男女の違いを踏まえた医療「性差医療」とは? 男女における身体の違いを学ぶ
近年、男性と女性の違いを踏まえた「性差医療」という医療の研究が進んでいるようです。「性差医療」とはどのような医療なのでしょうか。また、男性と女性では生物的・環境的にどのような違いがあるのでしょうか? NPO法人HAP理事長で薬剤師の宮原富士子さんに詳しく教えていただきました。
監修薬剤師:
宮原 富士子(薬剤師)
性差医療とは?
編集部
性差医療とは、どのようなことがきっかけで考えられ始めた医療なのですか?
宮原さん
男性と女性で、病気を患うきっかけや症状、病状の変化には違いがあります。男性がなりやすい病気、女性がなりやすい病気、男性しかならない病気、女性しかならない病気、同じ病気でも男女で進行が違う病気、悪化や死亡のリスクが違う病気があります。そして、治療に使う薬にも男女で効果や副作用の頻度、現れ方の違う薬があることもわかっています。そこで、今、日本では「性差医療」という研究が進み、その成果を日常の診療や、病気の予防を活かす試みが始まっています。
編集部
性差医療は、どのような医療なのでしょうか?
宮原さん
性差医療(gender-specific medicine)とは、男女の生物としての違いに注目し、生活や文化に関連する環境の違いにも配慮しながら、生物的な性別やジェンダーなど個々に応じた健康のありかたや病気の予防や診断、治療にアプローチする方法です。男女比が圧倒的に傾いている病気,同じように発症しても進展に男女差がある病気、社会的な男女の地位や生活環境により異なると考えられる状態や健康格差について研究し、その成果を病気の診断や予防、治療に活かすことを目的とした医療です。
編集部
性差医療を考える上で重要な点には、どのようなことがありますか?
宮原さん
男女では、持っている臓器の一部が異なります。また、それぞれの臓器から性ホルモンを出すことで臓器は機能を維持しています。男女それぞれの特有の臓器とホルモン、それらの機能や体内での役割について知っておくことが性差医療を考えていく上では重要ではないかと思います。
男女における臓器の違いを知る
編集部
男性と女性の特有の臓器にはどのようなものがありますか?
宮原さん
男性特有の主要な臓器は、陰嚢(いんのう)、精巣、前立腺、女性特有の主要な臓器には、子宮、卵巣、乳腺があり、それぞれ、特徴的な機能や役割があります。
編集部
男性にしかない臓器の機能について教えてください。
宮原さん
陰嚢は、男性の外部生殖器の一部であり、精巣を包み込んで保護する役割を果たします。精巣は、精子と男性ホルモンであるテストステロンを産生するため、陰嚢はこれらの重要な機能を支える役割を担っています。前立腺は、男性の生殖器の一つで尿道の周りに位置しています。前立腺は、精液の一部を構成する分泌物を産生し、その分泌物により射精時に精子を運ぶ役割を果たします。
編集部
女性にしかない臓器の機能について教えてください。
宮原さん
子宮は、妊娠と出産のための重要な役割を果たしていて、受精卵が子宮内に着床し、胎児の発育がおこなわれる場所です。着床しない月経周期ごとに子宮内膜が排出されます。これがいわゆる月経(生理)です。卵巣は、卵子を育て、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌を担っています。通常、双方の骨盤の側に位置し、卵子の成熟と排卵をおこないます。卵巣はエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンを分泌し、月経周期や女性の性的発育に重要な役割を果たします。乳腺は、女性の乳房に存在し、妊娠および出産後、乳腺は母乳をつくり、授乳によって赤ちゃんに栄養を与えます。
男女におけるホルモンの違いを知る
編集部
男性特有のホルモンについて教えてください。
宮原さん
男性ホルモン(特にテストステロン)は、男性の性器の発達や筋肉量の増加、体毛の成長などに関与します。女性にも少量のテストステロンが存在しており、テストステロンは骨の形成を促進し、骨密度を維持するため男性では一般的に骨密度が高くなります。筋肉の成長にも関与し、男性は女性よりも筋肉量が多く、より強力な筋力を持つとされています。テストステロンレベルは、男性の心血管健康にも影響を与え、適正なレベルでは血圧やコレステロールの制御に寄与しますが、高濃度のテストステロン値が長期間続くと、心血管疾患のリスクが増加する可能性があるともいわれています。
編集部
女性特有のホルモンについても教えてください。
宮原さん
女性ホルモンは女性の正規の発達・維持・月経周期に重要な役割を果たしています。エストロゲンとプロゲステロンの周期的な協働により、月経周期や妊娠、出産などの生殖機能が調節されています。エストロゲンは骨の形成を促進し、骨密度を維持します。女性は通常、閉経後にエストロゲンの減少により骨密度が低下しやすく、骨粗しょう症による骨折のリスクが高まります。また、エストロゲンは動脈硬化を防止するなど心血管系に作用することで心血管系疾患の発症を防いでいますが、更年期以降にはエストロゲンレベルの低下により、五月雨式に乱高下しながら血圧が上がります。一時的な胸痛を招くこともあり冠攣縮性(かんれんしゅくせい)の胸痛症状とも言われます。女性ホルモンは女性の体と心の健康維持、特に月経の前後や更年期の時期などに気分や情緒の変動に影響します。
編集部
その他、性差医療の視点でホルモンについて知っておくべきことはありますか?
宮原さん
男性ホルモン(主にテストステロン)が女性に与える影響もいくつか報告されており、テストステロン値が高い女性の場合、男性的な声の低下、筋肉の増加、体毛の成長など男性特性の発達が見られることがあります。また、テストステロンは性欲や性行動にも関与しており、女性においても、テストステロンのレベルが上昇すると性欲が高まることがあります。
編集部まとめ
男女ではどのような違いがあるのか、男女の違いを踏まえた医療「性差医療」とはどのような医療なのかについて教えていただきました。男女それぞれ特有の臓器やホルモンがあり、付随した疾患があるようです。読者の皆さまがより良い医療を受けるため、「性差医療」について興味を持つ一つのきっかけとなりましたら幸いです。