【闘病】「トリプルネガディブ乳がん」 後悔はあの時もっと詳しく検査しなかったこと
「いつかは自分も乳がんになるかも」。そんな想いで闘病者のみのりさん(仮称)は乳がん検診を受けていたとのことでした。予防意識の高い人と言ってもいいのかもしれません。それでもやはり、「再検査」と言われただけでとてもショックだったそうです。「元気そのものだった」というみのりさんが、乳がんと診断されてから治療を終えて現在に至るまでの話を聞かせてもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年2月取材。
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体験者プロフィール:
みのり(仮称)
1970年代生まれ。2020年11月に検診にて3mmほどのしこり(要再検査)を指摘される。マンモグラフィには写らず。再検査、経過観察などを経て2021年12月に乳がん告知を受けた。2022年2月に手術。術後抗がん剤を半年間行い、現在治療はなく半年毎の検査のみ。「おいしかったよ、ありがとう」と毎日言ってくれる高校生の息子のお弁当を卒業まで作ってあげるのが直近の目標。
記事監修医師:
寺田 満雄(名古屋市立大学病院乳腺外科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
不調はまったくなかった
編集部
最初に不調を感じたのはいつですか?
みのりさん
不調は全くありませんでした。「何となくだるい」「疲れやすい」といったこともなく、元気そのものでした。
編集部
受診から診断に至るまでの経緯を教えてください。
みのりさん
きっかけは市のがん検診でした。私の場合、マンモグラフィ検査では「問題なし」と言われたのですが、触診で「3mm程のしこりがある」と告げられ再検査となりました。そことは別のレディースクリニックへ精密検査を受けに行きました。
編集部
どのような気持ちでしたか?
みのりさん
衝撃でした。母も乳がんだったので「いつかは私もなるかも」と、検診は意識して受けるようにしていました。9人に1人と言われていますし、覚悟はしていたつもりでしたが、いざ「再検査」と言われると大変ショックでした。再検査をしたクリニックでは「腫瘍はあるけど良性です」と言われ、半年毎の経過観察で大丈夫とのことですっかり安心していました。
編集部
そこからどのように診断にいたったのですか?
みのりさん
最初の検査から半年後、1年後の検査でしこりの大きさが3mm→9mm→1.2cmと変化していったので、詳しく検査をすることになりました。その結果を聞きに行った日に、乳がんだと告げられました。診察の扉を開けるとドクターの後ろに看護師さんが2人いて、「検査で悪性との結果がでました」と言われ、がんのタイプや治療法を説明されましたが、ほとんど頭に入りませんでした。「抗がん剤治療をすることになります」と言われたのは何となく覚えています。
編集部
その時どのように感じましたか?
みのりさん
診察室から出て待合室の椅子に戻ったのですが、そこから少しも動くことができず、息を吸うのもやっとなぐらいでした。なんとか病院を後にしてからも、近くの公園で4時間程動けずに頭は真っ白、ただただ不安と恐怖でしかなかったです。
編集部
どんながんだったのでしょうか?
みのりさん
私の乳がんは、がん細胞の表面にホルモン受容体もHER2と呼ばれるタンパク質も存在しない「トリプルネガティブ 」というタイプの乳がんです。Ki-67の数値がとても高いタイプでした。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
みのりさん
診断を受けたクリニックから紹介状をいただき、がん専門の病院へ行きました。そこで全身検査などおこなった後に、担当医より「部分摘出手術と放射線治療、抗がん剤治療になります。手術と抗がん剤治療のどちらを先にやるか考えてきてください」と言われました。
編集部
そのときの心境について教えてください。
みのりさん
最初の告知の時に私のタイプは、抗がん剤は必須になると話で聞いていましたので、抗がん剤治療についてはある程度覚悟ができていました。治療の順番は迷うことなく「手術先行でお願いします」とお伝えしました。ちょうどコロナ禍で病院も手術数を減らし始めていたので不安もありましたし、一刻も早く悪い所を取ってほしいと考えたからです。
経験を伝えることで、誰かの命が救えることもある
編集部
実際の治療はどのように進められましたか?
