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がんサバイバーが「自分らしく」 外見変化などがもたらすストレスを軽減するケアとは?

 公開日:2025/01/09
がんサバイバーが「社会で自分らしく過ごすために」 外見変化などのストレスを軽減するケアとは?

がんサバイバーは、最初の治療期間が終わって、学業や仕事、家事・育児または介護などの日常生活にもどる時に、外見の変化に対する不安や悩みが出てくることがあります。がんサバイバーがもとの生活の中で「自分らしく、心地よく」過ごすためには、治療による外見の変化や生活の変化がもたらすストレスを軽減するサポートが大切です。そこで、そうした方々の負担を和らげるためのケアやその意義について、ド・ケルコフ麻衣子先生(南青山マイコ形成外科・皮フ科)に解説してもらいました。

ド・ケルコフ 麻衣子

監修医師
ド・ケルコフ 麻衣子(南青山マイコ形成外科・皮フ科)

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カナダ・トロント大学Human Biology学科卒業後(理学士)、長崎大学医学部卒業、医学博士課程修了。聖路加国際病院や医療法人社団ブレストサージャリークリニックやがん・感染症センター東京都立駒込病院などで経験を積み、2024年2月に南青山・骨董通りに「南青山マイコ形成外科・皮フ科」を開院、院長となる。形成外科専門医(日本形成外科学会認定)、創傷外科専門医(日本創傷外科学会認定)、がん治療認定医(日本がん治療認定医機構認定)。

がん治療の辛さ、どうしたら軽減できる?

がん治療の辛さ、どうしたら軽減できる?

編集部編集部

がんやがん治療は、体も心も大変ですよね。

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

そうですね。まず、ご自身が「がん」と診断された時点で個人差はあるにせよ、大きなショックを受ける方が多いと思います。

編集部編集部

いまだに「がん=死」をイメージしてしまう方も多いと思います。

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

がんはここ10〜20年の医学の進歩によって、昔のような「不治の病」ではなくなってきています。手術、薬物療法、放射線療法などをいろいろ駆使し、社会生活をおくりながら長期にわたって治療を継続されている方も多くいらっしゃいますし、がんと共に過ごして天寿をまっとうされる方も多くいらっしゃいます。それでもやはり、診断された時は「もうだめだ」と落ち込んでしまう方も多いです。そうでなくても、現在のがん治療は、立て続けにいろいろな治療方法を理解し、さまざまな決断をしなくてはならず、さらにそれぞれの治療やその副作用に向き合いつつ、学業や仕事、育児・介護を含む家庭生活の両立、経済的な心配なども含めると、不安や辛さは相当なもので、前向きな気持ちを保ちながら治療を続けるというのは簡単なことではないと思います。

編集部編集部

そういった方が受けられるサポートもあるのですか?

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

はい。がん治療を行っている病院であれば、例えば「精神腫瘍科」など、がん治療に伴う精神的不調などに特化した診療科も少しずつ増えてきていますし、がんの経過全般にわたって患者さんや家族のケアを行う専任看護師もいます。社会支援的な情報も相談窓口があり、たくさんの支援、情報を集めることができます。ここ数年では、外来で通院しながらのがん治療が多くなったこともあり、外見の変化のケアに特化した「アピアランスケア」という分野が確立されてきています。

編集部編集部

聞き馴じみのない言葉でした。

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

アピアランスケアの重要性は、厚生労働省が定めた「がん対策推進基本計画」でも謳われており、これからますます力を入れていくべき分野です。正式には、アピアランスケアを『医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、がんやその治療に伴う外見変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア』と定義づけています。

アピアランスケアについて詳しく教えて

アピアランスケアについて詳しく教えて

編集部編集部

外見の変化とは、例えば抗がん剤による髪の脱毛のことですか? 確かに、脱毛は、落ち込んでしまう人も多いと思います。

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

髪が抜けることだけではありません。髪質の変化、眉毛やまつ毛の脱毛、お肌の色素沈着や皮膚の炎症、爪の変色や割れ・剥離、ほかにもがん手術後の傷あとのひきつれやかゆみ、過去の乳がん手術で失ったり、変形したりした乳房の再建相談などもアピアランスケアのひとつです。

編集部編集部

いつ相談するのが良いのですか?

