糖尿病治療・運動療法にICT(情報通信技術)を活用するメリットとは?
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用は糖尿病の治療や、生活習慣の改善に有効なのでしょうか。また、どのようなICT技術があり、活用することで運動や血糖コントロール、自己管理能力にどのような影響を与えるのでしょうか。ICTならではの注意点も含めて、理学療法士の相澤さんに詳しく解説していただきました。
監修理学療法士:
相澤 郁也(理学療法士)
目次 -INDEX-
糖尿病とICT
編集部
糖尿病治療に関係するICTには、どのような技術やサービスがありますか?
相澤さん
医療機器によって得られたデータを、インターネットを通じて医師や医療スタッフと共有できるサービスがあり、広く利用されています。このサービスは、持続グルコースモニタリング(CGM:Continuous Glucose Monitoring)という、皮下に刺した細いセンサーにより皮下の間質液中の糖濃度(間質グルコース値)を持続的に測定することで、1日の血糖変動を知ることができるものです。
編集部
ほかには?
相澤さん
体重や体組成(体脂肪、筋肉量)、血圧、自己血糖測定(SMBG:Self-Monitoring Blood Glucose)、インスリン注入量など、様々なデータを患者さんと医師・医療スタッフ間で共有できるようになっています。また、医療データの共有だけでなく、診療や指導のコミュニケーションツールとして利用されるサービスもあります。
編集部
ICTを活用することで、血糖値コントロールや生活改善にどのようなメリットがありますか?
相澤さん
大きな利点としては、“問題点が目に見える”ということが挙げられます。これまでの糖尿病診療では検査結果を、日々の生活状況や服薬状況などと照らし合わせることによって問題点を探していました。しかし、ICTを活用して状態が可視化されることで、治療方針を定めやすく、血糖コントロールや生活改善をしやすくなりました。患者さん自身でも問題点がわかりやすく、また医療提供者側も具体的なアドバイスができます。
編集部
ICTを活用することで、医療提供者とのコミュニケーションにはどのようなメリットがありますか?
相澤さん
問題点が見えやすいためコミュニケーションが円滑になりますし、問題の把握のために使用していた時間をアドバイスや治療方針の相談などに使用できることは、患者さんと医療提供者双方にとってのメリットだと言えます。さらに、昨今のような感染症の流行や、自然災害などによって外出が制限されてしまった時に、医療と分断されないためのコミュニケーションツールになるという点もメリットの1つと考えられます。
運動療法とICT
編集部
運動療法でICTを活用する具体的な方法について教えてください。
相澤さん
運動療法の効果に着目すると、血糖値や体重、体組成、血圧などの管理指標を見ることで、運動療法の効果判定も可能です。運動療法は効果的でありますが、薬に副作用があるのと同じように、状態によっては運動により低血糖になってしまうなどの危険を伴う場合があります。しかし、ICTを利用することで、自宅での運動療法時に血糖値が下がり過ぎていないかなどをモニタリングすることが可能です。コロナ禍を機にオンラインでの運動療法を実施する施設や団体も増えています。
編集部
ICTを活用することで運動療法の効果にはどのような変化がありますか?
相澤さん
運動療法を提供する時には、「運動プログラムの作成→効果の判定→運動プログラムの見直し」という流れで行っていきます。そのため、ICTを活用することで、運動指導者は血糖値や体重、体組成、血圧などの指標をリアルタイムで見ながら、運動プログラムの見直しが可能になり、より適切な運動プログラムを作成できるため、それまで以上に効果的な運動療法を提供できる可能性があります。
編集部
ICTを活用することで、モチベーションや自己管理能力にはどのような効果がありますか?
相澤さん
ICTの活用によって、運動療法の効果も目に見えるようになるため、自己管理をする能力も高くなり、運動療法を継続しやすくなると思います。
ICT活用で気をつけるべきこととは
編集部
ICTを活用する際の安全性について教えてください。
相澤さん
ICTはインターネットなどを通じて自分の情報が共有されるとなると、個人情報が漏洩してしまうのではないかと不安に思うことがあるかもしれません。しかし、大手のサービスを提供している会社では、セキュリティについて十分に配慮されており、安心して利用できるところが多い印象です。
編集部
ICTを活用する際の費用面についても知りたいです。
相澤さん
費用は選ぶサービスによって違いもありますが、医療機器メーカーが出しているサービスであれば無料で利用可能なものがほとんどです。医療機器については、適応があれば保険診療内で利用可能です。
編集部
ICTを有効に活用する際に気をつけるべきことはありますか?
相澤さん
全てが自動で利用できるわけでなく、自分自身での操作も必要になります。そして、こまめな測定やデータ登録を心がけて、自分の情報を頻繁に共有すると、より具体的で詳細な情報が共有されますので、医療者側としても具体的なアドバイスがしやすく、より適切な治療方針を定めやすくなります。医療機器に関連するサービスであれば、医療機器メーカーや医療機関に問い合わせることで十分に説明がありますので、お問い合わせ窓口を把握しておくことも重要です。
編集部
運動療法でICTを活用する際に、注意すべきことはありますか?
相澤さん
オンラインでの運動療法の問題点として、運動を実施する場に運動指導者がいないため、事故があった時の対処が難しい点が挙げられます。オンライン運動療法のサービスを利用する場合には、事故時の対処法などをよく確認しておくことが必要です。
編集部まとめ
ICTを活用した糖尿病治療や運動療法では、罹患者は血糖値の問題点を見つけやすくなり、医療提供者は具体的なアドバイスや治療方針を提供しやすくなるようです。さらに、運動療法ではICTを活用することで、血糖値のモニタリングや適切な運動プログラムの作成が可能になるとのことです。一方で、注意点も存在するとのことで、理解した上で使用することが求められます。