「漢方薬が痛み止めに効く」理由を専門医が解説 痛みを緩和する西洋医学の薬と漢方の違いとは?
痛みを緩和する手段にはさまざまな方法がありますが、漢方薬もその一つ。いったい、漢方薬にはどのようなメリットがあるのでしょうか? 痛みの緩和における西洋医学との違いとは? 園ペインクリニックの松本先生にMedical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
松本 園子(園ペインクリニック)
目次 -INDEX-
痛み止めにも使われる東洋医学の漢方薬とは? ロキソニンなど西洋医学の鎮痛薬と漢方は何が違うの?
編集部
痛み止めにも漢方薬が使われると聞きました。
松本先生
はい、痛み止めとして使われるものがあります。漢方薬のなかには、鎮痛効果、炎症を抑制する効果、筋肉や関節の痛みを和らげる効果などを持つ薬があり、症状や患者さんの体質などを総合的に考慮しながら選定します。
編集部
痛み止めといえばロキソニンなど、西洋医学の薬を思い浮かべますが、それらとどう違うのですか?
松本先生
通常、西洋医学による痛みの治療では、症状や状態を考慮して鎮痛剤、神経障害性疼痛治療薬、麻酔薬などを使い分けます。しかし、これらの痛み止めが効かないこともありますし、場合によっては副作用が生じることもあります。たとえば痛み止めとして有名なロキソニンは、即効性があるというメリットがある一方で、腎機能障害、胃腸炎を起こすこともあります。
編集部
漢方薬には副作用がないのですか?
松本先生
いいえ、必ずしも副作用がまったくないわけではありません。胃腸が弱い方や高齢の方、アレルギーの経験がある方は注意した方が良い薬もあります。しかし、漢方薬は自然界に存在するものを原材料としているため、西洋医学の薬に比べて副作用が生じにくく、長期的に服用しても比較的安心というメリットがあります。
編集部
そうなると、長期にわたって薬を服用する必要がある慢性的な痛みには、漢方薬の方が適しているということでしょうか?
松本先生
たとえば三叉神経痛のように、漢方薬より西洋医学の薬の方が治療に適している疾患もあるので、必ずしも漢方薬の方が良いというわけではありません。しかし、漢方薬と西洋医学の薬を比べた場合、副作用の観点からいえば漢方薬の方が安心と言えるでしょう。
痛み止めに使われる漢方薬は身体の膝・腰・背中・関節痛・神経痛等どの部位の痛みにも効くの? 漢方の種類と効果的な症状一覧
編集部
具体的に、痛み止めにはどのような漢方薬が処方されるのですか?
松本先生
・腰痛
調栄活絡湯(ちょうえいかつらくとう)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、独活寄生湯(どっかつきせいとう)など
・関節痛 神経痛
越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)、疎経活血湯(そけいかっけつとう)など
・頭痛
五苓散(ごれいさん)、釣藤散(ちょうとうさん)など
・筋肉痛
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)、葛根湯(かっこんとう)など
編集部
どのようにして漢方薬を選択するのですか?
松本先生
漢方薬独自の考え方を応用して、最適な漢方薬を選択します。その時に大事にするのは「証」という考え方。これはその人の体質や抵抗力、病気の進行度などをあらわす概念で、一人ひとりまったく異なる「証」を持っています。それぞれに適した漢方薬を処方するには、本人の主訴や体格などからその人の「証」を理解することが必要です。
編集部
個別の理解が必要なのですね。
松本先生
はい。また漢方では「気・血・水」という考え方もあります。これは「気・血・水」の3つが体内を正しく循環することで、健康が保たれていると考えるもの。しかしこれらのバランスが崩れると病気や痛みなどの症状として表れます。そのため痛みに対して漢方薬を処方するには、「気・血・水」のバランスも見ながら一人ひとりに最適な薬を選択します。
編集部
どのような痛みにも漢方薬は効果が期待できるのですか?
松本先生
一般的に、漢方薬は身体上に表れるどのような痛みに対しても効果を発揮するとされています。
編集部
飲んでどれくらいで効果が現れるのですか?
松本先生
漢方薬の種類によります。たとえば頸椎をはじめ、全身の痛みなどに対してよく用いられる漢方薬に、治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)というものがあります。これはちょうど西洋薬のロキソニンのように即効性があります。反対に、冷えなどに用いられる当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)は、長期に使うことで効果を発揮する薬です。一般に、漢方薬は「長く飲まないと効果が出ない」と思われがちですが、実は、西洋薬のように即効性があるものも多い、ということをぜひ覚えておいてほしいと思います。
痛み止め・痛みの緩和など病院で受ける漢方治療は保険適用? 市販の漢方薬との違い・服用上の注意点も医師が解説
編集部
痛み止めのために病院で漢方薬を処方してもらう場合には、保険が適用になるのですか?
松本先生
医師が疾患を認め、漢方薬を使用するのが有効と判断した場合には、保険が適用となります。
編集部
ドラッグストアなどでも市販の漢方薬を購入することができますが、処方してもらう場合とどう違うのですか?
松本先生
まず違うのは、成分量です。通常、市販されている漢方薬より処方漢方薬の方が、成分量が多いとされています。たとえ同じメーカーが作っている同じ漢方薬でも、一般用漢方薬は医療用漢方薬の50~80%ほどの成分しか含んでいないとされています。
編集部
それなら、同じ漢方薬を服用するなら医療機関で処方してもらった方が、効果が期待できるのですね。
松本先生
ただし、満量処方と箱に書かれている漢方薬は、最大の成分量を含んでいます。しかし、満量処方の漢方薬は種類が少なく、自分がほしいものが必ずしも購入できるとも限りません。また、一人ひとりの体質に合った漢方薬を処方してもらうためにも、専門医を受診することをお勧めします。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
松本先生
東洋医学の考えでは、一人ひとり「証」が異なるとされています。そのため、それぞれに合った漢方薬を服用する必要があります。ドラッグストアなどでも市販されていますが、自分に適した漢方薬を見つけるのは困難。さまざまな成分が入っている漢方薬の場合、その人には適さない成分が含まれているものもあります。また、一般的に漢方薬の副作用は少ないとされていますが、なかには低カリウム血症を引き起こす芍薬甘草湯のように、自己判断で服用するのは危ない漢方薬もあります。それから、漢方薬は服用していると体質が変わってくることもあります。そのため、定期的に診察を受け、その時に適した漢方薬を処方してもらうことが大切です。当ペインクリニックで他院から来た患者さんが完治していくのは、適切な神経ブロックに加えて、的確な漢方薬を証に合わせて処方しているからだと思います。ぜひ、漢方薬に詳しい医師の診察を受け、正しい漢方薬を服用してほしいと思います。
編集部まとめ
「長く飲まなければ効果がない」と思われがちな漢方薬。でもなかにはスパッと切れ味の良いものもあり、漢方薬を利用できるシーンは非常に多彩です。その一方、漢方薬は選択が難しいという難点も。ぜひ信頼できる医師に処方してもらい、正しく服用してもらうことをお勧めします。
医院情報
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アクセス | JR総武本線「亀戸」駅より徒歩14分 東武亀戸線「亀戸」駅より徒歩14分 |
診療科目 | ペインクリニック科・漢方内科・麻酔科 |