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【闘病】検査で”良性”だったはずなのに… 「乳がん」に奪われた肉体の一部と日常生活

 更新日:2025/07/16

乳がんになり乳房全摘術を経験した石川由里子さん。最初は良性腫瘍と判定されたものの、浸出液の出現や自分の違和感を信じて行動した結果、乳がんの発見につながったと言います。石川さんの談話から乳がん検診の重要性、がん治療の実際、早期発見に何が重要になるのかを知る機会にしましょう。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年2月取材。

石川 由里子さん

体験者プロフィール
石川 由里子

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40代女性。2023年12月に乳がん検診で要検査となり、翌年1月に大学病院を受診したところ左乳房腫瘍が見つかり、細胞診検査を実施した。このとき、検査結果は「良性」だったが、経過観察で同年6月に超音波検査をおこなったところ、腫瘍が2倍まで大きくなっていた。不安を抱えながら過ごしていると、7月頃に左乳頭から黄色い透明な分泌物が出始めた。8月に針生検を希望し、良性だと思われていた腫瘍が「悪性」であり、全摘術が必要との告知を受けた。10月に手術をおこない、ホルモン療法をおこないながら経過観察を続けている。

「良性腫瘍」のはずなのに急速な増大と浸出液に不安を感じた

「良性腫瘍」のはずなのに急速な増大と浸出液に不安を感じた

編集部編集部

最初に石川さんの闘病体験を通して、読者に最も伝えたいことは何でしょうか?

石川 由里子さん石川さん

たとえ乳がん検診を受けて要検査になっても、運が悪いと悪性でも良性と診断されてしまいます。これは誤診ではなく、がんは隠れるのがうまいと言われています。私の場合もきっとそのせいで、なかなか気付けなかったのでしょう。最初に「良性」と言われたとき、「早い段階でセカンドオピニオンを受けていれば、ステージ0だったかもしれない……」と今では後悔しています。ですから、乳がん検診を受ける人や要検査と指摘された人は、自分の不安や直感を大事にしてほしいです。信じられるのは、体のことを一番わかっている自分自身です。

編集部編集部

それでは、今の治療の状況や体調について教えていただけますか?

石川 由里子さん石川さん

(24年)10月に乳房全摘術+乳房再建術をおこないました。センチネルリンパ節への転移はなく、ステージ1でした。私のがんは浸潤がんで、ホルモン受容体・HER2たんぱくともに陽性、Ki67は20%でした。幸いホルモン療法が効くタイプだったため、タモキシフェンによるホルモン療法をおこない、リハビリテーションをして過ごしています。ただし、タモキシフェンの副作用で酷い関節痛と全身倦怠感、精神的には抑うつ状態が続いており、決して万全の体調とは言い難いです。

編集部編集部

病気が判明するまでの経緯についても教えていただけますか?

石川 由里子さん石川さん

もともとは2023年12月の乳がん検診で「要検査」となったことが始まりです。大学病院で超音波検査と細胞診を受け、そこでは「良性の腫瘍」との結果が出ました。経過観察のため6月に検査予約を入れていたのですが、その検査で腫瘍が2倍の大きさになっており、不安が強くなりました。そして7月、風呂上がりに左の乳頭から透明な黄色い液体が出たのです。このときはパニックになりながら、次の日に乳腺科を予約しました。

編集部編集部

不安になるお気持ちも理解できます。

石川 由里子さん石川さん

医師からは「良性の腫瘍でも分泌物があることがあります。このまま経過観察でも大丈夫です。もし、不安なら針生検しますか? 痛い検査ですが決めてください」と話があり、私は不安だったので検査をお願いしました。そして8月に針生検をおこなったところ、医師から「結果はがんでした。乳腺に広がっているため、全摘出する必要があります」と告げられました。私は「あれだけ良性と言われていたから、良性で診察も終わるだろう」と考えていただけに、ショックで呆然としました。

編集部編集部

医師からはどのように治療を進めるとの説明があったのでしょうか?

石川 由里子さん石川さん

まずは、手術で左乳房を全摘すると説明されました。それから、その日のうちに手術適応か調べるためにあらゆる検査を受けました。手術前の時点でステージ0だったため、全摘後は普通に生活できるという説明でした。

編集部編集部

当時の心境を思い出せる範囲で教えていただけますか?

石川 由里子さん石川さん

私は一生外科や手術とは無縁だと思っていました。もともと内科の持病はあったので、何度も入院経験はありましたが、外科は一度も無かったので安心しきっていました。そんな私ががんになるなんて思ってもみなかったです。がん家系でもなかったので、それはもう驚いて、告知を受けたときは頭が真っ白になり、無の状態になりました。悲しんだり、泣いたりしなかったのは、すぐには受け入れられなかったからだと思います。

医師の言葉や友人との会話を通じて前向きさを取り戻した

医師の言葉や友人との会話を通じて前向きさを取り戻した

編集部編集部

乳がんであることを宣告されてから、生活や心境にどのような変化がありましたか?

石川 由里子さん石川さん

私よりも母のショックが大きく、YouTubeを見てはがんによい食材、食事を探して取り入れていました。最近、乳がんは比較的生存率の高いがんになりつつあると知っていましたが、身近な友達のお母さんが乳がんで亡くなっているのを知っていたため、少なからず死を感じるようになりました。また、乳がんは再発率が高いがんなので、少しでも体調に変化があると、「転移したのでは……?」と不安になっていました。ですが、麻酔科医の先輩と話しているうちに「いくら身体に気を配っていても再発するときはする。治療法が無くなれば死ぬときは死ぬ」と思うようになりました。

編集部編集部

それがポジティブに働いた?

