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【闘病】”たかが鼻血”はステージ4『鼻副鼻腔がん』だった 嗅覚失い「もっと検査が早ければ…」

 公開日:2025/05/18
【闘病】たかが鼻血がステージ4『鼻副鼻腔がん』だった 嗅覚失い「もっと検査が早ければ…」

がんは体の様々な部分に発生します。森さんは頻繁に出る鼻血に異変を感じ、かかりつけ医に検査を強く希望しました。その後、鼻副鼻腔がんと診断されました。鼻副鼻腔がんは初期症状が出づらく、痛みを伴わないため、進行した状態で受診する人が多いそうです。このがんによって嗅覚を失った森さんに、これまでの体験を語ってもらいました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年12月取材。

森綾子さん

体験者プロフィール
森 綾子

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神奈川県横須賀市在住、1986年生まれ。診断時はパートをしていたが、現在は家事や育児をしながらゆっくりと過ごしている。2024年6月に鼻副鼻腔がんと判明し、7月にCT、MRI、PET-CT、リンパ節エコーなどの検査をおこない、8月にがん摘出手術を受ける。がんを取り除き追加の化学療法はおこなわず、飲み薬を服用しながら通院中。

症状を軽視せず早めに受診することが大切

症状を軽視せず早めに受診することが大切

編集部編集部

病気が判明した経緯やきっかけについて教えてください。

森綾子さん森さん

2023年の春頃から副鼻腔炎を繰り返し、近所の耳鼻科に通っていました。鼻詰まりなどはそこまでつらくなかったのですが、その年の夏頃から鼻血がたびたび出るようになりました。洗顔時や、鼻をかむと血が混じるようになりました。ほぼ毎日出血していましたね。自分なりに調べると「長引く鼻血は要注意」とあったので少し怖くなり、かかりつけ医の先生に話したのですが、アレルギーやカビが原因のこともあるという説明で、検査はしてもらえませんでした。

編集部編集部

それ以外の症状はありましたか?

森綾子さん森さん

2024年の春頃から家族が感じるにおいが私には鈍く感じられるようになり、食べ物の味もよく分からなくなりました。猫のトイレのにおいも分からず、パンを焦がしても気づきませんでした。これはおかしいと思い、耳鼻科の先生に強く訴えてやっと検査をすることになりました。鼻の内視鏡で内部を見たところ、右側にポリープのようなものがありそうだとのことで、レントゲンを撮りました。白い影があったので、総合病院でCTを取るため紹介状を書いてもらいました。においが分からない原因も、おそらくこのポリープが匂いを感じる神経を圧迫しているからだろうという見解でした。

編集部編集部

その後はどうなりましたか?

森綾子さん森さん

総合病院でのCTの結果もポリープがあるかもとのことでした。内視鏡でもポリープのような物が見えたので、念のため一部組織を取って病理検査に出しました。その結果、悪性腫瘍だということが分かり、すぐに市外の大学病院に転院することになりました。

編集部編集部

病気が判明したときの心境について教えてください。

森綾子さん森さん

ポリープを取り除くかを決める気持ちで来院したので、主治医の先生に「がんです」と言われたときは、他人事のように感じました。何かの間違いではないかとも思い、本当にがんなのか聞き直しました。「信じられない」というのが正直な気持ちだったと思います。

10時間以上の手術と術後の痛み

10時間以上の手術と術後の痛み

編集部編集部

実際にどのような治療をされましたか?

森綾子さん森さん

私の場合は化学療法よりも手術で取り除くのがよいとのことでした。がんが脳の近くまで浸潤していて、鼻からだけではなく脳外科手術も組み合わせての手術となりました。術前検査としては、数回のCT、MRI、血液検査、他臓器への転移がないか調べるPET-CT検査、リンパ節への転移がないかを調べるエコーなどです。幸い、転移などはありませんでした。

編集部編集部

医師から説明を受けたときの印象はどうでしたか?

森綾子さん森さん

手術はできるのか、転移はないかなどを聞くため、診察室に入ったときは怖すぎて夫婦で震えていました。入った瞬間は医療ドラマで見るような感じでお医者さんがずらっと並んでいて、もうダメかもと思いました。手術は10時間以上かかること、嗅神経ごと取り除くため、一生涯においが分からなくなる(嗅覚脱失)ことやリスクなどの説明を受けました。ふわふわしていて半分以上は頭に入らなかったと思います。

編集部編集部

手術前後の様子をお聞かせください。

森綾子さん森さん

手術当日は心細くて涙が出ました。コロナが再流行していたこともあり、家族にも面会できませんでした。麻酔から目覚めるとバットで頭を殴られたくらいの痛みに加え、吐き気と背中から腰にかけても激痛がありました。その日は鼻に詰め物をしているので口呼吸しかできず、喉が渇いても水が飲めなくて本当につらかったです。その痛みは3日間くらい続きました。また術後2日目に、目がパンパンに腫れて物が二重に見えるようになってしまいました。原因は脳外科手術の影響かもしれないとのことでした。

編集部編集部

術後の痛みや症状が大変だったのですね。退院まではいかがでしたか?

