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DJ KOO脳動脈瘤で「失明寸前」命の危機を家族と乗り越え復活。“初期症状ゼロ”脳動脈瘤の危険度とは

 更新日:2024/01/16
DJ KOO脳動脈瘤で「失明寸前」命の危機を家族と乗り越え復活。“初期症状ゼロ”脳動脈瘤の危険度とは

脳の血管に瘤ができる脳動脈瘤という病気をご存知でしょうか。別名サイレントキラーと呼ばれ、ほとんどの場合症状が全くないのが特徴です。今回はテレビ番組の企画で脳動脈瘤が発覚し、6時間半の手術を決意したDJ KOOさんと脳神経外科指導医の鶴田和太郎先生に病気の発覚から手術、術後のリハビリやご家族の支えについて聞かせていただきました。

DJ KOOさん

DJ KOO(サウンドクリエイター・タレント)

プロフィールをもっと見る

東京都出身。TRFのメンバー・リーダーでDJ担当。2017年、テレビ番組の企画で脳ドックを受けたところ、脳動脈瘤が発覚。6時間半の手術を受ける。現在は後遺症もなく、DJやサウンドクリエイター、バラエティタレントとして活動を続けている。脳ドックや検診の大切さを発信している。

鶴田 和太郎先生

監修医師
鶴田 和太郎(脳神経外科指導医、脳神経血管内治療指導医、脳卒中専門医)

プロフィールをもっと見る

虎の門病院脳卒中センター 部長、脳神経血管内治療科 部長 。
1998年に筑波大学医学専門学群を卒業し、同大学脳神経外科に入局。その後、虎の門病院脳神経血管内治療科や筑波大学などで脳血管内治療の経験を積み、2016年より現職。「脳血管内治療のエキスパート」と言われている。

脳動脈瘤の発覚と治療を振り返る

脳動脈瘤の発覚と治療を振り返る

鶴田 和太郎先生鶴田先生

脳動脈瘤発覚当時のエピソードについてお聞かせください。

DJ KOOさんDJ KOOさん

症状はありませんでした。強いて言えば頭痛が時々あったくらいですね。脳動脈瘤が発覚したきっかけは某テレビ番組でした。それまで僕は健康でDJをずっとやっていて「その日元気であればいいや」という感じでした。でも初めて脳ドックを受けたら、テレビ局からすぐに「大変です。脳動脈瘤が……」と連絡がありました。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

まさかですよね。脳動脈瘤は破裂したら、くも膜下出血になりますが、そうでなければほとんどの方は症状がなく脳ドックなどで発見されることが多いです。

DJ KOOさんDJ KOOさん

瘤が左眼の神経に触れていて、このままだと失明の恐れがあり、9.8mmもある大きい瘤で、瘤の上にさらに小さな瘤が乗っかったようないびつな形をしており、危険な瘤であることがわかりました。これは、1週間先の自分がこの世から消えてもおかしくない状態なのかと、一生のうちであれほど自分を見失ったことはなかったです。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

爆弾を抱えたような心境ですよね。

DJ KOOさんDJ KOOさん

はい。足が宙に浮いたような状態で「家族になんて言おう……」と考えていましたね。
家族にはまず電話で「実は脳動脈瘤があって、すぐに手術しなければ命の保証はないらしい」と伝えたのですが、その日の仕事を終えて帰宅したら、妻と娘がもう脳動脈瘤のことを本やサイトで調べていました。そうやって病気について知ることで余計このままだったら大変なことになると実感したのを覚えています。鶴田先生、どうして脳の動脈に瘤ができるのですか?

鶴田 和太郎先生鶴田先生

はっきりと原因は分かっていないのですが、血管の壁が弱くなっているところに拍動の圧がかかり、徐々に膨らんでくると言われています。そこまで珍しいものではなく、だいたい25~50人に1人の割合で見つかります。
破裂する確率は平均すると年間で約1%。逆にいうと99%の人は大丈夫なので見つかったからといって大慌てするものではありませんが、破裂すると即、くも膜下出血を起こします発症すると3分の1は死亡、3分の1は要介護、3分の1は元気に復帰できるという脳卒中の中でも予後が悪いのがくも膜下出血です。

DJ KOOさんDJ KOOさん

そういった事実を知れば知るほど不安が募りましたね。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

そうですよね。とくに、喫煙や飲酒の習慣がある人や、高血圧の人はくも膜下出血になりやすいと言われています。男女比ですと女性が多いです。

DJ KOOさんDJ KOOさん

僕は一切たばこも吸わないし、お酒も飲まないです。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

そうなのですね。破裂以外にもうひとつ瘤が周りの神経を圧迫するというリスクがあります。例えば視神経を圧迫すると目が見えなくなり、元には戻りません。破れる前、目が見えなくなる前にKOOさんの動脈瘤が見つかり、きちんと治療していただいて本当によかったです。

DJ KOOさんDJ KOOさん

脳動脈瘤はサイレントキラーと呼ばれていますが、こうなったら検査した方が良いというのは本当にないのですか?

