【闘病】『汗が出ない苦しみ』を想像できますか? 命の危機感じた「難病」

特発性後天性全身性無汗症とは、汗を出す「汗腺」が正常に機能しなくなり、汗をかかなくなる疾患です。汗をかくのは人間にとって大切な生理現象であり、体温調節という重要な役割があります。河合かおりさんの体験を通して、この疾患を知り、表面上ではわかりづらい病気への理解を深める機会にしましょう。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年11月取材。

体験者プロフィール:
河合かおり
2018年春頃、運動しても汗の出が悪くなり、徐々に身体の殆どが発汗しなくなる。春から夏にかけては倦怠感、吐き気や動悸などがあり、内科の医師に相談するも原因不明と診断された。受診した大学病院の神経内科の医師が疾患名を耳にした事があり、専門の大学病院を紹介され、「特発性後天性全身性無汗症」と判明した。
「汗をかかない」という異変が発見のきっかけ

編集部
はじめに河合さんが読者に伝えたいことを教えていただけますか?
河合さん
手足やわきの汗が増加する「多汗症」を聞いたことのある人はいると思いますが、実は汗が出なくなる「無汗症」という病気もあることを知ってほしいです。そして、無汗症は時に命にも関わることがあり、日常生活に多くの制限が生じるということもご理解いただければと思います。
編集部
河合さんが特発性後天性全身性無汗症と判明した経緯を教えていただけますか?
河合さん
2018年の春頃から、運動をしても汗の出が悪くなり、「おかしいな」と感じていました。そして、徐々に身体の殆どの部分で発汗しなくなり、いよいよ体調の異変に気づきました。さらに春から夏にかけては倦怠感、吐き気や動悸などがあり、何人もの医師に相談したのですが「原因不明」と言われました。たまたま大学病院の神経内科の医師が「特発性後天性全身性無汗症」という疾患名を耳にしたことがあるとのことで、専門の大学病院を紹介されました。全国に4箇所しかない専門病院だそうで、そこでようやく難病の特発性後天性全身性無汗症と判明しました。
編集部
河合さんはどのような症状があったのか、もう少し教えていただけますか?
河合さん
普通、暑かったり、運動したりすれば汗をかくはずです。しかし、私は真夏にもかかわらず汗がかけなくなり、少し気温や湿度が上昇すると皮膚にはコリン性蕁麻疹が出現し、吐き気、倦怠感、頭痛、熱感などが現れ、日中の外出ができなくなりました。さらに、汗が出ないため体温調節ができず、すぐ熱中症になります。発汗しないため皮膚が乾燥し、常にそう痒感(そうようかん/かゆみ、ちくちくする感じ)もありました。汗はかかないのに運動をすれば体温は上がりますから、人に触れられたときに「熱い!」と言われました。特に近頃は夏の暑さが過酷ですから、汗をかけないというのは命に関わるほどの危険性があります。
診断名がついたときはホッとした

編集部
日常生活ではどのような大変さがあったのでしょうか?
河合さん
特発性後天性全身性無汗症は気温や湿度が影響するので、高温多湿な夏場は外出もできません。入浴する際はシャワーを浴びるだけでも苦しく、春から秋にかけての好天が続く期間は苦労します。
編集部
診断がついたときの心情はいかがでしたか?
河合さん
やっと不調の原因が分かり、診断名がついたとホッとしました。
編集部
特発性後天性全身性無汗症はどのような検査・治療を行うのでしょうか?
河合さん
発汗試験で汗の出ていない部分を調べます。全身にヨウ素とデンプンを塗り、高温多湿の部屋にな入り発汗状態を確認します。治療はステロイド薬を集中投与するステロイドパルス療法を2クール実施し、運動療法で発汗できるように練習もしました。
編集部
現在の体調と病状、生活の様子も教えていただけますか?
河合さん
汗をかけないため、人と体感温度も違い、出勤したら通常よりエアコンの温度を下げさせてもらっています。同じ部署の人は知っているので、寒いと感じたときはカーディガンを着て対応してくれているので助かっています。また、ジムでエアロバイクをするときは冷感スプレーを何度も使い、保冷剤で体幹をクーリングし、ペットボトルを凍らせて手のひらにある動静脈吻合部のAVA血管を冷やしながら行っています。AVA血管は動脈と静脈を結ぶ血管のことで、手足と顔にだけあるそうです。体温調節に効果的な血管ということで、運動する際はいつも意識して冷やしています。
よく「汗をかかなくていいね」と思われがち

編集部
特発性後天性全身性無汗症は見た目ではわかりにくい疾患ですが、理解されない場面も経験をされたことなどはありますか?
河合さん
多汗症は知っていても、無汗症という病気は知らない人が多いです。ですから、「汗をかかなくていいね!」と気軽に言われることもあるのですが、真夏でも身体中にラップを巻きつけているようなものです。病気について知らないとはいえ、汗をかかないことがどれだけ大変かわかってもらえないのは辛いです。
編集部
特発性後天性全身性無汗症で苦労したことはどんなことでしょうか?
河合さん
1つは発汗試験のときの気密室でのことです。検査前に「我慢できなくなったら声をかける」と言われていたのですが、自分の限界が分からずにそのまま倒れてHCU(高度治療室)に入院してしまいました。もう1つはステロイドパルス療法を行っていたとき、副作用で激しい倦怠感、下痢、腹痛、精神症状も現れたことです。さらに、数年後にはステロイドの後遺症で後嚢下白内障にもなり、手術することになりました。どれも特発性後天性全身性無汗症にならなければ起こらなかったことですから、私としては大変な経験でした。
編集部
河合さんがこれからの医療従事者に期待することはどんなことですか?
河合さん
私が初めて汗をかかなくなったとき、数人の医師に相談したのですが、いずれもスルーされました。症状で検索すれば何かしらヒントは見つかると思いますので、もう少し真摯に向き合ってほしかったです。「もし、自分や身内だったら?」と話を傾聴していただけたらとも思いました。
編集部
最後に読者の方にメッセージをお願いします。
河合さん
特発性後天性全身性無汗症は、治療しても完治するのは難しい疾患です。しかも、外見は普通の人と変わりがなく、認知度自体も非常に低い病気です。私は「みんな見た目には分からなくても、何かの不調を抱えて生活している」と考えるようにしています。みなさんも「ぼちぼち頑張ろう」という気持ちで過ごしましょう。
編集部まとめ
特発性後天性全身性無汗症の患者数は全国に600人強しかおらず、一般的な認知度も低い疾患です。潜在的な患者数はもっと多いとされており、診断を受ける患者数も年々増加傾向にあります。「汗をかかない」という症状は、一見すると病気のようには思えない人もいるでしょう。しかし、河合さんのように汗をかかないことで様々な不調を引き起こし、夏場には命に関わる危険もある疾患であるという認識を持つことは重要です。

記事監修医師:
藤井 弘子(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。