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不安症を治療する選択肢「森田療法」をご存じですか? 医師がその考え方や進め方を解説

 更新日:2025/09/03

不安症(不安障害)に悩む人は少なくありません。過剰な心配や不安が続くと、心身に負担がかかり、日常生活にも影響を及ぼします。こうした状態を改善する治療法の一つに「森田療法」があります。そこで、森田療法の考え方や治療の進め方について、佐竹良樹先生(こころからだクリニック)に解説してもらいました。

佐竹良樹

監修医師
佐竹良樹(こころからだクリニック)

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名古屋市立大学医学部卒業。一宮市立市民病院、豊田厚生病院、松蔭病院などを経て、こころからだクリニックを開院。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本東洋医学会漢方専門医、臨床心理士。

不安、緊張… 原因や治療法を教えて

不安、緊張… 原因や治療法を教えて

編集部編集部

不安症(不安障害)について教えてください。

佐竹 良樹先生佐竹先生

不安症(不安障害)と呼ばれる病態は、過剰な不安や緊張が続き、日常生活に支障をきたす状態です。不安症には、社交不安症、強迫症、パニック症、広場恐怖症、全般不安症、病気不安症、身体症状症などがあり、それぞれの不安症によって不安・恐怖の対象が異なります。

編集部編集部

どうしてそのようになってしまうのですか?

佐竹 良樹先生佐竹先生

原因は完全にはわかっていませんが、養育環境、社会環境、遺伝などさまざまな要因が絡んでいると言われています。脳内の神経伝達物質のバランスが関係しているとも考えられています。もともと神経質で不安を感じやすい性格の人に多く見られ、何らかの出来事、ストレスが発症の契機になることもありますが、そういった契機が全くないこともあります。

編集部編集部

不安が続き、日常生活に支障をきたすようになったらどうしたらよいですか?

佐竹 良樹先生佐竹先生

不安は本来、脅威や精神的ストレスに対する正常な反応です。健康的に不安とうまく付き合えていればよいのですが、生活に支障をきたすような病的不安については注意が必要です。1日中強い不安に支配されて仕事や家事がままならない、パニック発作が怖くて外出できない、「人に変に思われないか」と心配し人と会うのを避ける、「ばい菌がついていないか」と手洗いや消毒を繰り返す、という病的不安に対しては治療が必要になります。このような場合には心療内科、精神科、心理相談室などに相談することをおすすめめします。

編集部編集部

どのような治療法がありますか?

佐竹 良樹先生佐竹先生

薬物療法や心理療法が代表的です。薬物療法では、抗不安薬や抗うつ薬などを使って、不安を和らげます。抗不安薬は依存性があるので、使うにしても抗うつ薬の効果がでるまでの一時的な使用にとどめることが望まれます。心理療法では、認知行動療法のほかに、森田療法などもおこなわれています。

編集部編集部

認知行動療法とはなんですか?

佐竹 良樹先生佐竹先生

認知行動療法では、ストレスを感じた出来事について、認知、感情、身体反応、行動という4つに分けて考えます。不安症では不安を減少させる安全回避行動を起こしますが、じつはこの行動は一過性の効果しかなく、さらに不安を増大させてしまいます。この悪循環によって悪習慣が形成され、健康な生活を阻害されてしまいます。認知行動療法では、不安階層表、思考記録、エクスポージャー、リラクセーション、認知再構成などの諸技法を用いて、不安症状を測定しながら、症状を軽減していきます。

不安をなくさなくてよい「森田療法」とは?

不安をなくさなくてよい「森田療法」とは?

編集部編集部

森田療法についても教えてください。

佐竹 良樹先生佐竹先生

森田療法は、精神科医・森田正馬(まさたけ)先生によって1919年頃に創始された心理療法です。彼は「特有の心理的メカニズムが悪循環を引き起こし、これにより症状が発展する」と説明しました。社交不安症の人の場合、「周りに変に思われていないか」という不安に常に脅かされ、その不安を打ち消そうと躍起になってしまっています。不安に囚われて、人を避けるようになると、さらに不安が増強され、悪循環に至ります。森田療法では、不安を排除せず、不安を不安としてそのまま受け入れ、不安の裏にある「『しっかりした人』とよく見られたい」という正しい欲望に注目して、その欲望を建設的な方向で発揮していくことを目指します。自然現象である心の動きをあるがままに認め、本来の欲望を原動力に変えて、行動的な生活を取り戻していきます。最終的には、病前の行動的な生活に戻り、不安はあるけれども不安が気にならないようになっていきます。森田療法は、かつては、絶対臥褥(がじょく/何もせずに横になっていること)をおこなう入院治療が主流でしたが、現在はほとんど外来通院でおこなわれています。

編集部編集部

なるほど。通院での森田療法について教えてください。

佐竹 良樹先生佐竹先生

外来森田療法では、不安の自覚と受容を促しながら、不安の裏にある欲望を見出し、不安とその不安に対する間違った対処の悪循環を明確にしていきます。そして、建設的な行動に注目するようにしていきます。行動や生活のパターンを見直すために、日記療法をおこなうこともあります。日記を書いてもらって、「症状に囚われず、本来あるべき生活ができている」ことを評価し、再び悪循環に陥らないようにサポートしていきます。

