睡眠の質を高める「食べ方のコツ」を時間栄養学の専門家に聞いてみた

皆さんは、「寝つきが悪い」や「朝スッキリ起きられない」といった経験をしたことはありませんか? もしかすると、その原因は食事にあるかもしれません。最近、食事のタイミングが体内時計に影響を与え、睡眠の質も左右することが明らかになってきているようです。睡眠の質を高めるための食事のコツについて、時間栄養学の専門家である田原先生と市川先生に解説していただきます。

著者:
田原 優(広島大学大学院 医系科学研究科公衆衛生学 准教授)

共著者:
市川 知美(広島女学院大学人間生活学部管理栄養学科 教授)
睡眠と時間栄養学の関係

編集部
時間栄養学は睡眠と関係するのですか?
田原先生
栄養やそのタイミングと睡眠には深い関連があります。食べるタイミングや内容を考えることで、体内時計が整い、睡眠の質が改善する可能性があります。また、最近では睡眠の質を高める機能性食品も簡単に手に入る時代になりました。
編集部
「睡眠の質が下がる」食べ方とはどのようなものですか?
田原先生
寝る直前の夕食や夜食、寝酒は、睡眠の質の低下につながる場合があります。特に、アルコールは一時的には寝付きを促進しますが、睡眠後半の眠りの質は低下し、眠りが浅くなったり、中途覚醒(寝ている途中で目が覚めること)が増えたりすることがわかっています。
編集部
逆に、睡眠の質を上げる食材などはありますか?
市川先生
睡眠の質と関連する栄養素として、トリプトファンやマグネシウムが報告されています。トリプトファンは、肉類や魚類、大豆・大豆製品に多く含まれ、体内でセロトニンやメラトニンの合成に利用されます。メラトニンは寝る前に分泌が高まり、眠気を誘導してくれるホルモンです。
睡眠に「良い食事」と「悪い食事」の違い

編集部
睡眠の質を高める夕食の食べ方のコツはありますか?
田原先生
夕食を食べてから寝るまでに2〜3時間空けることが理想です。夕食後はあまり激しい運動はせず、ヨガなどのリラックス系の運動をおこない、副交感神経が優位に働く状態を作ると良いでしょう。また、夕食後の入浴はその後の深部体温低下をもたらし、心地よい入眠をもたらす効果が知られています。
編集部
寝る前に甘いものを食べたくなってしまうのはどうしてですか?
田原先生
寝る前や夜間は、甘いものを食べると、脳内でドーパミンが分泌されやすい状態になってしまいます。これは、体内時計が影響していることが、動物実験で明らかになっています。ドーパミンは報酬系という神経の回路を刺激し、また甘いものを食べたいという負の連鎖をもたらしてしまいます。
編集部
寝る前にお腹が空いて、どうしても食べたくなってしまったときにおすすめの食べ物や飲み物はありますか?
市川先生
寝る前はなるべく低カロリー・低糖質なものがおすすめです。温かいお茶を飲んだり、出汁の効いた味噌汁やスープをゆっくり味わいながら食べたりすると良いですね。うま味成分は満腹感を高める働きがあるので、夕食に野菜や海藻、きのこを使った汁物を取り入れるのも良い方法です。ただし、塩分は控えめにすることがおすすめです。
睡眠の質を高めるカギとは?

編集部
朝食や昼食も睡眠の質に影響しますか?
田原先生
朝食は、体内時計を朝型に整え、規則正しい生活リズムの維持に役立ちます。規則正しい生活リズムは、睡眠の質向上にもつながります。昼食を食べないと、夕食後の血糖値が高くなり、寝ている間も高血糖になる可能性があります。よって、お昼ご飯を抜かないことも大切です。
編集部
おやつなどの間食は、睡眠に影響しますか?
市川先生
間食は良くないと思われがちかもしれませんが、有効な場合もあります。夕食前の間食をうまく活用し、夕食時の炭水化物を減らすことで、夕食後の血糖コントロールができます。
編集部
時間栄養学の視点で、その他に睡眠の質を上げるためのアドバイスはありますか?
市川先生
睡眠の質を上げるサプリメントとして、テアニン、GABA、クロセチン、乳酸菌などが報告されています。テアニン、GABA、クロセチンは、寝る前に摂取することで効果を示します。一方で、腸内環境を整え、睡眠を改善する食品は、寝る前に飲むというよりも、毎日継続して摂取することで効果を発揮します。
参考文献:
(1) Circadian regulation of hedonic appetite in mice by clocks in dopaminergic neurons of the VTA.
編集部まとめ
睡眠の質を高めるために食事のタイミングが重要であることを教えていただきました。朝食で体内時計をリセットし、夕食を早めに取ることで、深い睡眠を得やすくなることがわかってきているとのことでした。また、夜遅い食事が体内リズムを乱し、睡眠の質を低下させるリスクがある点も印象的です。本稿が読者の皆様にとって、少しでも時間栄養学と睡眠の関係について興味を持つきっかけとなりましたら幸いです。