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

どんなタイミングでもご相談いただけます。治療中や治療直後はもちろんですが、主な治療が終わり、日常生活に復帰したあとでも、手術の傷あとや回復途中の髪、爪、お肌を他人に見られることや、がんについて他者に知られることに抵抗を感じ、温泉や美容院、エステ、近くのクリニックなどに行きづらく外出がおっくうになる方もいます。がん治療に伴う外見の変化の中には、一生付き合う症状もあるのです。

編集部編集部

一生。それはとてつもなく長いですね。

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

だからこそ、治療後に時間が経過した方にも、アピアランスケアをもっと知っていただきたいと思っています。入院中や外来のフォロー期間中は、大病院の「がん相談窓口」などで相談できる場合が多いですが、病院でのフォローが終わった後、相談先がわからず一人で悩んでいる方が少なくないのが現状です。

まずはアピアランスケアに相談だけでも

まずはアピアランスケアに相談だけでも

編集部編集部

そんな長い期間にわたって、いろいろ相談ができるサポートがあることを知りませんでした。

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

そういう人も多いと思います。がん治療の進歩と同じように、アピアランスケアも全国のがん拠点病院を中心に広がってきています。私どものようなアピアランスケアに注力しているクリニックも今後は増えていくと思います。気になることがあればまずは相談だけでもしてみることをお勧めします。

編集部編集部

費用はどのくらいかかるのですか?

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

がん治療を行っているアピアランスケア部門でしたら、おそらく抗がん剤や放射線による治療後の皮膚や、がん手術後の傷あとのケアなどは保険内でカバーされるケースが多いと思います。当院のようなクリニックですと、自費診療となりますが、実際の治療については保険診療が適用できることもあります。詳しくは事前に医療機関のホームページなどで確認してみてください。

編集部編集部

社会生活を続けていくには、治療による外見の不安はなくしたいですね。

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

がん治療による外見の変化を“頑張ってきた治療の証”だと考える方もおられますし、変化した外見を少しでも病気の前に戻したいと考える方もおられます。またアピアランスケアを通して、美しくなることに興味が出てきたといわれる方もおられます。アピアランスケアの目的は、外見のサポートを通じて患者さんの気持ちを少しでも楽になるように寄り添い、治療や日常生活に意欲を持ってもらうことにあります。がんと共に生きておられる方にこそ、自分らしさや心地よさ、前向きな気持ちを大切にしてほしいと思います。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

ド・ケルコフ麻衣子先生ド・ケルコフ先生

人生100年時代、3人に1人は何らかのがんになるとも言われています。いつだれが患ってもおかしくありません。がん治療を乗り越え、またはがんと共に明るくお過ごしになる姿は、周りのご家族やご友人、学校や職場の方々のご心配を軽くするだけでなく、皆の素晴らしいお手本になると思います。通院治療中は主治医には相談しづらい悩みを解決する場として、また、治療が終わった後の伴走者としてアピアランスケアクリニックをぜひ活用してほしいと思います。

編集部まとめ

がんサバイバーが「自分らしく」いられるためのケアについてお話を伺いました。がんサバイバーの方々が「自分らしく」過ごせるよう、外見のサポートを通じて心の負担を軽減するアピアランスケア。このケアが、多くのがん患者さんやがんサバイバーの方にとって、安心と前向きな気持ちをもたらす一助になればと思います。

医院情報

南青山マイコ形成外科・皮フ科

南青山マイコ形成外科・皮フ科
所在地 〒107-0062 東京都港区南青山5-13-2 菊家ビル2階
アクセス 東京メトロ「表参道」駅より徒歩6分
診療科目 形成外科、皮膚科

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