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糖尿病の治療薬「GLP-1受容体作動薬」は肥満症にも効果があることをご存知ですか?

 公開日:2024/06/08
糖尿病薬? ダイエット薬?「GLP-1」の保険適用とリスクについて薬剤師に聞いてみた

GLP-1は私たちの体内にあるホルモンで、このGLP-1を補う薬が「GLP-1受容体作動薬」です。血糖値を下げる効果があり、おもに糖尿病治療で用いられる薬ですが、最近「肥満症」の治療にもGLP-1受容体作動薬が使われることもあるそうです。肥満症に対してどのような効果があるのか、使用できる製品や注意点も併せて、薬剤師の志田美春先生に詳しく解説していただきました。

志田 美春

監修薬剤師
志田 美春(COCO et al)

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神戸薬科大学で薬剤師免許、博士(薬学)号を取得。新卒で大手製薬会社に入社し、最先端の創薬研究に従事。転職先では培った技術を活かして、培養肉の基盤研究を推進。この研究活動が評価され、2023年度長井記念若手薬学研究者賞を受賞。その後、産学連携の事業開発を経て、2024年に研究コンサルタントとして独立。

GLP-1受容体作動薬はどのような薬なのか

GLP-1受容体作動薬はどのような薬なのか

編集部編集部

はじめにGLP-1受容体作動薬の効果について教えてください。

志田 美春さん志田さん

GLP-1受容体作動薬は、GLP-1のもつ血糖値のコントロール効果はそのままに、分解されにくいように改良したものです。そのため、主に膵臓で血糖の量に応じてインスリン(血糖値を低下させるホルモン)の分泌を促し、分泌されたインスリンによって血糖値を下げる効果があります。そのため、2型糖尿病でインスリンの分泌量が減っている人やインスリンの働きが弱くなっている人の治療薬として承認されており、糖尿病の合併症である心筋梗塞や脳梗塞の予防や糖尿病性腎症の進行抑制の効果も報告されています。また、GLP-1には血糖値の調節以外にも食欲が抑えられる効果があり、「肥満症」に対しても使用されることがあります。

編集部編集部

GLP-1とは何を指しているのですか?

志田 美春さん志田さん

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は私たちの体で作られるホルモンで、主に食事をすると小腸から分泌されます。分泌されたGLP-1は血流に乗って膵臓や胃、脳などの全身の臓器に運ばれ、主に血糖値や食欲などのコントロールに関わっています。また、GLP-1は分解されやすく、血液中では約2分で半分の量になってしまいます。

編集部編集部

GLP-1受容体作動薬で、なぜ体重減少するのですか?

志田 美春さん志田さん

2つのメカニズムによって食欲がコントロールされることで、食事の量が減るためです。1つ目は胃に作用し、腸に食べたものを送られるスピードを遅くさせる効果です。食事が胃の中に残っている時間が長くなることで、空腹感を感じにくくなります。2つ目は脳にある食べることの中枢に作用し、満腹感を感じさせる効果です。しかし、あくまでも食欲のコントロール効果はGLP-1受容体作動薬の副次的な効果ですので商品によって差があります。また、個人差もあり、食欲がまったくなくなるほど強い作用ではありません。

GLP-1ダイエットは危険? 注意点とは?

GLP-1ダイエットは危険? 注意点とは?

編集部編集部

GLP-1受容体作動薬は、体重減少のために使用して良いのですか?

志田 美春さん志田さん

基本的には、効果が見込めない場合は使用しない方が良いでしょう。肥満の人の多くは食べ過ぎが原因で肥満になっているため、食欲を減少させることで体重が十分に減少して、肥満が解消されることが期待できる可能性はあります。他方、糖尿病の治療に使う場合でも、肥満症ではなく食べ過ぎの傾向が見られない人は食欲を減少させる効果の少ない薬を使うか、別の薬を使います。それは効果によるメリットよりも副作用によるデメリットが上回ってしまうからです。

編集部編集部

保険適用で手に入れられるのでしょうか?

