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「死の質を高める」ため生前に決めておくべきこととは? 在宅医療医師が教える話し合いの進め方

 公開日:2025/04/28

近年、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)という考え方が広まりつつあります。ACPとは「患者さんが将来の医療やケアについて前もって考え、家族や医療従事者と話し合い、希望を共有しておく取り組み」のこと。在宅医療の現場では、患者さんの希望に沿った最適なケアを提供するために、このACPが非常に重要な役割を果たします。そこで、在宅医療でACPを進めるメリットとは何か、どのように進めるのが理想的なのかについて、医療法人明医研 ハーモニークリニックの中井秀一先生に解説してもらいました。

中井 秀一

監修医師
中井 秀一(ハーモニークリニック)

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福島県立医科大学医学部卒業。その後、自治医科大学附属さいたま医療センターで初期研修を受け、自治医科大学附属病院でプライマリ・ケアと家庭医療学を学ぶ。2020年、医療法人明医研 ハーモニークリニックの院長となる。日本プライマリ・ケア連合学会新・家庭医療専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本専門医機構認定総合診療専門医、日本専門医機構総合診療専門研修特任指導医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医。現在、日本プライマリ・ケア連合学会埼玉県支部支部長も務める。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは?

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは?

編集部編集部

アドバンス・ケア・プランニングとは何ですか?

中井 秀一先生中井先生

アドバンス・ケア・プランニング(以下ACP)とは、患者さんが将来の医療やケアについて前もって考え、家族や医療従事者と話し合い、希望を共有しておく取り組みです。日本では現在、厚生労働省、日本医師会、日本老年医学会などがそれぞれでACPの定義を発表しています。

編集部編集部

重要なポイントはどこですか?

中井 秀一先生中井先生

いろいろな定義がありますが、共通しているのは、「個人の人生観や価値観、希望に沿った将来の医療およびケアを具体化して、普段から人生の最終段階における医療・ケアのあり方などを、本人や家族、医療者などが十分に話し合う過程」を重視するということです。

編集部編集部

ACPでは、どのようなことを話し合うのですか?

中井 秀一先生中井先生

希望する医療の内容(延命治療の希望など)、療養場所(自宅・施設・病院)、代理意思決定者(本人が判断できなくなった場合に代わりに決定する人)などを話し合います。ただし、このように人生の最終段階の話のみにとどまらず、例えば「もし通院できなくなったら?」「口から食べられなくなったら?」といったことを決めることもACPといえます。

編集部編集部

在宅医療の現場でACPを勧めるメリットは何ですか?

中井 秀一先生中井先生

患者さんの希望に沿った医療・ケアを提供できるだけでなく、急な病状変化時などにも、家族や医療従事者が落ち着いて適切な判断をしやすくなります。さらに、ACPを定めておくことで、患者さんが亡くなった後、ご遺族のうつや不安が軽減するというエビデンスもあります。このように「死の質を高める」取り組みをしていくことが、今を「よりよく生きる」ことにつながっていくと考えています。

ACPはどのように進めればよい? 切り出し方は?

ACPはどのように進めればよい? 切り出し方は?

編集部編集部

ACPはどのように進めればよいですか?

中井 秀一先生中井先生

まずは患者さん自身が「どこで、どのような医療を受けたいか」を考え、家族や信頼している人と共有することが一歩目です。その後、主治医や訪問看護師、ケアマネジャーなどの専門職とも相談しながら具体的な方針を決めていきます。

編集部編集部

本人みずから発信するケースが多いのでしょうか?

中井 秀一先生中井先生

そんなことはありません。やはり、「ちょっとした変化」や「不可逆的な衰え」などは、本人よりも、周りのご家族がキャッチしやすいのではないでしょうか。家族の側から切り出すことも大切だと思います。

編集部編集部

どのタイミングで話を切り出したらよいですか?

中井 秀一先生中井先生

できるだけ早い段階、病状が安定しているうちに話し合いを始めるのが理想です。なぜなら、病状が進行すると、本人の意思を確認するのが難しくなることもあるからです。

編集部編集部

そういった話は切り出しにくいです。

中井 秀一先生中井先生

ACPについて話すとなったとき、「死の話=縁起が悪い」というイメージを持つ人もいますし、その気持ちもよくわかります。しかし、できるだけ先延ばしせず、「もしもの時のために考えておきたい」と伝えたり、ニュースやお知り合いの事例などをきっかけに話題を出してみたりすると、自然に話しやすくなります。ACPという言葉は、わかりにくいかもしれないため、厚生労働省は「人生会議」という言葉を打ち出しています。とはいえ、終末期を話すことが稀であった日本の文化に合った形を模索するのも大事かな、と私は感じています。

編集部編集部

「日本の文化に合った形」とはどのようなものでしょうか?

中井 秀一先生中井先生

日本の「察する」文化、以心伝心を大事にするという文化に沿ったACPができたらよいと考えています。何気ない会話やテレビを見たときにふとこぼした言葉の中にも、その人の人生観が表れることがあります。そうした言葉を家族や理解者、医療従事者と共有することで、はっきりと意思表示をしなくても「こんなことを言っていたね」と、その人の考えをくみ取ることができます。日本ならではの価値観や思いやりを大切にしたACPのあり方があると思います。

ACPはまだまだ先の話? 医師からのメッセージ

ACPはまだまだ先の話? 医師からのメッセージ

編集部編集部

ACPは一度決めたら変更できませんか?

中井 秀一先生中井先生

いいえ、状況や考え方が変わることもあるため、何度でも変更することができます。むしろ、ACPは定期的に見直し、必要に応じて修正することが大切です。

編集部編集部

ACPで決まった方針などは、文書に残す必要はありますか?

中井 秀一先生中井先生

必ずしも必要というわけではなく、口頭での共有でも構いませんが、明確に伝え、周囲に共有するためにも「事前指示書」や「ACPノート」などに記録しておくと安心です。

編集部編集部

最後にACPを進めるうえでのポイントをもう一度教えてください。

中井 秀一先生中井先生

繰り返しになりますが、まずは本人の意思を尊重すること、そして家族や医療従事者としっかり共有することです。話し合いを重ねることで、より良い医療・ケアの選択ができます。

編集部編集部

最後に読者へのメッセージをお願いします。

中井 秀一先生中井先生

私の主観も入りますが、予後、病状を知りたくない、事前指示があってもいざとなると家族の意向が尊重されること、自律より家族、自分の大切な人の意向に任せたいという人もまだまだ多いと感じます。日本の間接的な表現が好まれる文化をあえて何でも直接的にいう形にする必要もないとも思っています。しかし、ACPという考え方は、よく生きて、よく死ぬために大切です。話し合いの過程が大事ですので、皆が幸せになれるように我々もお手伝いできればと思います。

編集部まとめ

ACPは、患者さんが自分らしく過ごすための大切なプロセスです。在宅医療を利用しながら、本人や家族、医療者が協力して進めていくことで、より安心して療養生活を送ることができます。まずは一度、お近くの在宅医療を行っている医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。

参考文献:

人生の最終段階における医療・ケア決定におけるガイドライン 厚生労働省
https://www.city.arakawa.tokyo.jp/documents/7377/20190410_inform_1.pdf

日本医師会 アドバンス・ケア・プランニング
https://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/006612.html

医院情報

ハーモニークリニック

ハーモニークリニック
所在地 〒336-0918 さいたま市緑区松木3-16-6
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診療科目 内科、家庭医療・総合診療科、消化器内科、呼吸器内科、脳神経内科、小児科、整形外科、在宅医療

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