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【闘病】まさか看護師の私が“難病”になるとは… 「重症筋無力症」で甲状腺は全摘出

 更新日:2025/07/23
【闘病】まさか看護師の自分が難病になるとは… 「重症筋無力症」で体力の限界感じ無職に

重症筋無力症診断されたきっかけは、道路の車線が7本に見えて眼科を受診したことでした。それまでも体力の低下などの予兆に悩まされていましたが、なかなか診断にはいたらなかったそうです。病気になり、自分で自分のことができる幸せに改めて気づかされたと言うMG・Tさん(仮称)。どのような困難や治療をされたのかを詳しく聞いてみましょう。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年2月取材。

MG・Tさん

体験者プロフィール
MG・T(仮称)

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60代の夫婦二人暮らし。2017年に重症筋無力症を発症。当時は看護師だったが、病気のため退職を余儀なくされる。発症から点滴とステロイド剤の服用を続ける。2019年には胸腺全摘出、2021年には甲状腺全摘出の手術をしている。点滴治療は発症から6年近くは、年に3、4回ほど5日間の入院をしておこなっていた。その後、新薬が出たため現在は2カ月に1回の通院での点滴治療になり、症状も改善された。今では、休みを入れながら家事や趣味のアクリル画などに励んでいる。

診断にいたるまでの長い道のりと現在までの治療

診断にいたるまでの長い道のりと現在までの治療

編集部編集部

まずは重症筋無力症について教えていただけますか?

MG・TさんMG・Tさん

重症筋無力症は、体の免疫系が神経筋結合部を攻撃して、神経から筋肉に信号が伝わりにくくなる自己免疫疾患です。全身の筋力低下や脱力感、疲れやすさを感じるようになり、特に眼瞼下垂(まぶたが瞳を隠すような状態)や全身に力が入りにくくなるなどの症状が起きます。

編集部編集部

MG・Tさんの主な症状はどのようなものですか?

MG・TさんMG・Tさん

私は全身型の重症筋無力症で、頸部、体幹の筋力低下があります。座位、立位姿勢の保持が難しく、室内で休める環境を要する状態なので、ひじ掛けや背もたれのない椅子に座ることがきついです。

編集部編集部

病院を受診するきっかけは何でしたか?

MG・TさんMG・Tさん

複視(物が2つあるいはそれ以上に見える症状のこと)です。道路の車線が7本に見えました。乱視が酷くなったと思い眼科を受診しましたが、そのあと大学病院の脳神経内科を紹介されました。

編集部編集部

医師からはどんな説明がありましたか?

MG・TさんMG・Tさん

病名を告げられ、今後は免疫グロブリン療法、ステロイド療法をおこなわなければならないと言われました。複視に関しては、コリンエステラーゼ阻害薬(メスチノン)という薬でピタッと焦点が合うようになりました。

編集部編集部

病気発覚時のMG・Tさんのお気持ちをお聞かせください。

MG・TさんMG・Tさん

まさか、健康であると思っていた自分が難病になるなんて……」と思いましたし、今後どうなっていくのか不安でした。

編集部編集部

診断時から今まで、どのような治療をしていますか?

MG・TさんMG・Tさん

2017年から2021年まで年に3~4回ほど免疫グロブリン療法(入院して5日間の点滴治療)を受けましたが、状態の改善は見られませんでした。そのため、2021年からは、新しく承認が下りた抗補体製剤(ソリリス)の点滴を2週間に1回(約1時間)、外来で受けました。その間の2019年に胸腺全摘出、2021年には甲状腺全摘出をしました。2022年からは、以前の抗補体製剤(ソリリス)から同抗補体製剤(ユルトミリス)の点滴に変え、2カ月に1回の通院でよくなり、だいぶ治療が楽になりました。内服薬として、免疫抑制剤、ステロイド5mg、甲状腺全摘出しているので、チラーヂン(甲状腺の手術などにより不足している甲状腺ホルモンを補う薬)も服用中です。

大好きな仕事を諦める悔しさ

大好きな仕事を諦める悔しさ

グロブリン治療を入院して行っていた時の朝と夜の比較。顔面の筋肉が落ちている

編集部編集部

MG・Tさんの中で何が一番つらくて大変でしたか?

MG・TさんMG・Tさん

体力の低下や疲れやすさの症状が悪化したことです。見た目では病気を抱えているようには見えないので、他者からは甘えにしか見られないだろうと思い、外出が怖くなりました。また、看護師という仕事が好きでしたので、体力の限界からその仕事を諦めなければいけないという現実に直面したときはつらかったです。

編集部編集部

仕事を諦めるまでに、どんな思いがありましたか?

