「前立腺がん」の放射線治療にリスクはない? 手術とどっちが良い?【医師解説】
社会の高齢化とともに増加し続けている前立腺がん患者数。近年では前立腺がんに対する治療法も進化しており、早期に発見すれば治ることも多いとされています。前立腺がんの代表的な治療法に放射線治療がありますが、一体どのようにして治療が進められるのでしょうか? あらい泌尿器科の新井先生にMedical DOC編集部が聞きました。
監修医師:
新井 学(あらい泌尿器科)
目次 -INDEX-
前立腺がんの治療法の種類には何がある? 手術療法・薬物療法・放射線療法の違いや副作用とは?
編集部
前立腺がんはどのようにして治療するのですか?
新井先生
大きく分けて監視療法、手術、放射線治療、ホルモン療法、化学療法があります。どの治療法を選択するかは、患者さんの年齢や病期、合併症などを考慮して決定します。
編集部
それぞれどのような治療法なのか、簡単に説明してください。
新井先生
まず監視療法は、わかりやすくいえば経過観察のこと。適応があるのは、前立腺がんのサイズが小さく悪性度が低い場合で、PSAの値が10ng/mL以下などのケースです。
編集部
経過を観察することも治療の一つなのですね。
新井先生
そもそも監視療法が行われる背景には、二つの理由があります。一つめは、前立腺がんは一般に進行が極めて遅く、病期にもよりますが、すぐに治療を受けなくても生存期間に影響しない症例が多いこと。そのため、「無理に治療を行う必要はなく経過を観察しても良いのでは?」という考えから、監視療法が選択されることがあります。
編集部
もう一つは?
新井先生
二つめは、前立腺がんには極めて感度に優れ、特異性の高い「PSA」という腫瘍マーカーがあるということ。そのため体に負担となる治療を極力避け、経過をしっかり観察できるという、前立腺がんならではの特徴があります。ただし、監視療法を行っている最中にもし病気が進んでいることが疑われれば、その時点で適切な治療へ移行します。
編集部
そのほかの治療法についても説明をお願いします。
新井先生
監視療法のほかには、前立腺と精のうを切除する全摘手術や、放射線を照射してがん細胞の増殖を抑える放射線治療、男性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬を投与して前立腺がんの進行を食い止めるホルモン療法、抗がん剤を使用する化学療法があります。
編集部
それらのなかでも、前立腺がんは放射線療法が有効と聞いたことがあります。
新井先生
さまざまな治療法のうち、完治を目指す治療は全摘手術と放射線治療です。手術に比べて放射線治療は比較的体への負担が少なく、入院も不要であることが多いので高齢の患者さんでも受けやすい治療法です。特に、がんが前立腺の内部にとどまっているⅠ、II期の限局性がんでは、最も推奨される治療法です。
前立腺がんの放射線治療はどれぐらいの頻度で受けるの? 毎日照射が必要? 仕事との両立は可能?
編集部
前立腺がんの放射線治療はどのようにして行われるのですか?
新井先生
体の外から放射線を照射する「外照射療法」と体の内部から放射線を当てる「内照射療法」があり、それぞれ治療法が異なります。現在行われている放射線療法は、ほとんどが外照射療法です。
編集部
それぞれどのようにして行われるのですか?
新井先生
外照射療法には照射方法の違いによって、三次元原体照射治療(3D-CRT)、強度変調放射線治療(IMRT)、定位放射線治療、粒子線治療(陽子線、重粒子線)などがありますが、いずれも専用の機械のなかで横たわり、患部に放射線を照射します。一方、内照射療法は主に放射線物質を小型の容器に密封してがん組織やその周囲組織に直接挿入し、体内から放射線を照射する方法です。
編集部
外照射療法の場合には入院が必要ですか? どれくらいの頻度で治療すればいいのですか?