森綾子さん森さん

術後4~5日目から少しずつ痛みが落ち着いて頭も動かせるようになり、普通食も食べられるようになりました。ほとんど味が分からないのですが、最初に出たビーフシチューが本当においしかったのを覚えています。

嗅覚を失うという悲しさ

嗅覚を失うという悲しさ

頭の傷痕はほぼ綺麗になり、髪の毛が生えてきている。鼻は外側からの傷がなく、術前と見た目の変化はない

編集部編集部

発症後、生活にどのような変化がありましたか?

森綾子さん森さん

退院直後は目の異常で車の運転はできず、貧血も酷くて午前中は思うように動けませんでした。一番つらかったのは、嗅覚を失ったことです。食べることやお酒を楽しむこと、料理やお菓子作りも好きでしたが、何のにおいも感じないのです。カレーもキムチもガーリックも……。食べる楽しみは半減しました。今まで大好きだったものが、まずく感じてしまい悲しくなります。得意だった料理も、味が分からないので息子に味見をしてもらっています。そのほかにも、生活臭や季節の香り、思い出の香りなどたくさんあると思います。うちは家族でディズニーリゾートに行くのが大好きでよく遊びに行くのですが、入園したときの甘いポップコーンの香りやアトラクションの独特な香りなども一切分からなくて悲しかったです。

編集部編集部

治療中やこれまでに森さんが心の支えにしてきたものは何でしょうか?

森綾子さん森さん

協力してくれた家族や連絡をくれた友人たちです。息子は夏休みだったこともあり、しばらくは実家で預かってもらい、楽しそうな写真を送ってくれました。友人は、お勧め漫画を教えてくれたり、励ましのメッセージを送ってくれたりしました。

編集部編集部

もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?

森綾子さん森さん

おかしいと思ったら医師にはっきり伝えて、それでも解決しなければほかの病院へ行けと言いたいです。

編集部編集部

現在の体調や生活はどうですか?

森綾子さん森さん

脳の手術の影響で頭から右の顔面に麻痺のような痺れと痛みがあります。いつ治るか分からないし、元には戻らないかもしれないと言われました。あとは、手術のときに脳を守るための膜(硬膜)を切除しているので、硬膜を作り直すためにお腹の脂肪を取り、下腹に傷が残りました。見た目には分かりませんが常に顔が痺れて、頭はヘルメットをかぶっているような感覚です。退院後の数カ月は貧血できつかったのですが、薬を飲んで改善され、目もだんだん元に戻って今は普通に運転もできます。ただ、もう何のにおいも分からないのが本当につらいです。

編集部編集部

この病気について、あまり詳しく知らない人に伝えたいことは何ですか。

森綾子さん森さん

鼻のがんは比較的喫煙者の40代以上の男性に多いそうで、「なぜ私なのか」と思いました。健康診断でも鼻は特に詳しい検査はしないし、よほど症状が出ない限り大きな病気とは考えないと思います。鼻腔がんは症状が出たときには進行しているケースが多く、実際私はステージIV Aでした。今後も転移などの恐怖に怯えて生きていかなくてはいけませんが、検査をしたおかげで手術ができ、化学療法なしで生活できています。異変を感じたらすぐに病院に行ってください。

編集部編集部

医療従事者に期待することはありますか?

森綾子さん森さん

最初のクリニックで鼻血が出続けていたのに1年近く検査をしてもらえなかったことは、今でも疑問に思っています。もっと早ければ嗅覚を失わずに済んだのではと思ってしまいます。そして、入院中に泣いていると涙を拭いてくれたり、励ましたりしてくれた看護師さんたちにはとても感謝しています。

編集部編集部

最後に読者へメッセージをお願いします。

森綾子さん森さん

鼻血ががんの症状だなんて想像もしていませんでした。もっと早く気づけば嗅覚を失わずに済んだかもと思うこともあります。でも、がんが見つかって手術ができて今この取材を受けられているだけでもありがたいです。同じくらいの年齢だと、忙しくてなかなか自分の健康にまで気にかけるのは大変だと思います。ご自身のことはもちろん、大切な人達を悲しませないためにも、こういうケースもあると頭の片隅に入れておいていただきたいです。

編集部まとめ

匂いを感じられるというのは、とてもありがたいことなのですね。そして、異変を感じたらすぐに受診する大切さを改めて気づかされました。がんは体のあらゆる部分にでき、小さな異変ががんの症状かもしれません。森さんの体験談がみなさまの踏み出す第一歩につながりますように。

小柏 靖直

記事監修医師
小柏 靖直(上福岡総合病院)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

この記事の監修医師