鶴田 和太郎先生鶴田先生

脳動脈瘤は本当に怖いもので、破れるまでは症状を出さない、まさにサイレントキラーですね。見つけるためには脳ドックでチェックするしかありません。
とくに40歳以上や喫煙者、高血圧、飲酒量の多い方、女性、ご家族に脳動脈瘤の方がいらっしゃる方などは症状がなくても積極的に脳ドックを受けていただきたいですね。

DJ KOOさんDJ KOOさん

やはりそうなのですね。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

KOOさんが手術を受けると決めた時のことを教えてください。

DJ KOOさんDJ KOOさん

先生から手術は2種類あると言われました。カテーテル手術と開頭クリッピング術です。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

血管の中から糸のようなコイルやステントと呼ばれる円筒状の金属メッシュを入れて血管の中から固めるのがカテーテル手術と、KOOさんが受けた開頭クリッピング術ですね。

DJ KOOさんDJ KOOさん

頭を切って手術するなんて怖かったですが、家族からは「出来るだけ根本から治療してもらって」と言われました。診てもらった先生に「私は病気を手術するのではない。『DJ KOOの人生』を手術します。手術後も今まで通り『DJ KOOの人生』が送れるようにします。」と言っていただき「この先生にお任せしよう」と思いました。

入院時

鶴田 和太郎先生鶴田先生

未破裂動脈瘤は症状が全くなく元気なので、手術に踏み切るのは怖いですよね。そこで手術を決心するには、医師との信頼関係が大事だと思います。

DJ KOOさんDJ KOOさん

はい。先生からは「まだ未破裂なので必ず復帰できますよ」と言っていただきました。ただ、手術が6時間半と……かなりかかりましたね。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

開頭クリッピング術の良い点は再発が非常に少ないことです。ただ、頭を切らないといけない。KOOさんの場合、眼の神経が接していたり、大きいので血流を一旦止めてクリップをかける必要があり、かなり大掛かりな手術になったと思います。

DJ KOOさんDJ KOOさん

当時、娘がまだ高校生でいつも毅然としているクールな子ですが、手術室から出てきた僕に「パパー!」と泣いてすがっていたと聞いて相当心配させてしまったなと思いました。

想像以上に辛かった手術の後遺症とリハビリ生活。検診の大切さを呼びかける

想像以上に辛かった手術の後遺症とリハビリ生活。検診の大切さを呼びかける

鶴田 和太郎先生鶴田先生

6時間半の手術を終えた後はいかがでしたか?

DJ KOOさんDJ KOOさん

手術当日の夜は辛かったですね。頭は痛いし、気持ち悪いし……どうして良いかわからずに、窓の向こうの信号機をずっと眺めながら朝を迎えました。手術当日と翌日は何も口にできなかったのが、3日目にお水が飲めるようになり、4日目にお吸い物が飲めるようになり、5日目から自分でトイレに行けるようになり、目に見えて良くなっていきました。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

KOOさんの手術は開頭クリッピング術の中でも大手術だったと思うので、KOOさん自身、本当に頑張られたと思います。3つクリップを使用されたのでしょうか?

DJ KOOさんDJ KOOさん

はい。入院してから3週間弱で退院しました。もっと長引くかと思っていたのですが、術後、眼科検査や動体視力検査なども受けて、手術前の数値と比較した結果「後遺症なし」と言っていただきました。

クリップ写真

鶴田 和太郎先生鶴田先生

素晴らしい治療を受けられましたね。

DJ KOOさんDJ KOOさん

強いて後遺症というなら、前より派手好みになりましたね(笑)。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

術後は苦労もあったと思うのですが、その辺りをお聞かせください。

DJ KOOさんDJ KOOさん

歩行時のふらつきなどもあったのですが、首を切ったこともあり、口が開けられずに苦労しました。痛かったですが、今日は指1本分開ける、次に2本分……といった感じでリハビリをしました。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