新井先生
入院の必要はなく、外来で治療を受けることができます。照射頻度は治療法の種類によっても異なりますが、基本的には土日と祝日を除き、週5回連日で行います。また、1日おきに照射する治療法もあります。また、治療期間も6週間程度から8週間程度までさまざまです。
編集部
どの治療法を選択するかによって頻度や期間が異なるのですね。
新井先生
はい。たとえばサイバーナイフという名称で知られる定位放射線治療は、比較的短期間で終了します。治療の回数もトータルで5~6回くらいです。
編集部
照射時間はどれくらいですか?
新井先生
だいたい10分程度でしょう。ただし、機械によっては1時間程度必要なものもあります。
編集部
それくらい短時間で済むなら、仕事との両立も可能ですね。
新井先生
はい、問題ありません。実際、お仕事と両立しながら治療を続けている方も少なくありません。
編集部
一方、内照射療法は入院が必要ですか?
新井先生
放射線線源を麻酔下で体内に埋め込むため2〜3泊の入院が必要になります。一度埋め込まれた放射性物質は、時間が経過するにつれて放射線エネルギーが低下していき、約1年後にはほとんど消滅し、一部制限されていた行動も解除されます。
前立腺がんの放射線療法の効果・治療後の転移や再発の可能性は? 根治(完治)は目指せるの?
編集部
放射線療法の効果はどれくらい期待できるのですか?
新井先生
放射線療法の効果は手術と同じくらいと考えられており、根治を目指すことが可能です。
編集部
合併症のリスクはありますか?
新井先生
外照射療法の場合には、前立腺だけでなく周辺組織にも放射線が当たるため、直腸粘膜の潰瘍や出血、排便回数の増加、下痢、血尿、頻尿、排尿時痛などの副作用が生じることがあります。一方、内照射療法は外照射療法と異なり、周辺の臓器に照射するのをかなり抑えることができるので合併症が少ないとされていますが、前立腺部の尿道に放射線が当たるため、排尿時痛や頻尿などのいわゆる尿道刺激症状が起きることがあります。
編集部
放射線療法を受けたあとはどうなるのですか?
新井先生
放射線治療が終了した後も定期的にPSAの数値を測定します。照射後にPSA値が「治療後の最低値+2ng/ml」以上、上昇した場合には再発が疑われ、その場合にはホルモン療法が推奨されています。ただし、再発までの期間が長く、転移が見られない場合などは経過観察が選択されることもあります。
編集部
再発しても経過観察することがあるのですね。
新井先生
はい、前立腺がんの進行は非常に緩徐であり、再発してもその後のペースはゆっくりであることが少なくありません。そのため、特にご高齢の方にはあえて治療を行わないこともあります。最終的にはケースバイケースで判断しますが、患者さんのQOLを優先して対応を検討します。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
新井先生
近年、前立腺がんの手術では手術支援ロボットを使用することも増えており、体に負担の少ない低侵襲手術が普及し始めています。その一方、放射線治療も手術と治療成績がまったく変わらないことが科学的に立証されています。放射線療法もロボット手術同様、体に影響が少ないため、どちらの治療法を選択されても良いと思いますが、放射線治療を選択する場合に気をつけたいのは、「その医療機関がどんな治療機器を所持しているか?」ということです。放射線治療は確かに優れた治療法ですが、実際は、どの機器を使うかによって治療効果に差が出ます。たとえば、三次元原体照射治療(3D-CRT)と定位放射線治療では治療成績が異なりますし、ほかの治療法もそれぞれに特徴があり、治療成績に違いが出ます。放射線治療を検討する際には、その医療機関がどの治療機器を所持しているのか確認し、それらの治療成績などを比較しながら選択すると良いでしょう。
編集部まとめ
近年、前立腺がんの患者数は増加していますが、治療法も著しく進化しています。前立腺がんと診断され、治療が必要となった場合、放射線治療は非常に有効な手段のひとつ。ただし、放射線治療と一口にいってもさまざまな種類がありますから、それぞれの特徴を把握した上で、納得できる選択をしましょう。
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