最難関テーマ「自殺予防」と向き合う専門家 苦しみを抱える人に伝えたいこと #今つらいあなたへ
自殺未遂を経験した人の再発予防は、世界的に難しい課題とされてきました。日本では、世界に先駆けて自殺未遂者の再発防止を目的とした研究「ACTION-J」が2005年に始まり、2010年代半ばより精神科医である札幌医大の河西千秋教授らによって、研究によって得られたさまざまな成果が発表されてきました。河西教授は「自殺問題の一端は健康問題であり、その多くは予防可能」と指摘します。河西教授と、同じ研究チームの公認心理師・津山雄亮氏から、支援者やまわりの人が取るべきアクションなどについて話を聞きました。
監修医師プロフィール:
河西 千秋(札幌医科大学 神経精神医学講座主任教授)
医師、医学博士。東京都出身。スウェーデンのカロリンスカ研究所研究員、横浜市立大教授などを経て、2015年より札幌医科大の神経精神医学講座主任教授に就任。日本自殺予防学会副理事長や日本うつ病学会理事などを務める。
公認心理師:
津山 雄亮(公認心理師)
公認心理師、臨床心理士。北海道帯広市出身。日本大学文理学部、桜美林大学大学院を卒業。東京での臨床経験を経て、2017年より札幌医科大学で自殺予防に携わる。現在は同大学附属病院神経精神科と保健管理センターに勤務。大学非常勤講師や北海道いのちの電話講師を兼務。
目次 -INDEX-
「自殺予防」に立ち向かう 原点となった無念の気持ち
編集部
河西教授
精神疾患の場合、病態が完全に解明されていなくても、標準的な治療を行うことで病気を改善させることはできますが、患者さんを取り巻くさまざまな社会的要因や環境的要因により、状況が好転しないばかりか、暗転してしまうことさえあります。
自殺を防ぐことがいかに難しいことであるか、我々精神科医は普段の診療でいつも感じています。
編集部
河西教授
二つ目は、精神科は、患者さんが生きてさえいてくだされば、患者さん自身のためにできることが必ずあるので、何とか生き続けて欲しいという気持ちです。
三つ目は、留学時代に自殺についてじっくり学ぶ機会があり、自殺で亡くなる方の大半が精神疾患に罹患していたという事実を再確認するとともに、自殺予防についても学んだことです。また、自殺対策に取り組んできた海外の方ともお会いして、自殺を防ぐ方法があることと、自分にもできることがあるということを確信しました。
大学のメンタルヘルス支援 コロナ禍で認知向上した経験
編集部
河西教授
しかし、メンタルへルス問題はそこかしこにあって、私のメールアドレスを公開して相談対応をしたり、学生のメンタルヘルス問題について困っていた教員からの相談に積極的に対応したりしながら、徐々に理解者を増やし、幹部職員の理解を得て保健管理センターが整備されていきました。
本学には大学病院がありますが、そもそも医療の業務は過酷です。また、医療者になるための学生のカリキュラムは大変過密で厳しいので、医療者も学生も日常的にたいへんなストレスにさらされています。メンタルへルス支援が最も必要な現場だと言えます。
編集部
津山さん
しかし、その後、新型コロナのパンデミックが勃発し、医療の現場も教育現場もひっ迫した状況となり、感染症病棟の看護師のメンタルヘルス支援や、学生の感染症管理と種々の相談対応を保健管理センターが担ったことで、保健管理センターの認知度が一気に向上しました。
さらに、学生の入学時、あるいは教職員の入職時のオリエンテーションに保健管理センターが登壇して健康管理について話をするとか、企業や団体では普通に行われている管理職のためのメンタルヘルス研修をするといったことを提案しました。また、メールやLINE、WEBフォーム等など様々な経路からの相談申込みを可能にし、依頼が来たら間を空けずに対応する相談体制を作りました。
相談に来た方それぞれの悩みに丁寧に対応することを積み重ねた結果、相談をすることのメリットを感じてくれる方も増え、「あそこ行けば助けてくれるらしい」という認識や口コミが学生を中心に広がり、来談者数の更なる増加につながりました。
津山さんと保健管理センターのメンバー
悩みを抱えた人がいたら まわりの人ができること
編集部
河西教授
津山さん
河西教授
編集部
津山さん
これほど明確なものではなくても、例えば、大切な人との離別・死別といった大きな喪失体験の直後や、学生の場合、急な成績低下や遅刻・欠席の増加、部活動に出てこなくなったなど、普段と異なる様子や変化には気を配りたいところです。
例えば、ある日、学生が不注意によりケガをしたと保健室や医務室に来た場合、一見自殺リスクと無関係に感じられるかもしれませんが、ケガをした理由や生活の様子をよくよく聞いてみると、実は深い悩みを抱えていたり、かなり無理な生活をしていたりと、その背景にメンタルヘルス不調が隠れていたということは少なくありません。
いまつらい人へ まずは身近な人に話してみて
編集部
河西教授
過去は変えられなくても、どうにもならないことはないと思います。今、つらい状況の方は、置かれている今の状況が全てではないと思ってほしいです。自治体は、市区町村レベルで自殺対策行動計画を策定しているはずです。もっと行政に頼ってよいはずですし、行政の方も医療や民間と協働して欲しいと思いますし、一緒にできることをさせていただきたいです。
津山さん
※この記事はMedical DOCとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。