【闘病】物が二重に見える…30代で『重症筋無力症』に。「難病は自分には関係ないと思っていました」
「最初は物が二重に見え、次第に軽い物が持てなくなったり、何もないところで転んだりするようになった」と語る森口さん。医師から「重症筋無力症」と診断され、今も疾患と向き合いながら闘病生活を過ごされています。「重症筋無力症」とは、同じ筋肉を繰り返し動かしていると力は入らなくなる、ものが二重に見えるなどの症状が現れる疾患です。日によって症状の現れ方に変動があるため、ただの疲れだと思い込んで見過ごしてしまう人も少なくないようです。そこで、どのような症状が出て、どのような流れで診断されたのか、森口さんにお話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年10月取材。
体験者プロフィール:
森口 貴美
1972年生まれ、北海道在住。息子と二人暮らし。2003年夏から秋にかけて、複視や脱力(転倒・何もないところでつまずく)、腕が上がらなくなる、箸が持てなくなるなどの症状が現れ、近所の眼科を受診。その際は特に診断はつかなかったが、複視が頻繁になってきたため再度受診したところ、神経内科を紹介され、2004年3月に「重症筋無力症」と診断を受ける。入退院や転院を経て、現在は服薬治療をしながら長年の夢であったコーチング相談やイベント企画・運営、講演活動などに尽力する。
記事監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
疲労だと思っていたら「重症筋無力症」という難病だった
編集部
まず初めに、「重症筋無力症」の症状について教えてください。
森口さん
重症筋無力症は指定難病のひとつです。私の場合は疲れやすい(自宅の掃除をするだけで疲労状態)、左目に顕著な複視、脱力(左手、指、両足、両目)、呼吸苦(少し動くだけで息が上がります)、咀嚼・嚥下困難などの症状があります。
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
森口さん
初めは複視が気になり、眼科を受診しました。ですが、たまたま受診のタイミングで複視の症状が現れず、経過観察になりました。その後、軽いものが持てない、何もない所で転ぶといった身体的な症状が次々に起こりました。再度複視が出たため眼科に行き、そこから神経内科を紹介され受診をした結果、「重症筋無力症」と診断されました。
編集部
自覚症状などは複視や脱力が主でしょうか?
森口さん
はい。自分で分かる範囲での自覚症状は、複視と手や足の脱力でした。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
森口さん
「まずは服薬治療と、入院をして胸腺の手術をします」と説明がありました。
編集部
病気が発覚した際、どんなお気持ちでしたか?
森口さん
私の場合、しばらくすると症状が出なくなるので、まさか病気だとは思いませんでした。身体の異変も痛みはなく、しばらくすると治まるので「疲れなのかな」と軽く考えていました。手術のための入院をしてすぐに、ドクターからあるインターネットの記事を受け取りました。そこに生存率も書かれていたのが今でも目に焼き付いています。それまでは手術をしたら治ると軽く考えていましたので、将来を考えると不安になっていた記憶があります。
胸腺の手術を受けたことで症状が改善されたが、肺炎を発症
編集部
胸腺の手術について詳しく教えていただけますでしょうか?
森口さん
胸腺を内視鏡手術によって切除します。この手術を受けることで、日内変動の緩和・症状の緩和・呼吸の安定が期待できるそうです。一方で、「内視鏡での手術になるので胸腺をすべて取り切ることができないかもしれない」という説明も受けました。
編集部
実際に手術を受けた後、変化は感じられましたか?
森口さん
・箸が持てるようになった
・文字を書けるようになった
・余程の体調不良にならない限り、車いすを使わなくなった
・体調に合わせた生活やスケジュール調整ができるようになった
ほかにもいろいろありますが、かなり改善されたように感じています。
編集部
術後の体調はどうでしたか?
森口さん
実は、肺炎になりました。手術してから数年後に転院した際に医師から、「横隔膜が損傷している、おそらく胸腺の手術の際に損傷してしまったのだろう」と言われました。現在もその影響で肺活量は健康な人と比べて3分の1しか機能していないそうです。 ほかにも、私は呼吸筋に症状が出る球症状があるため風邪などから肺炎や呼吸筋に影響が出やすいと説明を受けています。ただ、症状は人それぞれ違いますので、筋無力症の人全員に当てはまるわけではありません。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
森口さん
※クリーゼ……症状が急激に悪化して呼吸困難を起こすこと
病気になって気づいたことは、これからの人生に活かされていく
編集部
闘病に向き合う上で心の支えになっているものを教えてください。
森口さん
家族の存在や、いつもそばで支えてくれている友人や同病の友人が心の支えです。今は、20数年前から温め続けていた「生きづらさを抱えた人と社会をつなぐ架け橋になる活動」を楽しんでいます。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
森口さん
「大丈夫! あなたなら乗り越えられるよ! これからの想いや経験が必ず自分の財産になるから」と伝えたいですね。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
森口さん
ステロイドプレドニン・プレドニゾロンを毎日12mg、プログラフ2cap、メスチノンを1日3回、そのほか胃薬・整腸剤、緑内障目薬などを服用しています。服薬と併用して、薬だけでは改善されない部分を補うために点滴治療も数年受け続けています。これまで、免疫治療である静注用ベニロン点滴と人免疫グロブリン点滴を数年続けました。令和に入り、抗補体治療のソリリス治療に切り替え、現在は1年前程前から作用の期間が長いユルトミリス治療を 2カ月に一度の頻度で受けています。点滴治療と服薬はありますが、数年前に比べて、スケジュールの管理も楽になりました。普段はヘルパーさんに来ていただいて、洗濯や、入浴介助を受けています。
編集部
「重症筋無力症」を意識していない人に一言お願いします。
森口さん
発症前まで、難病は自分には関係ないと思っていました。ですが世の中には痛みのない症状でも難病と診断されることもあります。体に普段と違う症状が出たらよく観察して、継続するような場合には念のために病院を受診したり、詳しい人や機関に相談したりすることも大切だと思います。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
森口さん
いつも良くしてくださる医師や医療従事者の皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。難病と一口に言っても出る症状には個人差があります。重々承知かと思いますがあえて何かお伝えさせていただけるのであれば、病気を一塊で判断をせずに個人に適した手助けをしていただけるとありがたいです。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
森口さん
みんなそれぞれ与えられた命と身体を大切に生きています。ですが、人生は何が起きるか分かりません。そんな時、周りの方のお力添えが必要になります。ほんの少しの優しさや手助けで社会に出ることのできる人がたくさんいます。街で困っている人を見掛けたら、その優しさを分けていただけると嬉しいです。
編集部まとめ
森口さんは難病になったことで、信頼できる医師との出会いや同病の友人との絆、周囲の人たちの優しさなどに触れ、失ったものより得たものの方が多かったそうです。ご自身の経験を通して、病気を抱える人たちへ、「難病になってもあきらめないでください。あなたは決して1人ではありません。いつの日か必ず笑顔で過ごせる日が訪れます」という温かいメッセージをくださいました。なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。