そうですね。手術の時、側頭筋という口を開け閉めする際に使う筋肉も切る必要があったのだと思います。口が開けられないというのは本当に辛いですよね。食べるのも喋るのも億劫になります。

DJ KOOさんDJ KOOさん

それまでの人生で口が開けられないなんてなかったので「これでDJができるのだろうか……」とすごく不安になりました。でも、看護師や先生、家族が「慌てなくて良いよ。それだけ大きな手術をしたんだから、すぐによくならなくて当たり前だよ」「パパをみていると日に日に良くなっているよ。大丈夫!」と言ってくれたので、それがすごく支えになりましたね。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

ご家族のサポートは大きいですよね。

DJ KOOさんDJ KOOさん

しばらくは音楽も聞く気にならなかったのですが、ある日、娘に「何か音楽かけてよ」とお願いしたところ、TRFの『寒い夜だから…』が流れてきました。娘はTRFの曲がたくさん入ったプレイリストを作っていました。その時は涙が出ましたね。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

お話を聞いていると、娘さんはKOOさんが大好きなのですね。

DJ KOOさんDJ KOOさん

はい。僕の方もなかなか子離れできないです(笑)。
退院後も、まずはウォーキングを始めたのですが「歩いているときになにかあったら困る」と妻と娘が付き添ってくれました。商店街を歩いている時に「DJに戻れるのかな」と呟いたら「じゃあ練習しよう。周りの看板や貼り紙をDJ風に読んで、TikTokにあげよう!」と言われたので「パートさん募集Come on~!」なんてやっているのを撮ってもらっていましたね。やっと声を出せるようになった!という安心感もありました。娘からは「1人の時にはやらないでね」と言われましたが(笑)。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

ご家族と二人三脚ですね。術後は体力も落ちているので、ウォーキングは非常に良いと思います。

DJ KOOさんDJ KOOさん

商店街を楽しそうに歩く人たちを見て、コンプレックスというか「なんで自分はできないんだ」と思ったこともありましたが、家族が心の支えになり「家族のために元気になろう!」と思えました。健康で普通の生活が送れるのは当たり前ではないと気づきました。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

病気を経験すると視点が変わると言いますよね。

DJ KOOさんDJ KOOさん

本当にそうです。手術翌年、娘の誕生日に家族で食事に出かけた時、娘がポツンと「あの時手術していなかったら、もしかしたら今3人じゃなくて2人だったのかな」と言っていて「手術して本当によかった。今年も3人で過ごせてよかった」と思いました。父親としては、術後の姿は娘に見せたくない思いもありましたが、一番見せたくない姿を共有することで、今は「これからも3人でひとつの船に乗っていこう」という気持ちです。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

感動ですね……。KOOさんは再発予防のために気をつけていることはありますか?

DJ KOOさんDJ KOOさん

まずは定期検診ですね。今も2年に1回脳ドックを受けています。もう62歳なので、脳に限らず、全てにおいて健康面を意識しています。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

脳動脈瘤は、わずかですが再発の可能性がありますので定期的に検査を続けていただきたいです。

DJ KOOさんDJ KOOさん

一度脳動脈瘤になった人の方が、今後もなりやすいというということはありますか?

鶴田 和太郎先生鶴田先生

一度なったからなりやすいということはありません。別のところにできる可能性もとても低いですので安心してDJを続けていただきたいです。

DJ KOOさんDJ KOOさん

それから、玉ねぎや海藻を積極的に摂るなど、食事にも気をつけるようになりました。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

脳動脈瘤の再発防止、くも膜下出血の防止という点では、血圧管理が非常に大事なので塩分には気をつけてください。

DJ KOOさんDJ KOOさん

塩分控えめですね。僕はあの時テレビ番組に出ていなかったら、今こうやって存在していない可能性もありました。今はライフスタイルも大きく変わって「いただいた命」と思っています。周りにも「健康が当たり前じゃないよ」「脅すわけじゃないけれど、検査に行ったら何かあるからね」と、自分の病気や手術も公表して検診を呼びかけています。最近は、病院で「KOOさんの発信を見て父を検診に連れて行ったら、父にも動脈瘤がありました」と話しかけてくれる方もいました。発信するって大切だなと思いましたね。

