吃音(どもり)を治すことはできる? 言語聴覚士が実際におこなっているリハビリ方法を解説
「吃音」は、なめらかに話すのが難しくなる言語障害です。吃音で悩む人は子どもから大人までたくさんいらっしゃいますが、治し方はあるのでしょうか。実際におこなわれているリハビリも気になるところです。そこで今回は、吃音の症状や治療、リハビリについて、言語聴覚士の大井純子さんに聞きました。
監修言語聴覚士:
大井 純子(言語聴覚士)
目次 -INDEX-
吃音(どもり)の症状や原因を解説 種類別に違いがある?
編集部
はじめに吃音とはどのような障害ですか?
大井さん
・音のくり返し(連発):最初の音をくり返す(例:「ぼ、ぼ、ぼ、ぼく」)
・引き伸ばし(伸発):音を伸ばす(例:「ぼーーーく」)
・音のつまり(難発、ブロック):言葉の出だしがなかなか出てこない(例:「………っぼく」)
編集部
吃音の原因について教えてください。
大井さん
吃音は、主に幼児期に発症する「発達性吃音」と、10代以降に発症する「獲得性吃音」の2種類に分けられて、 9割は発達性吃音だと言われています。発達性吃音の原因は、7割が体質的要因 (子ども自身の吃音になりやすい体質)で、そのほかにも発達的要因、環境的要因がからみあっているとされています。昔よく言われた「親の育て方のせい」という説は否定されました。他方、獲得性吃音の場合は、神経学的疾患や脳損傷、心的ストレスや外傷体験の影響が指摘されています。
編集部
吃音のセルフチェック項目はありますか?
大井さん
・始めの音やことばの一部を、何回か繰り返す(例:「ぼ・ぼ・ぼ・ぼくが」。「おか・おか・おかあさん」など)
・始めの音をひきのばす(例:「ぼーーーくがね」)
・言いたいことがあるのに、最初のことばが出づらく、力を込めて話す(時に顔面をゆがめることもある)
・上記3つの話し方が、変動はみられるが1年以上継続している
チェック項目のうち2個以上の症状が、変動しながらも1年以上継続していると、「吃音の可能性がある」とされています。ただし、これはあくまでも目安なので、心配な場合には医療機関を受診するとよいでしょう。
※参照:厚生労働省【吃音、チック症、読み書き障害、不器用の特性に気づく「チェックリスト」活用マニュアル】
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000521776.pdf
編集部
吃音は発達障害なのでしょうか?
大井さん
吃音は発達障害に含まれます。発達障害とは、脳機能の発達が関係する障害で、自閉症などの広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害、学習障害などのほかに吃音やトゥレット症候群などがあります。それぞれの症状が単独して表れる方、複数の障害を併せ持つ方など、さまざまです。
吃音(どもり)は治すことができるのか 自然に治癒することもある? 親にできることは?
編集部
吃音は自然に治るものでしょうか?
大井さん
統計によると、幼児のうちの10人から20人に1人くらいが吃音を発症します。そのうちの7、8割 は、吃音の症状が出始めてから2~4年の間に言葉の発達に伴って、自然に治ると言われています。
編集部
2~4年で治らなかった場合はもう治らないのですか?
大井さん
「吃音の症状が完全に消失する」というのは難しいかもしれませんが、環境を整えたり訓練したりするなかで、症状の軽減が見込めるでしょう。具体的には、緊張が高い話し方が軽減して楽に話せることが増える、うまくコントロールできることが増えるなどで、日常生活で困る機会が減ると期待できます。
編集部
吃音の子どもの親ができることはあれば教えてください。
大井さん
■望ましい関わり方の例
・話し方のアドバイスをしない(「ゆっくり」「落ち着いて」などの声かけはプレッシャーにつながり逆効果)
・保護者はゆっくり話しかける
・言葉の先取りをしない
・言い直しをさせない
・どもっていてもゆったりと最後まで聞く
温かく聞いてもらえるとわかれば、「どもっても話していい」と本人の話す意欲につながります。
編集部
周囲への働きかけについても気になります。
大井さん
・からかいがあったら止めてもらう
・話し方についてのアドバイスをせず、ゆっくり聞いてもらう
幼稚園や学校に働きかける際には、口頭で伝えるだけではなく、資料と一緒に依頼するとよいでしょう。劇の発表や日直などの吃音で苦労が予想される場面に関しては、ご本人と相談したうえで、必要であれば支援を依頼しましょう。劇では、「セリフがない役にする」「誰かと一緒にセリフを言う役にする」「普通の役にする」などさまざまなパターンが考えられます。
編集部
吃音になったら病院に相談したほうがよいのでしょうか?
大井さん
・早い段階で親が正しい接し方を学べる
・周囲への働きかけ方を知る
・幼いうちのほうが治療の効果が出やすい
心配な場合は、一度専門家に相談してみるのも1つの方法です。
吃音(どもり)改善の治療方法を紹介 ポイントや注意点を併せて解説
編集部
吃音の治療におけるポイントは何でしょうか?
大井さん
吃音の治療においては、言語訓練だけではなく、心理療法・行動療法、周囲の理解を求める環境調整などを組み合わせるのが大切だとされています。なぜなら、吃音者にとって問題になるのは、言語の症状だけではないからです。からかわれる経験を重ねると、「またどもるのではないか」と話すことへの心理的な不安と恐怖を感じて、悩む方がいらっしゃいます。不安や恐怖が強くなって話すこと自体を避けようとすると、症状の悪化にもつながります。そのためさまざまな面からのアプローチが必要なのです。
編集部
吃音の子どもの治療は何をするのでしょうか?
大井さん
・DCM
吃音は、「子どもの話す能力と、周りの人が子どもに期待する能力のアンバランスのために生じる」という考えに基づく訓練方法。子どもの話す能力に合わせて、質問の数や難しさ、周りの人の話す速度などを調整して、話しやすい環境を整える。
・リッカムプログラム
公認ライセンスをもつ言語聴覚士が指導するプログラム。1週間に1度の訓練と家庭での親子の会話練習が基本。すらすら話せたらほめて、吃音が出たらおだやかに指摘する。
・流暢性形成法
ゆったり柔らかい話し方、ゆっくりした話し方などの練習。
編集部
大人の吃音者の治療を教えてください。
大井さん
・吃音緩和法
重い吃音を、より楽に話せる、自然に聞こえる吃音に緩和する方法。
・流暢性形成法
柔らかい話し方、ゆっくりした話し方の練習
・認知行動療法
どもるかどうかにこだわらず、楽なコミュニケーションを目標して治療する方法。吃音に対する恐れや不安などの否定的な感情を軽減する。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
大井さん
吃音は、なめらかに話すのが難しくなる発話障害です。吃音についてからかわれると、症状に対する不安や恐れが生じて、話すの自体を避けて症状の悪化につながります。そのため、治療では言語訓練だけではなくて、周囲への理解を求める環境調整、心理療法、行動療法などを組み合わせておこなうのが重要です。症状に悩む場合には、言語聴覚士がいる医療機関(お子さんの場合は療育センターなど)に相談されるとよいでしょう。
編集部まとめ
吃音では、言語訓練だけではなく周囲への働きかけや心理面への配慮が大切だとわかりました。吃音の治療はまだ十分普及しているわけではないようです。相談したい場合には、言語聴覚士がいる医療機関に問い合わせてください。見つかりにくい場合には地域の言語聴覚士協会に相談する方法もあるようです。