MG・TさんMG・Tさん

たとえば、提出書類の職業欄に30年近く「看護師」と書いていたのに、「無職」と書かなければいけないときに悔しさを感じました。診断前には、体力のない自分を責め、ジョギングや水泳に挑戦していました。看護師という仕事は、すごく体力を必要とします。立っていることも座っていることもつらくて、足が一歩も踏み出せなくなったり、呼吸がしにくくなったりしました。なぜ私はこんなに弱いのだろう、きついのはみんな同じだと思い弱音が吐けなかった時期は、精神的にもかなり苦しかったです。

編集部編集部

責任感から弱さと捉えていたのかもしれないですね。

MG・TさんMG・Tさん

どんなにきつくてつらくても、看護師として患者さんの前では元気でいなければいけないと思って仕事をしていました。病名が分かり、今までの苦痛の原因の謎が解けたときはすっきりしました。しかし、お給料を頂いて制服を着ている以上、自分で無理だと思うことも、できないとは言えず仕事を辞めざるを得なくなりました。誰かに責められたとかではなく、自分で限界だと理解した結果です。仕事をしている友人に会うと、うらやましく思っていましたが、今ではこの病気と10年付き合う中で、しっかり向きあう心ができたと思います。

編集部編集部

MG・Tさんにとって、病気に向き合う原動力とは何でしょうか?

MG・TさんMG・Tさん

症状が重いときなどは、家族にかなり迷惑をかけたと思います。この病気と併発して良性発作性頭位めまい症(※)を発症したときは、「ベッドから自分で起きられず、座れない、横にもなれない、その間に吐く」ということを一晩に50回以上繰り返し、つきっきりで看病してもらいました。日常でも重いものは持ってもらい、調子の悪いときは手助けしてもらっています。病気を理解してくれている主人には感謝しています。仕事から帰ってきた主人のためにおいしいものを作って喜んでもらうことが励みになり、それが原動力となっているのかもしれません。それと、今は趣味でアクリル画や水彩色鉛筆で絵をかいています。自分のペースで制作できるので、完成するとモチベーションにもつながります。

※めまいの中でも最も頻度が高い病気の一つ。頭を動かしたときに、周りがグルグルとするようなめまい症状が数秒から数分程度続く。吐き気を伴うこともある

編集部編集部

現在の体調や生活はどうですか?

MG・TさんMG・Tさん

新薬である抗補体製剤(ソリリス)を開始して、足運びがこんなに軽かったのかと感じられ、休めるところがあれば日常生活はおこなえるようになりました。たとえば、洗濯物を干すとき心臓の位置より腕を上げるのがきついので、物干しを工夫したり、炊事は途中で休みながらおこなったりと、自分なりの工夫をしていけば日常生活は可能です。現在は抗補体製剤(ユルトミリス)の点滴に変え、以前に比べると頻繁に通院しなくても済んでいます。

見た目では分かりづらい病気もあると理解してほしい

見た目では分かりづらい病気もあると理解してほしい

編集部編集部

この病気について、あまり詳しく知らない人に伝えたいことは何ですか?

MG・TさんMG・Tさん

「重症」と病名につくとかなりやばい病気のように思われがちですが、完治は難しくても薬でコントロールはしやすいと思います。全身型になると筋力の低下は人それぞれで、呼吸筋にダメージがあると呼吸器をつけなくてはいけない状態にもなります。私も風邪の悪化で呼吸がしづらくなり、死を感じたこともありました。なかには、下肢に力が入らず、車いすの人もいます。私の場合だと主に頸部、体幹の筋力低下があり、症状の悪化時は、椅子に座ってお辞儀をする態勢をとると自力で体が起こせず、前に転がってしまいそうになります。上腕の筋力もなく、車いすもこげませんし、杖も使えず、補助具も使用していません。移動時は、ゆっくり体勢を真っ直ぐにして道の端を歩きます。やむを得ずヘルプマークをつけるときがありますが、見た目だけだと理解されにくいと思い、ヘルプマークと一緒に病名とかかりつけ病院を書いたものをつけて外出しています。

編集部編集部

医療従事者に期待することはありますか?

MG・TさんMG・Tさん

今は大学病院に通院して治療しています。医師はもちろんスタッフも、病気の症状を理解して対応してくれるので感謝しています。

編集部編集部

最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。

MG・TさんMG・Tさん

早期発見、早期治療が望ましいとは思いますが、この病気はなかなか発見するのが難しいのかもしれません。私も激しく複視が出るまで重症筋無力症だと分かりませんでした。それでも今は治療法の幅が広がり治療薬も新しいものが出てきています。重症筋無力症と診断がついても、医師と相談しながら自分に合った治療を見つけることができれば、生活の質を保つことは可能だと思います。確定診断にいたるまで、そして、理解ある医師に出会うまでが一番困難なのかもしれません。皆さんにも、いつ何が自分に降りかかってくるか分かりません。今できることを大切に生きていってほしいです。

編集部まとめ

原因不明の体調不良が続いたのち、重症筋無力症と診断されたMG・Tさん。大好きな仕事を諦めるまで、大きな葛藤や悔しさがあったようです。また、外見からは病気だと認識されづらく、ヘルプマークのほかに、病名などを記載したものもつけているそうです。私たちのほんの少しの想像力と理解で、闘病中や援助を必要としているかたが住みやすい社会になるのではないのでしょうか。この闘病記がそのきっかけとなりますように。

なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

村上 友太

記事監修医師
村上 友太(東京予防クリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

この記事の監修医師