉が少なく脂肪が多い状態だと「隠れ肥満」の可能性があります。特にデスクワーク中心で運動不足の人に多く、見た目では分かりにくいですが、糖尿病をはじめとする生活習慣病のリスクが高くなります。
肥満を改善するには?

編集部
糖尿病予防のために、体重をどれくらい減らせばよいですか?
佐藤先生
さまざまな研究で、体重の5〜10%程度を減らすと、インスリンの効きが改善され、糖尿病の発症リスクを大きく下げられると言われています。逆に、肥満の糖尿病患者さんが10%以上体重を減らすと、大部分の人が「糖尿病寛解に近い状態になる」ともされています。ただし、無理に急激な減量をするのではなく、1カ月に1〜2kgでもいいので、無理のないペースで減量を継続することが大切です。
編集部
肥満解消のための基本的な食事のポイントとは?
佐藤先生
食べすぎを防ぎ、栄養バランスを整えることが大切です。糖質や脂質の摂りすぎに注意し、野菜、蛋白質、食物繊維をしっかり取ることを心がけましょう。間食やジュースが多い人は、それらを減らすだけでも減量に役立ちます。
編集部
運動にはどんな内容を取り入れればいいですか?
佐藤先生
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が基本です。週150分以上を目安に、1日30分程度の運動を無理のない範囲で継続しましょう。筋トレも同様に血糖改善に有効です。運動習慣のない人は、はじめは運動を続けることがつらく感じられるかもしれませんが、最初はもっと短時間でもよいので続けていくことが大切です。
編集部
どうしても自力で痩せられないときには?
佐藤先生
医師のサポートを受けながら減量に取り組むこともできます。栄養指導や運動療法、場合によっては薬物療法や肥満外科手術を併用することもあります。近年では肥満外来を設けている医療機関もありますから、そうしたところを受診して相談してみるとよいと思います。一人で抱え込まず、医療機関や専門家の支援を受けながら進めることが大切です。
編集部
最後に、メディカルドック読者へのメッセージがあれば。
佐藤先生
健診で「肥満」と指摘された場合、現在は異常がなくても将来的になんらかの病気を発症するリスクが高くなります。また、体重は問題がなくても筋肉が少なく、異所性脂肪が多い「隠れ肥満」の人も増えています。普段から活動量が少ない人は、少しでも体を動かす習慣をつけましょう。また、気になることがあれば躊躇せずに医療機関を受診してください。
編集部まとめ
糖尿病と肥満は深く関係しており、特に異所性脂肪が多いとインスリンの働きが悪くなり、糖尿病を惹き起こしやすくなります。体重だけで判断せず、生活習慣や体組成にも注目が必要ですね。
医院情報

| 所在地 | 〒121-0801 東京都足立区東伊興3丁目3-2 |
| アクセス | 東武伊勢崎線「竹ノ塚」駅より徒歩5分 |
| 診療科目 | 糖尿病内科、内分泌内科、皮膚科 |