鶴田 和太郎先生鶴田先生

KOOさんが呼びかけてくれることで、たくさんの方が救われると思います。
お話を聞いて、奥様や娘さんの支えがすごく大きなパワーになったのではないかと感じます。
実は今日、ご家族からKOOさんにお手紙が届いていると聞いています。

パパへ

脳動脈瘤だと分かった時、とにかくいつ破裂するかわからないから、1秒でも早く手術してもらいたくて、恐ろしくて泣いてしまったよね。
北海道への飛行機で「気圧は大丈夫?」って私は思っていても、パパは私の事ばかり気遣っていて「これ美味しいから食べな」「こうやると楽だよ」と、いつもの様に優しくて。
再検査で、脳動脈瘤がもっと大きく、先生から「眼球を押していて本来なら失明している状態ですが見えていますか?」と聞かれたときは、怖くてどうしたらいいのか分からなくなった。手術前に先生が「患者さんが命を掛けて手術台にのぼるのですから、私は医者生命を掛けて、手術します。必ず成功します。」って言ってくれた言葉を繰り返し、手術が終わるのを待っていたの。
先生は「手術は成功です。」って仰ってくれたけど、痛みで、もうだめかもかなって思う時が何回もあって。
パパは、痛みで眠れず、体力の限界を超えると気を失うようにほんの少しだけ眠れて。
そうすると、少しずつだけど良くなって、徐々に水やお粥を舐める程度でも口に入れられるようになって、目に見えて体力が戻ってきて本当に嬉しかったよ。
立てるようになり、リハビリを凄く頑張っているのを隣で見ていて、痛みと戦いながらも、少しの時間も惜しまず努力し続けていて、本当元気になってくれてありがとう。
心から生きていてくれてありがとう。
今はよく分かりました。私達を大きな愛で幸せにしていてくれていたことを。
18才から側にいてパパが優しいのが当たり前だった。
でもこれからは1秒1秒を大切に、愛と感謝と優しさを送り続けていきたいと思います。

妻より

パパへ

パパに脳動脈瘤が見つかった時、私は高校3年生で、受験とか色々あったけれど、とにかく1秒でも早く手術して欲しいとずっと思っていたのを今でも覚えています。
脳動脈瘤が発見されてからは、パパとママは先に北海道の病院へ行って、私は学校があったから東京に残り、家には私とおばあちゃまの2人きりで、内心はすごく不安で北海道について行きたいと思っていました。
手術前はやっぱり我慢できなくて、まだ病気について発表していなかったから、仮病で学校を休んで初めて一人で飛行機に乗って北海道へ向かい、本当に何もかも不安でいっぱいだったけど、手術室から帰ってきて、まだまだ痛みはあるけれど意識があるパパをみて、緊張が少しほぐれて気づいたら泣いていました。
痛み止めを投与してもなかなか治らない術後の激しい痛みや開頭した頭の傷、血液の管を出すための首の傷、その首の傷で開きづらい口、もし私ならめげてしまうことばかりでも乗り越えて、一生懸命リハビリをしてくれて、何よりも生きていてくれてありがとう!!
元気になってくれて本当にありがとう!!
毎日幸せをありがとう!!
これからも健KOO第一で笑顔いっぱいでいてね!!
本当に本当に大好きだよ!!

長女より

鶴田 和太郎先生鶴田先生

すごいですね……。ご家族のKOOさんへの思いを感じました。

DJ KOOさんDJ KOOさん

僕も、あの時はどうなるかと思いましたが、家族の愛ってこんなにも大きいんだなと改めて感じました。ありがとうございました。自分の体を大切にするということは、自分の家族も仲間も仕事も大切にすることだと思います。早期発見・早期治療で、今の僕みたいに元気になれます。検診を忘れずに!

鶴田 和太郎先生鶴田先生

脳動脈瘤は、未破裂であれば、安全に治療ができます。くも膜下出血になれば3人に1人が命を落としてしまいます。長い人生、ご家族と一緒に元気に過ごすためにも、脳ドック・検診を受けましょう。

編集後記

全く症状がない中で病気が発覚するだけでも不安ですが、そういった状況で開頭クリッピング手術を決心するのも大きな不安があったと思います。ご家族の支えもあり、今は元気になられて本当によかったです。KOOさんの「健康で、普通の生活が送れるのは当たり前ではない」「自分の体を大切にするということは、自分の家族も仲間も仕事も大切にすること」という言葉がとても心に沁みました。1人でも多くの方が、脳ドックや検診に関心を持っていただけることを願います。

この記事の監修医師