靴下のあとがくっきり…高齢者の「足のむくみ」放置すると危険? 対策は? 【専門家解説】
高齢な方の割合が増えていくにつれて、問題となってくるのが高齢者の健康状態です。特に、高齢者は足がむくみやすいといわれ、何らかの病気が潜んでいる可能性も否めません。さらに、足のむくみを放置すれば心臓や腎臓由来の場合、疾患が進んで治療が難しくなることも考えられます。そこで、高齢者の足のむくみの原因、放置する危険性や足のむくみ対策を介護福祉士の山下さんに解説していただきました。
監修介護福祉士:
山下 有輝(介護福祉士)
目次 -INDEX-
「高齢者の足のむくみ」は何が原因? 考えられる3つの原因を解説
編集部
高齢者の足のむくみの原因には何がありますか?
山下さん
高齢者の足のむくみの原因は、病気、薬、生活習慣の3つです。むくみは「浮腫」とも呼ばれています。通常であれば、水分を血管外に押し出す力である「毛細血管圧」と、水分を血管内に吸収する力の「膠質浸透圧(こうしつしんとうあつ)」により、水分の濾過と再吸収が行われています。しかし、何らかの原因で毛細血管圧の上昇または膠質浸透圧の低下が起こった結果、血管外の水分が多くなり、むくみが生じてしまいます。また、水分は重力の影響で足にたまりやすく、足の血液を心臓に送っている筋肉の収縮力が低下することも、足のむくみを引き起こす原因になります。
編集部
足のむくみの原因となる病気は何ですか?
山下さん
・腎不全
・心不全
・肝硬変
・ネフローゼ症候群
・甲状腺機能低下症
・悪性腫瘍
・下肢静脈瘤
などがあります。高齢者は心臓のポンプ機能の低下や、腎臓の血液循環量が減少して腎機能が低下するなど加齢的な変化があります。その結果、腎臓や脳への酸素供給が低下することで心不全や腎不全を引き起こし、むくみが出現します。むくみが出たとしても特定の病気や臓器が原因とは断定できません。ですが、むくみを治すためには原因疾患の治療が重要です。
編集部
足のむくみの原因となる薬には何がありますか?
山下さん
・解熱剤の非ステロイド性抗炎症薬
・降圧薬(カルシウム拮抗薬)
・抗がん薬
などがあります。高齢者の場合、降圧薬は医師の処方により日常的に飲んでいることが多いです。非ステロイド性抗炎症薬は「NSAIDs」とも呼ばれており、イブプロフェンやロキソニンなどが該当します。非ステロイド性抗炎症薬は、プロスタグランジンの産生を抑制しますが、プロスタグランジンの働きは、尿細管の水やナトリウム再吸収の抑制です。そのため、プロスタグランジンが抑制されることで、水やナトリウムの再吸収が促進されるため、むくみの原因となります。カルシウム拮抗薬は、血管収縮を抑制して血圧を下げる薬です。しかし、血管収縮を抑制して血管が広がった状態となるため、毛細血管圧が上昇し、むくみの原因となります。抗がん薬によるむくみは、がんの治療の際にリンパが傷つくことで起こる局所性のむくみです。足のむくみが出現したからといって薬を中断することは危険です。必ず医師に相談してくださいね。
編集部
足のむくみの原因となる生活習慣を教えてください。
山下さん
足のむくみの原因となる生活習慣は、同じ姿勢を長時間続けている、塩分の多い食生活などです。日常的に長時間立ち仕事をしていると、足がむくんだ経験がある方も多いのではないでしょうか。高齢者は、若い頃と比較して活動量が少なくなるため、同じ姿勢で過ごす時間が多くなります。その結果、筋肉の収縮力が低下するため血流が滞りやすくなるのです。また、塩分の多い食事を続けていると血圧が高くなり、心臓や腎臓への負担が増加します。心臓の負担が長期的に続くと心不全、腎臓への負担が続くと腎不全を引き起こし、むくみの原因となります。
「高齢者の足のむくみ」は放置すると危険! 考えられる疾患と日常生活に与える影響とは
編集部
高齢者の足のむくみは放置するとなぜ危険なのでしょうか?
山下さん
むくみを長期的に放置しておくと、原因疾患を見つけることが遅くなり、見つけたときには疾患のステージが進んでいることがあります。もし、むくみの原因が腎不全であった場合、ステージによっては透析が必要となるケースがあります。そうすると、週に3回程度は透析センターに通う必要があり、QOLの低下を招く原因にもなるのです。そのほかの疾患でも、症状が進んでいると治療が難しくなる可能性があります。むくみが長期的に続く場合は、体の赤信号であることを覚えておきましょう。
編集部
足のむくみがあると考えられる疾患は何ですか?
