コミュニティへの参加がフレイル予防に効果的! 社会的なつながりとフレイルの関係とは
「老後は家でゆっくりしたい」と思う方は少なからずいるのではないでしょうか。しかし、仕事を引退し、趣味やコミュニティ活動が少ない方は、心身の虚弱状態である「フレイル」になるリスクが高いと言えるようです。社会的なつながりは身体活動を促し、健康維持に役立ちます。社会的なつながりの減少をセルフチェックする方法や日常生活におけるアドバイスを鹿児島大学特任研究員の立石麻奈さんに教えていただきました。
著者:
立石 麻奈(健康運動指導士)
共著者:
牧迫 飛雄馬(理学療法士)
フレイルの社会的側面について知る
編集部
フレイルの社会的側面とはどのようなものでしょうか?
立石さん
一般的に高齢期は、社会的つながりを喪失するきっかけになるライフイベントが多く発生する期間とされています。そういったタイミングは友人・知人・家族との交流機会の減少や外出頻度の低下、独居、経済的困窮などにつながりやすいと言われています。フレイルの社会的側面とはそういった経済状況や社会的ネットワーク、社会活動の実施状況も含めた社会的背景からみたフレイルの一面を示します。
編集部
社会的なつながりとフレイルの関係について教えてください。
立石さん
社会的なつながりの質や程度がフレイルのリスクに影響すると言われています。社会的なつながりや交流は、孤独感やうつ病などの精神的な問題を軽減するだけでなく、外出による身体活動量増加、筋機能の向上、ストレスや不安の軽減、生活の質の向上などに役立つと言われています。良好な社会とのつながりを有することは様々な面からフレイル予防に効果的であり、健康状態の維持に有効である可能性があります。
編集部
社会とのつながりが減少するリスクとなる要因にはどのようなものがありますか?
立石さん
高齢期に生じやすい特有のライフイベントの発生は、フレイルの社会的な側面にも大きな影響を及ぼします。例えば、長年勤めていた勤務先の退職、家族やパートナーとの死別、身体的な機能の制限による趣味活動の休止・引退、身体的機能低下による移動制限、住環境の変化、コミュニケ—ションツールの変換への対応などがあります。これらは孤独感の発現やうつ病の発症や生活の質の低下などをまねいてしまう可能性があります。
ほかのフレイルとの関係とは
編集部
身体的なフレイルとはどのように関係しているのでしょうか?
立石さん
フレイルの社会的側面と身体的フレイルは高齢者が健康的な生活を送るうえで相互に関係し合っているといえます。身体的なフレイルには、身体機能の低下や筋力・持久力の低下、バランスの悪化、活動制限などが含まれます。身体的フレイルが進行すると、外出や趣味活動の機会がなくなり、社会的活動(友人とのお茶会・サロン活動など)への参加が減少する可能性があります。逆に、社会とのつながりがなく閉じこもりがちの方は身体活動量が減少し、身体機能が低下する可能性があります。
編集部
精神・心理的フレイルとはどのように関係しているのでしょうか?
立石さん
フレイルの社会的側面と精神・心理的フレイルにおいても、相互に影響し合っています。いずれも高齢者の生活の質、健康状態、幸福感に影響を与える要因になっています。高齢者が社会とのつながりをもつことが難しくなると、孤立感や孤独感、喪失感を抱くようになり、不安やうつ状態の助長につながる可能性があるといわれています。
編集部
社会的なつながりの減少をセルフチェックする方法はありますか?
立石さん
①独居(1人暮らし)である
②昨年と比べて外出頻度が減っている
③友人の家を訪ねていない
④家族や友人の役に立っていないと思う
⑤誰かと毎日会話をしていない
上記の5項目のうち2項目以上に該当すると社会的な側面でのフレイルのリスクが高い状態とされます。
加齢に伴う社会的つながりの減少を予防する
編集部
加齢に伴う社会的つながりの低下は予防することができるのでしょうか?
立石さん
加齢に伴う社会的つながりの減少は予防できるものと考えられます。一方で、機能的変化ではないため、自覚しにくく、予防が難しいものであるともいえます。具体的な予防策としては地域の活動やイベントに参加し、友人や家族との交流を維持することが挙げられます。さらに定期的なコミュニティへの参加や趣味の継続、新しい友人との出会いなどが、社会的フレイルの予防に役立つ方法であると考えられます。また公共交通機関やタクシーの利用、コミュニティセンターの利用など、地域資源やサポートサービスを活用することもおすすめです。
編集部
コミュニティへの参加やテクノロジーの活用がフレイル予防に与える影響について教えてください。
立石さん
社会的なつながりの減少が元凶となり、ドミノ倒し式に生活範囲の狭小化やこころの健康、口腔機能、栄養状態、身体機能の低下をたどり、重症化すると言われています(フレイルドミノ)。地域でのサロン活動(趣味や運動をおこなう集い)は認知機能の向上や身体機能の向上に効果的であると言われています。さらに、65歳以上の方ではサロン活動参加者は非参加者と比較して、要介護認定率や認知症の発症率が低いことが報告されています。また、SNSやビデオ通話アプリの利用は、遠方の友人や家族とのコミュニケーションが手軽にでき、対面での交流が困難な場合は遠隔での交流も社会的つながりを保つうえで効果的な可能性があります。
編集部
その他、加齢に伴う社会的なつながりの減少を予防するためのアドバイスはありますか?
立石さん
社会的つながりの減少を予防するためには「自分に好みに合わせて」「継続して」活動することがポイントになると考えられます。積極的な外出や地域コミュニティへの参加は社会性を保つうえで効果的である可能性が示されていますが、必要があればコミュニティセンターや専門家を頼りながら、オンラインサービスを活用したり、買い物や散歩の頻度を高めたりなど、自分に合った無理のない活動を「継続して」おこなえるようにしていくことが重要であるといえます。
編集部まとめ
社会的なつながりの減少は自分では気づきにくい一方で、早期に気づくことで予防することが可能とのことでした。様々なテクノロジーやアプリの活用、地域のコミュニティへの参加はとても有効な予防行動であると学びました。さらに、自分の好みに合わせて活動を継続することが大切なようです。本稿をきっかけにご自身やご両親の社会的つながりに目を向けて頂けますと幸いです。