みのりさん
手術は少しでも不安が少ないほうがいいと思い、部分摘出ではなく全摘出を希望しました。放射線はおこなわず、乳房全摘出手術の後に抗がん剤治療という流れになりました。手術後の抗がん剤は、2種類を4クールずつ受けました。最初の1クール目だけはアレルギー反応や副作用などを確認するために入院でおこないましたが、後は通院で治療を受けました。私は50歳前の罹患でトリプルネガティブ 、そして私の母も乳がんでしたので「遺伝子検査の適応」とのことで、手術前に遺伝子検査も受けるか考えてくださいと言われました。検査について丁寧なカウンセリングも受けて、検査をすることを選びました。
編集部
受診から手術、現在にいたるまで、何か印象的なエピソードなどあれば教えてください
みのりさん
抗がん剤治療に向け髪を短くしようと、美容師をしている友人にカットをお願いしました。カットをしながらこれまでの経緯を話していて、「どこも不調がなく元気なのに、検診を受けたことでがんが発覚した」と伝えたところ、知人もしばらく検診を受けていなかったようで、「私も不安になってきた。検診を受けよう」と言っていました。検診の結果は、乳がんステージ0の非浸潤がん。手術をして自家再建したようです。私の経験が、大切な友人の命を救えたかもしれないと思うと複雑ですが嬉しい気持ちになりました。
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
みのりさん
病気になって以降は、幸せを実感することが多くなりました。例えば、洗濯物を干している時の洗剤の匂いだったり、お風呂から子どもの鼻歌が聞こえてきた時だったり、ふとした瞬間に「幸せだなぁ」と感じるようになりました。また、良いことばかりが起こるわけではなく、心が不安定になる時もあります。がんは適切な治療をしたとしても、その後も長い月日を「転移しているのではないか?」と心のどこかで感じながら過ごすことになります。私の場合、治療をしている時より治療後の方が孤独や不安を強く感じるようになりました。
受け身ではなく、自分から伝えよう
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
みのりさん
後悔はあります。エコーやマンモグラフィでも確認できないほどの小さな異変を検診の先生が触診で見つけてくれたのに、その後別の先生から「経過観察」と言われ、1年も過ごしてしまいました。あの時、経過観察と言われて終わりではなく、もっと詳しく相談していれば良かったと思います。実は、最終的に診断の決め手となる検査になった時にも、エコーをしながら「乳腺炎だと思うから様子見でいいですね」と言われましたが、自分から「きちんと検査してください」と伝え、造影剤を使ったMRIをして診断へ繋がりました。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
みのりさん
化学療法の後遺症で指先の痺れだったり、ホルモンバランスの崩れがあったり、元の元気だったころのようにとまではいきませんが、仕事も病気前とあまり変わらずに働くことができています。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
みのりさん
手術や治療をした病院はがんに特化した病院でしたので、半年ごとの検査以外は気軽に受診できませんでした。私は乳がんになる前から近くの血液内科にかかりつけの先生がいましたので、そちらでも化学療法中のフォローをしてもらいました。その先生は、私の不安にとても親身に寄り添い、いつも温かい言葉をかけてくださったので本当に心強かったです。診察の後はいつも心が軽くなったのを覚えています。私たちは、医療従事者の人達の一言や顔色一つで安心したり不安になったりします。検査の結果を聞く時の診察の待ち時間のあの緊張感は言葉では言い表せません。そんながん患者の不安や苦しみを少しでもイメージしながら接してもらえると、安心して治療へ取り組めると思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
みのりさん
検診の重要性はもちろんですが、「確定」できる方法があるのであれば、「経過観察」ではなく先生と相談しながら検査を検討してもらったほうが良いと思います。医療のことはわからないので、どうしても先生任せになってしまいがちですが、受け身ではなく、先生と相談しながら治療を進めていくことで、後悔が少ない治療を受けられるのではないかと思います。
編集部まとめ
最初の精密検査で「良性」と言われていたのには驚かされました。また、ご自身の経験が大切な友人の命を救ったというエピソードも印象的でした。今後の回復をお祈りします。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。
監修医師からのコメント:
寺田先生
経過観察後に乳がんの診断がついた方は、「あの時にもっと詳しい検査を受けていれば……」と考える方は多いと思います。そこで、誤解が少なくなるよう、経過観察について少し補足説明をします。現実問題として、見つかった病変をすべて精査できるわけではなく、その背景には不必要な侵襲的な検査が増えてしまうという不利益があります。むしろ、そのようなケースが大多数です。そのために、侵襲の少ない検査でできるだけ良性らしいか悪性らしいかのあたりをつけています。また、病変が小さい場合はその病変の特徴が出にくいこともあります。そこで、「時間経過で大きくなるのか? 変わらないのか?」は非常に大きい情報量を持っています。仮に悪性だったとしても、この期間であれば、大事には至りにくい期間を置いて、戦略的に経過観察を選択して、「変化があるか・ないか」を診ることは非常に大切です。一方で、どの程度まで検査をしたいかは、個人の考えによるところが大きくなります。検査にもメリットとデメリットがありますので、そこを相談して検討するということが大切だと思います。