山下さん
・心不全
・腎不全
・肝硬変
・甲状腺機能低下症
・悪性腫瘍
などが考えられます。
片方の足にむくみが出現した場合は、
・下肢静脈瘤
・リンパ浮腫
・やけど
・リウマチ
・打撲などのけがによるもの
などが考えられます。
むくみと一言で表現しても、心臓のポンプや腎臓、肝臓の機能低下、内分泌機能の代謝障害、低栄養、薬による作用など原因はさまざまです。むくみが出現して長期的に持続する場合は、早めの受診が大切です。
編集部
足のむくみは日常生活にどのような影響がありますか?
山下さん
・冷え
・歩きにくさ
・少し歩いただけで疲れる
・靴が入らなくなる
・靴下を履いた後が長時間のこり続ける
このような影響によって歩きにくく感じたり、少し歩くと疲れたりすることで、外出頻度が減ります。外に出ない状態が続くと肺活量の低下や運動機能の低下を招き、日常生活に支障をきたす原因となるでしょう。また、足のむくみがあると、皮膚が傷つきやすくなるため、知らないうちに足に傷が増える可能性もあります。定期的に足の皮膚の観察をしてけがの早期発見に努めましょう。
「高齢者の足のむくみ」の予防・対策方法とは 足のむくみのチェック方法も併せて解説
編集部
高齢者の足のむくみの予防・対策方法はありますか?
山下さん
・マッサージ
・運動
・長時間同じ姿勢を取らない
・足を高くする
・塩分を控える
などです。足のむくみは筋肉の収縮力の低下により起こるため、マッサージを行うことで血流促進の効果が期待できます。マッサージの方法は、つま先を上げる、ふくらはぎを指圧して血流を促す方法があります。運動は、ウォーキングや太ももの上げ下げなど簡単なもので構いません。立ち上がることが難しい場合は、椅子に座ったまま、寝たままで行っても予防効果が期待できます。足のむくみの解消グッズは、クッションや着圧ソックスがおすすめです。クッションは、横になるときに足が上がった状態にすると、心臓へ血流を促しやすくなります。着圧ソックスは、足に圧をかけることで筋肉の収縮を促し、血流促進によってむくみ予防効果に期待できます。
編集部
塩分を控える方法で簡単な方法はありますか?
山下さん
・「塩分控えめ」と記載のある食品を選ぶ
・麺類のスープを極力飲まない
・味付けは塩ではなくわさびやショウガ、山椒などの調味料を選んで味付けにバリエーションを持たせる
「塩分控えめ」と記載のある食品を選ぶように心がけると、自然と食品の成分含有量の表示を意識して見るようになります。また、麺類のスープは全く飲まないのではなく数口だけなど、始めは少しずつ意識を改善していきましょう。最初から高い目標を掲げると、食生活に楽しさがなくなります。楽しく続けることで長く継続していきましょう。
編集部
足のむくみをチェックする方法を教えてください。
山下さん
足のむくみをチェックする方法は、気になる部位を5秒程度指で押す方法です。通常押した部位はすぐ戻りますが、10秒以上戻らない場合は「むくみがある」といえるでしょう。もし、むくみがあり受診する場合は循環器内科がよいです。しかし、むくみの出現と合わせて呼吸が苦しい、胸の痛みがあるなどの場合は、救急要請をするなど症状に応じた受診が必要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
山下さん
足のむくみと一言で表現しても、原因にはさまざまな臓器が関わっています。むくみが長期的に続く場合は、早期受診を心がけてください。早めに受診することで原因疾患が早く見つかり、あなたの生活の質を下げずに済みます。また、食生活や運動状況を振り返り、今から意識して改善することも大切です。
編集部まとめ
今回は、高齢者の足のむくみの原因となる病気や放置する危険性について解説していただきました。高齢者の足のむくみの原因は、病気、薬、生活習慣の3つが主な原因とのことでした。足のむくみを放置すると心不全や腎不全が進行し、治療が難しくなるケースもあります。むくみが続いている場合は、早期に受診してむくみの原因となる疾患の治療を開始しましょう。また、今回解説して頂いた予防・対策方法を実践して足のむくみを予防していくことが大切です。