志田 美春さん志田さん

GLP-1受容体作動薬に限らず、処方せん医薬品が保険適用で手に入るのはその医薬品の適応症と診断された場合だけです。医薬品の適応症は医薬品の添付文書の「効能・効果(適応)」の項目に記載されています。例えば、GLP-1受容体作動薬の1つであるリベルサスという薬の適応症は「2型糖尿病」です。そのため「2型糖尿病」の治療以外の目的でリベルサスを使用する場合は適応外使用になります。他方、ウゴービというGLP-1受容体作動薬は、肥満症に適応があり、条件を満たしていれば処方が可能となります。

編集部編集部

GLP-1受容体作動薬をダイエット目的で使用する人もいますが、危険と聞いたことがあります。その理由を教えてください。

志田 美春さん志田さん

GLP-1受容体作動薬の使用によって体重が減少するのではなく、薬の副作用である低血糖や胃腸障害、膵炎などが起きてしまい、重篤な場合は入院も必要になることがあるからです。GLP-1受容体作動薬だけでなく薬には身体との相性があります。相性が合わないと、体重を減少させたいと思ってGLP-1受容体作動薬を使用しても期待通りに効果が出ません。しかし、薬との相性が合っていないとは気づかずに、もっと効果を高めたいと思い、薬の量を必要以上に増やしたり、極端な糖質制限などの偏った食事をしたり、過度な運動をしたりしてしまいます。その結果、効果よりも副作用が強く出てしまうことになります。

GLP-1受容体阻害薬に関するリスクとは?

GLP-1受容体阻害薬に関するリスクとは?

編集部編集部

個人輸入したGLP-1受容体作動薬を使用するリスクについて教えてください。

志田 美春さん志田さん

医薬品を個人輸入する場合の1番のリスクは偽造製品や粗悪品の可能性があることです。偽造製品については2016年に製薬企業4社がおこなった調査ではネットで購入したED(勃起不全)治療薬の4割が偽造品だったと報告されています。粗悪品については、有害な不純物を取り除く工程を省いて製造しているものや、冷蔵・冷凍の状態を保つなどの適切な温度管理がされていないものなどがあります。成分が分解してしまって効果がないならまだしも、有害な不純物や分解物が含まれていると健康被害に繋がります。また、個人輸入の薬を使用した場合に健康被害があっても、医薬品副作用被害救済制度の救済対象になりません。

編集部編集部

GLP-1受容体作動薬を使用する上で、食生活や運動での注意点はありますか?

志田 美春さん志田さん

効果を最大限に高めて副作用を最小限に抑えるためには、食事では糖質制限をしないことが必須で、運動は適度な有酸素運動をすることが望ましいですね。有酸素運動によって代謝を上げることで効果が高まります。一方で、過度な無酸素運動や糖質制限は副作用の低血糖に繋がります。

編集部編集部

その他、GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する注意点を教えてください。

志田 美春さん志田さん

1番の注意点は、医薬品副作用被害救済制度の対象外になってしまうことです。この制度は保険適用で処方された薬を指示どおりの用法と用量で使用した場合のみ利用できます。そのため、適応外使用の場合は保険適用にできないため、指示を守っていても制度を利用できず、治療費は全額自己負担になります。薬と身体との相性でごく稀に非常に重篤な副作用が出ることもあります。早期に発見できれば重症化を防げることが多いので、特に使い始めは自分の体調の観察をしっかりし、少しでも違うと思ったら早めに医療機関を受診してください。

編集部まとめ

今回は、GLP-1というホルモンやGLP-1受容体作動薬について詳しく教えていただきました。ダイエットに関心のある方々にとって、食欲の減少という副次的な作用のあるGLP-1受容体作動薬は注目の薬ですが、適応外使用をするリスクは大きいとのことでした。本来は、糖尿病の治療薬であり適応内で安全に使用することが推奨されるとのことです。本稿が読者の皆様にとって、糖尿病の治療薬を安全に使用するための一助になりましたら幸いです。

この記事の監修薬剤師