編集部編集部

森田療法は、日本人に馴染みやすいと聞いたことがあります。

佐竹 良樹先生佐竹先生

その通りだと思います。森田正馬先生は、「私たちが自分のことを意のままに支配できるのは、心の活動のごく一部で、単なる末梢のものにすぎない」と言っています。つまり、心の動きのほとんどは、自然現象なのです。自然現象である心を都合よく操作しようとすると、かえって苦悩の深みにはまってしまいます。そこで、「心をコントロールしようとせず、そのままありのままに受け入れよう」というのが森田療法です。これは、「無我」という東洋的で、禅的な人生観です。

編集部編集部

「禅的な人生観」というところが日本人に合うのかもしれないですね。

佐竹 良樹先生佐竹先生

茶道や剣道・柔道など日本人に馴染みのある「道」と名がつくものには、禅的な人間観が色濃く見られます。禅的な感覚は今の日本人には薄れてきているかもしれませんが、それでも受け入れやすいものではないかと思います。日本の臨床心理学の第一人者である河合隼雄先生も「日本人である限り、どのような学派に属していても、森田療法的な観点や技法から何かを学んでいる」と述べています。

編集部編集部

森田療法ではなぜ不安をなくそうとしないのですか?

佐竹 良樹先生佐竹先生

森田療法は事実を知り、それを自覚することを目指す心理療法です。本来、自然な反応である不安・恐怖に過剰に反応するがあまり、その不安や恐怖を排除しよう・逃げようともがくと、ますますその不安・恐怖に執着してしまいます。これが、不安症を作り上げてしまうのです。自然現象である不安・恐怖をどうにかしようとせず、意識を内向きから外向きに変えて、行動的かつ健康的な生活に目を向けていくと、知らないうちにうまく付き合っている状態になっていきます。

編集部編集部

森田療法がよくマインドフルネス(瞑想)と比較されるようですが、それはどういうことですか?

佐竹 良樹先生佐竹先生

森田療法とマインドフルネスには共通点があるからです。マインドフルネスとは、過去や未来ではなく、今の瞬間を観察し、観察したものに対して反応せず、あるがままでいる状態を指します。マインドフルネスを続けていくと、感情に振り回されにくくなり、常に穏やかな心を保てるようになっていきます。森田療法は先述のように、心のほとんどは自然現象と考えます。森田療法では瞑想はしないものの、自分の心を自然現象としてそのまま受け入れていきますので、この点がマインドフルネスとの共通点です。

森田療法、どんな効果が期待できる?

森田療法、どんな効果が期待できる?

編集部編集部

森田療法と併せてマインドフルネスをおこなうとよいのでしょうか?

佐竹 良樹先生佐竹先生

はい、そのとおりです。森田療法とマインドフルネスは二人三脚のように働くと思います。森田療法はかつて入院が主流でした。入院初期の1週間はトイレ・洗面・食事以外は何もせず、一人部屋でカーテンを閉め切り、終日寝て過ごします(絶対臥褥)。不安と孤独に向き合うこの時間が、不安症の人にとってはとても過酷です。ひたすら不安と戦うなか、1週間もすると、不安はコントロールできないという諦めがでてきます。この自然現象に抗わないという諦めが大事で、この体験がその後の森田療法の土台となります。この諦めの体験こそが、マインドフルネスです。現在、入院森田療法をおこなっている病院は、かなり少なくなってしまいました。絶対臥褥ができない今だからこそ、マインドフルネスによって「不安と直面しても反応しない」という態度を醸成することが大事です。

編集部編集部

マインドフルネスのプログラムをおこなっているクリニックもあるのですか?

佐竹 良樹先生佐竹先生

はい。当院もそのようにしています。森田療法と併せてマインドフルネスを実践する意義は大きいと思っています。また、森田療法によく似た心理療法に、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)やMCBT(マインドフルネス認知療法)というマインドフルネスを取り入れた新しい認知行動療法があります。これらの新世代の認知行動療法では、マインドフルネスがとても重要な役割を果たしています。マインドフルネスは、森田療法だけでなく、各種心理療法の土台となるものです。マインドフルネス単独での有効性も示されており、興味があれば是非実践してもらいたいと思います。

編集部編集部

最後に読者へのメッセージをお願いします。

佐竹 良樹先生佐竹先生

「心理療法は色々あって、自分には何が適しているのがわからない」という方も多いかもしれません。森田療法は、今でも色あせない素晴らしい心理療法です。日本人に受け入れやすく、途中で脱落する人の少ないのもよいところです。全国各地に森田療法の自助グループがあり、現在も活動を続けているのも大きな特徴です。興味のある方は、お近くで森田療法をおこなっているクリニックや自助グループなどを調べてみてはいかがでしょうか?

編集部まとめ

不安が強くなる理由や、治療の一つである「森田療法」について解説していただきました。不安の裏にある健康的な欲求に気づき、それを前向きな力に変えていくことで、よりよい生き方を目指せるのですね。気になった方は、お近くの専門医に相談してみてはいかがでしょうか。

医院情報

こころからだクリニック

こころからだクリニック
所在地 〒464-0850 名古屋市千種区今池1丁目2-7 健康文化館7階8階
アクセス 地下鉄東山線「千種」駅より徒歩2分
診療科目 心療内科、精神科、漢方内科

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