「自閉スペクトラム症」の子どもの特性はご存知でしょうか? 関わり方を児童精神科医が解説
自閉スペクトラム症の特性を持つ子との関わり方に悩みを感じる人は少なくないと思います。中には、その特性を持ちながらも、社会生活の中では、ある程度我慢したり、ほかの能力でカバーしたりできる子もいるようです。「自閉スペクトラム症」という言葉は聞いたことがあるものの、理解を深める機会は多くないのではないでしょうか。そこで今回は、自閉スペクトラム症の特性やグレーゾーンの子の特性、関わり方について、児童精神科医の岡琢哉先生に解説して頂きました。
監修医師:
岡 琢哉(株式会社カケミチプロジェクト)
自閉スペクトラム症という言葉の意味とは?
編集部
自閉スペクトラム症とは、どのような問題を抱える子につく診断なのでしょうか?
岡先生
自閉スペクトラム症は発達障害の診断名の1つです。「社会的コミュニケーションの問題」と「常同性(こだわり、反復行動)と感覚過敏の問題」の両方の問題が幼少期から認められ、社会生活上の困難が強い場合に診断されます。
編集部
以前は、「スペクトラム」という言葉は付かず「自閉症」とだけ呼ばれていたと思うのですが、意味は異なるのですか?
岡先生
「スペクトラム」という言葉が正式な診断名として採用されたのは2013年に発刊されたアメリカの診断基準DSM-5からです。それ以前は自閉症に関連した診断名として「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」など複数の診断名が存在していましたが、様々な研究結果を踏まえていずれの診断名も連続したものであることがわかり、現在は「自閉スペクトラム症」の中に全て含まれるようになりました。
編集部
スペクトラムという言葉にはどのような意味があるのですか?
岡先生
スペクトラムという言葉は「白か黒」と2つに分けられるものではなく、「白からグレー、黒まで」という連続性を持った言葉であるということを意味します。先ほど説明した診断名の変化や自閉症に関する情報が一般の方にも知られるようになったことから、「発達障害のグレーゾーン」という言葉が飛び交うようになりました。
グレーゾーンにいる子との関わり
編集部
グレーゾーンというのは具体的にはどのような状態像の子どもを表すのでしょうか?
岡先生
「社会的コミュニケーションの問題」と「常同性(こだわり、反復行動)と感覚過敏の問題」の2つから考えると、「大人との関わりは問題がなくても、同年代の子ども同士の集団に適応することができない子ども」や「周囲の音に対する過敏性、強いこだわりを持っていても我慢しながら学校生活をおくっている子ども」が当てはまると考えられます。
編集部
グレーゾーンの子どもたちにはどのような特性がありますか?
岡先生
グレーゾーンと言われる子ども達は、自閉スペクトラム症の特性を持ちながらもある程度我慢したり、ほかの能力で補ったりしながら社会生活を送ることができます。こういった我慢や努力が積み重なり、かえって苦痛が強くなってしまい、様々な問題が思春期~成人期にかけて起きてしまうことがあります。
編集部
グレーゾーンにいる子ども達と関わる上で、周囲の人が考えるべきことはどのようなことですか?
岡先生
「診断がつくかつかないか」「障害が目立つか目立たないか」ではなく、「子どもの持つ特性がどのように苦しさを生んでいるのか」ということに注目していくことが重要だと考えています。
自閉スペクトラム症の特性を持つ子との関わり
編集部
自閉スペクトラム症の特性を持つ子にまつわる問題について教えてください。
岡先生
自閉スペクトラム症の特性は「周囲からの情報の受け取り方」や「周囲に対する発信方法」が定型発達の子どもと大きく異なると言えます。このような特性によって、「社会的ルールの理解」が独特になってしまったり、「困りごとの発信」が難しくなってしまったりしてしまうことがあります。特性によって生じた独特の困りごとへの理解がなければ、子どもに対して「わがまま」「融通が効かない」「変わった子」といった不名誉なレッテルが貼られ、本人の良さや「見えない努力」に焦点が当たらなくなってしまいます。
編集部
自閉スペクトラム症の特性を持つ子の保護者にとっては、どのような問題が生まれますか?
岡先生
日々の生活で関わる保護者にとっては「融通の効かなさ」は「扱いにくさ」につながり、感情的な対応が増え、お互いに辛いコミュニケーションが増えてしまうことがあります。
編集部
自閉スペクトラム症の特性を持つ子やその親御さんに対して支援者が関わっていく上でのアドバイスはありますか?
岡先生
特性の強い子どもは日々のコミュニケーションが「辛い」コミュニケーションとなってしまっていることが多く見られます。このような体験を少しずつ変え、楽しいコミュニケーションを増やすこと、その結果として自分以外の存在と関わることが楽しいと感じられるように関わっていくこと(あるいは関わることで楽になることがあること)、保護者の方に子どもが変化していく様子を一緒に見てもらっていくことが支援の第一歩となると考えています。
編集部まとめ
自閉スペクトラム症という言葉は、「白からグレー、黒まで」という連続性を持った言葉であり、「白黒」はっきりする疾患ではない点について教えて頂きました。その特性を持つ子やグレーゾーンの子、その親御さんとの関わり方について、その特性を理解し、楽しいコミュニケーションを取ることや、人と関わることの楽しさに気づくことが重要とのことでした。本稿が、読者の皆様にとって発達障害について学ぶきっかけとなりましたら幸いです。