石川 由里子さん石川さん

はい。そう思ったら、気分が晴れ晴れとしてきて、不謹慎かもしれませんが「人はやがて死を迎える。早いか遅いかの違い。楽しいことをたくさんして、いい人生だったと思えればいいや……」と考えられるようになりました。それからはもともとの趣味だったヴァイオリンや海外旅行にも積極的になれてきました。

編集部編集部

石川さんが治療中に心の支えにしていたものはありますか?

石川 由里子さん石川さん

治療中、特につらかったのは入院中でしたが、心の支えは友人の存在でした。私は手術にあたって3週間入院しましたが、その間、常に痛みや不快感がありました。気を紛らわすためにテレビやYouTube、ネットフリックスなどを観て過ごしていました。娯楽こそそれなりにありましたが、それでも入院生活はずっと孤独感との闘いでした。そんな中、1番元気付けられたのは、友人のお見舞いと、遠方に住む友人とのビデオ通話です。アイルランドとイギリスに住む友人と深夜にビデオ通話したのは、本当に楽しかったです。遠く離れていても私のことを心配し、話に付き合ってくれる友人がいる私は恵まれていると感じました。

編集部編集部

病気がわかる前の自分にメッセージができるなら、何を伝えたいですか?

石川 由里子さん石川さん

「ショックで呆然とするとは思いますが、あなたは将来、乳がんになるよ」と伝えたいです。それがきっかけで生活習慣を真剣に見直すことになるでしょうし、乳がんを回避できたかもしれません。それこそ乳房全摘も必要なくなると思います。

がんの手術が終わってからも大変な日々が待っていた

がんの手術が終わってからも大変な日々が待っていた

編集部編集部

現在の体調や生活について教えていただけますか?

石川 由里子さん石川さん

現在、タモキシフェンというお薬を使ったホルモン療法をしています。この薬は5年から10年飲み続けなければならないのですが、今1番つらいのは、タモキシフェンの副作用です。私の場合、関節痛が酷く、抑うつ状態になり、全身倦怠感もあります。そのせいでしばらく寝込んでいた時期もありました。今は薬でコントロールしている状態です。また、乳房再建のためにエキスパンダーという器具で、大胸筋と皮膚を伸ばしているのですが、そのエキスパンダーの違和感が凄くてつらいです。胸に鉄板が張り付いている感覚で、つらくて、乳房再建をやめようかと思ったこともあります。

編集部編集部

がんは手術をして終わりではないということですね。石川さんが日々の生活で心がけていることや取り組んでいることも教えてもらえますか?

石川 由里子さん石川さん

手術前は、「がんを取ってしまえばそれで解決」と思っていましたが、手術後の方が乗り越えなければならない試練が多かったです。そんな日々の中でも楽しいことを見つけて、生活するように心がけています。最近ですと副作用に悩まされながらも、2024年12月には趣味のヴァイオリンの発表会に出ました。そして、2025年2月には海外旅行でブルガリア、ルーマニアに行ってきます。

編集部編集部

がんという病気について、自身の体験から人々に知ってもらいたいことはありますか?

石川 由里子さん石川さん

病気はいつ起こるか誰にもわかりません。それは重要なライフイベントと重なることもあるかも知れません。ですから、健康が当たり前だと思ってはいけません。健康な今だからこそ、当たり前の生活ができていることをわかってほしいです。病気になると人生が一変します。今からでも始められる病気予防対策があったら、まずはやってみてください。「病気で苦しむ人が減ればいいな」と、「がんなら早期発見できる人が多くなればいいな」と心から願っています。

編集部編集部

石川さんから今後の医療従事者に期待することなどはありますか?

石川 由里子さん石川さん

私自身も看護師、保健師の資格を持つ医療従事者ですが、病気になってわかったことも多くありました。だからこそ「患者さんにもっと優しくしたい、励ましたい」と思いました。患者さんも同じ病気を持っても元気に働く医療従事者がいたら、きっともの凄く励みになると思います。ただ、私も医療従事者として経験があるのでわかりますが、医療現場は過酷な労働を強いられています。そんな中で、病気を抱えながら働くことは大変なことです。医療従事者として望むことをいうならば、働く人にとって医療現場がもっと負担の軽い場所になれば、病気を抱えながらでも働ける人が増えるのではないでしょうか。そして、患者もそんな頼もしい医療従事者がいたらつらい治療も頑張れそうです。

編集部編集部

それでは最後に、読者の人に向けてメッセージをお願いできますか。

石川 由里子さん石川さん

がんは私から肉体の一部を奪いましたし、健康なときの当たり前の生活も奪った憎い存在です。それに残念ながら毎年多くの人が亡くなっています。まずは検診を受けて、早期発見、早期治療を目指してください。がんのリスクが高い生活習慣も見直してください。そして、もし仮にがんになってしまったとしても、死を迎えるまでに少しでも時間があるはずです。その時間を大切にしてください。病気の人も病気でない人にも平等に死は訪れます。私はそう考えることで闘病生活を乗り越えています。皆さんも、「楽しくて素晴らしい人生だった」と最後に思えるような日々を送ってもらいたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。

 
寺田 満雄

記事監修医師
寺田 満雄(名古屋市立大学病院乳腺外科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

編集部まとめ

近年、乳がん治療は進んでおり、さまざまな治療法が確立されるとともに生存率も上昇しています。しかし、石川さんのようにステージⅠの段階でも、乳房全摘術が適応になるケースはあります。患者にとって大事な体の一部を失うことは、とてつもない絶望感が襲ってくるものです。石川さんが経験したことを多くの人が知り、「これはおかしいのでは?」と感じたら、直感を信じてセカンドオピニオンを依頼する勇気を持ちましょう。自分の体は自分が最もよくわかっていますから、小さな違和感でも見逃さないことが大切です。

なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

この記事の監修医師