【フレイル予防】バランストレーニングで転倒を防ぐには? 理学療法士が解説
「転倒」は身体的な虚弱状態「フレイル」に繋がるリスクがあることをご存じでしたか? 有酸素運動や筋力トレーニング以外に、バランス練習をすることでフレイルになるリスクが低下する可能性があるようです。そこで今回は、バランス能力のセルフチェックや練習方法について、鹿児島大学助教で理学療法士の白土大成先生に詳しく教えていただきました。
著者:
白土 大成(鹿児島大学医学部保健学科理学療法学 助教)
共著者:
牧迫 飛雄馬(理学療法士)
バランスとフレイルの関係
編集部
転倒とフレイルの関係について教えてください。
白土さん
転倒とフレイルはお互いに悪い影響を与える可能性があります。65歳以上の地域在住高齢者において、直近1年間に転倒を経験した方の割合は約30%と報告されており、このうちのおよそ1割の方は骨折などの重篤な外傷に至ると言われています。また、転倒を経験したことで歩行に対する不安感や恐怖感を抱き、生活範囲が狭くなり、生活の質(QOL)が低下する恐れがあります。つまり、転倒の経験がその後のフレイルを引き起こすきっかけとなる可能性があります。同様に、加齢に伴い生理的な予備能(ストレスに対応する力)が低下し、様々なストレスの影響を受けやすいフレイルは、転倒のリスクを増大させる要因にもなります。
編集部
転倒を予防することで、フレイルになることを防ぐことはできるのでしょうか?
白土さん
転倒予防対策とフレイル予防対策では、それぞれの原因が異なることから、転倒予防対策のみでフレイルを完全に予防することは難しいかもしれません。他方、身体的な機能を維持・増進させることは、転倒およびフレイルの両方の予防のために共通している対策なので、転倒予防の対策がフレイルの予防の一部を担える可能性は十分にあります。また、頻回に繰り返される転倒や重篤な怪我を伴う転倒は、フレイル発症のリスクとなりますので、フレイルの予防のためにも転倒を避けることは重要です。
編集部
バランスを鍛えることはフレイルにどのような効果がありますか?
白土さん
バランスを鍛えることはフレイルを直接的、間接的に予防できる可能性があります。高齢者を対象にバランス練習の効果を検証した大規模な研究によると、2年間のバランス練習は、バランス能力や筋力を改善するだけでなく、外傷を伴う転倒の発生リスクを低下させることが報告されています。すなわち、バランスを鍛えることで転倒予防につながり、このことは間接的にフレイルを予防することにも寄与します。
セルフチェックとトレーニングの方法
編集部
自分のバランス能力を手軽に知る方法はありますか?
白土さん
バランスチェックの3つの方法をご紹介します。まずは、「過去1年間に転倒した経験があるかどうか」を思い出してください。1回でも経験がある場合は、バランス能力が低下しているサインかもしれません。
編集部
ほかの方法についても教えてください。
白土さん
①片足立ちで靴下がはけない
②家の中でつまずいたりすべったりする
③階段を上がるのに手すりが必要である
④家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)
⑤2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である(1リットルの牛乳パック2個程度)
⑥15分くらい続けて歩くことができない
⑦横断歩道を青信号で渡りきれない
上記7つの質問に「はい」と答えた数が多いほど、バランス能力が低下している可能性があります。
編集部
最後のチェック方法はどのようなものですか?
白土さん
最後のチェック方法は「開眼片足立ち」です。素足で両手を腰に当て、左右両方の片足立ち(片足を5cm程度前方にあげる)をおこないます。60秒以上の片足立ちが難しい場合は、バランス能力がやや低下している可能性があります。また、13秒以上に満たない場合は、バランス能力が大きく低下している可能性があり、バランスを鍛える取り組みを継続的におこなうことをおすすめします。
編集部
バランスを鍛えるためにはどのようなトレーニング方法がありますか?
白土さん
バランスを鍛えるために有効な3つの方法を紹介します。まずは、「タンデム」という運動です。これは、片足のつま先と反対の足の踵を一直線になるように合わせてバランスを保つ運動です。10秒間キープし、足の前後を入れ替えながら、合計4回おこなってみましょう。
編集部
2つ目のトレーニングはどのようなものですか?
白土さん
次に、「かかと上げ」の運動です。立位で両足のかかとを出来るだけ高く上げて、10秒間その位置をキープしてください。バランスを崩しそうになる場合は壁や椅子を触りながらおこなっても問題ありません。合計3回おこなってみてください。
編集部
最後のトレーニングについても教えてください。
白土さん
最後に「片足ステップ(フロントランジ)」の運動です。両手を横に、肩幅に足を開いて立ちましょう。次に、両手を腰に置きながら、片足を一歩前に出します。両足を90度の角度まで曲げてキープします。このとき、前に出した足の膝がつま先より前に出ないように注意してください。前に出した足に体重をかけ、後ろの足でバランスを保ちます。前に出した足のつま先で地面を押し離し、スタートの体勢に戻る。これで1回となります。連続10回おこない、反対の足でも同様におこないます。
編集部
バランスを鍛える上で、より効果を高めるためのポイントはありますか?
白土さん
「習慣化」と「難易度」の2つがポイントです。バランストレーニングを含めてあらゆる運動は、習慣化することでその効果を発揮します。そのため最低でも週1回は、トレーニングをおこなうことをおすすめします。また、あまりにも簡単すぎるバランストレーニングは、その効果が乏しくなることがあります。可能な範囲で、少し難しいと感じる程度に難易度を調整することをおすすめします。
バランストレーニングの注意点とは?
編集部
バランスを鍛えるために、日常生活でできることはありますか?
白土さん
片足立ちやかかと上げを歯磨きや手洗いなど日常生活の中に取り入れることも有効となります。また、良い姿勢を意識することも重要です。下腹部に力を入れて、骨盤を起こし、背筋を伸ばすといった真っ直ぐな姿勢を意識的におこなうことでバランス能力の維持に役立ちます。背筋が伸びることで胸もまっすぐになり、若々しい姿勢を維持できるといえます。
編集部
バランスを鍛える上で注意すべき点はありますか?
白土さん
最も注意すべき点は、バランスのトレーニング中に転倒しないようにすることです。転倒予防対策、フレイル予防対策の一環としてバランストレーニングをおこなうわけですが、トレーニングではバランスが不安定になる状況をつくってバランスを保つ練習をしますので、常に転倒の危険性を有しています。その日の体調を含めた難易度調整やトレーニングをおこなう環境の整備などに留意しましょう。
編集部
特に高齢の方がバランスを鍛えたいと考えた際に注意すべき点はありますか?
白土さん
バランスを鍛えるトレーニング中に転倒しないように配慮することに加えて、現在健康上の問題がある場合は、かかりつけ医に相談してからトレーニングをおこなうことをおすすめします。急激な血圧の変化などがあると、ふらついて転ぶ危険も高くなります。継続的にトレーニングをおこなうために、体調を管理しながら、少しずつできる範囲でおこないましょう。
編集部まとめ
バランス練習のみでフレイルの完全な予防や改善は難しいですが、フレイルに対して大変有効な運動であることを教えていただきました。他方、ほかの運動と同様に習慣化と適切な難易度の設定が重要であり、注意すべき点もあるとのことでした。まずは、バランス能力のセルフチェックをぜひ安全におこない、運動の習慣化を目指してみてはいかがでしょうか。