子どもの近視って何が原因? 治療法と予防法を教えて!
文部科学省がおこなった調査によると、日本における裸眼視力0.3未満の小学生の割合は、ここ30年で約3倍に増えているという。また、諸外国の中には、子どもの近視予防を国策として実施している国もある。その意外な取り組みなどを、「安藤眼科クリニック」の安藤先生に教えていただいた。
監修医師:
安藤 靖恭(安藤眼科クリニック 院長)
慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部眼科入局、同眼科専任講師、北里研究所病院眼科部長などを経た2017年、東京都練馬区に「安藤眼科クリニック」開院。慶應義塾大学病院やその関連病院で体得した診療・研究内容を、地域医療に生かしている。医学博士、日本眼科学会認定眼科専門医。日本眼科手術学会、日本眼炎症学会、日本緑内障学会の各学会所属。
屋外活動に意外な近視抑制効果が
編集部
まずは、近視の仕組みについて教えてください
安藤先生
わかりました。お子さんの近視でもっとも多いのは「軸性近視」と呼ばれるもので、眼球の形が関係しています。眼球が前後方向へ伸びすぎて縦長の形になると、網膜に正しい像を結べなくなるのです。これが軸性近視です。
編集部
よく「仮性近視」という言葉を耳にするのですが?
安藤先生
「仮性近視」は、目のピント調節筋がこわばって、近くのものにしか焦点を合わせられなくなった状態です。一時的な症状ですので、通常は遠くの物を見たりしていれば回復します。
編集部
「軸性近視」は予防ができるのでしょうか?
安藤先生
どうしたら、眼球の伸びを抑えられるのかということです。軸性近視の原因には、先天的な遺伝要因と後天的な環境要因があるのですが、遺伝要因は防ぎきれません。環境要因なら、「近くの物を見過ぎないこと」で、ある程度は防げます。
編集部
遠くの物を見る習慣は有効でしょうか?
安藤先生
もちろん有効です。これに関連して、屋外活動の有効性が明らかになってきました。遠くを見ることはもちろん、一定量の日差しが関係しているのです。
編集部
えっ? 日差しが近視予防にいいのですか?
安藤先生
はい。カギになるのは、可視光の中でもっとも紫色寄りの「バイオレットライト」です。これを1日2時間以上浴びると「近視の抑制効果がある」ことが、国内外の研究で明らかになってきました。ただし、UVカットのガラス越しでは意味がありません。その意味で、「屋外での活動」が欠かせないのです。
編集部
具体的なデータはありますか?
安藤先生
オーストラリアのシドニーと、シンガポールの子どもたちを比較した調査があります。週に14時間を屋外で過ごしていたシドニーの子どもたちは、近視の割合が約3%でした。これに対し、週に3時間しか屋外で過ごしていなかったシンガポールの子どもたちは、近視の割合が約29%でした。統計学的に有効なデータといえるでしょう。
編集部
子どもたちは、1日2時間以上、外で遊びなさいと?
安藤先生
近視予防に関して言えば、そうなります。ただし、日差しは登下校時や屋外での体育の時間などにも浴びていますから、「2時間以上」である必要はないでしょう。メガネやコンタクトレンズを使っているお子さんは、できるだけ外して遊んでください。
その他、生活する上での注意事項について
編集部
近視は、目の使いすぎが原因なのですよね?
安藤先生
遺伝要因が半分、近い物を見すぎる環境要因が半分です。ですから、先ほど申し上げた屋外活動のほか、スマホを使いすぎないことや、メガネを外す時間を確保することなどが求められます。近視のメガネをかけて近くの物を見ると、ますます近視が進む原因となる可能性もあります。
編集部
スマホの危険性は、多くの眼科医が言及しています。
安藤先生
パソコンやテレビの画面に比べて小さいですし、操作する距離も近い。細かな物を見続ける動作と、近くの物を見続ける動作の双方が、近視にとっては良くありません。
編集部
スマホ以外にも注意点はありますか?
安藤先生
学童の近視進行予防7項目(近視研究会)
http://myopia.jp/prevention/
編集部
そもそも、近視は“悪い”ことなのでしょうか?
安藤先生
「目が現代生活にマッチしてきた」という考え方もあるでしょう。しかし、過度な近視は、失明につながりかねません。世界的にも、「子どもの近視を防ごう」という動きがトレンドです。
もし近視になってしまったら
編集部
小児の近視は、どのように治療していくのでしょう?
安藤先生
「軸性近視」そのものの治療、つまり、眼球の形を正常にする治療は、残念ながらできません。したがって、メガネやコンタクトレンズなどで正視の状態に近づけることが治療になります。
編集部
大人の近視治療と違いはありますか?
安藤先生
お子さんは成長途中なので、外科手術を用いても、近視が進んでしまいかねないのです。手術を検討するのは、近視の進行が止まってからですね。進行している間は、定期的に受診して、メガネなどを調節していきましょう。
編集部
「オルソケラトロジー」の適応が子どもにも広がったと聞きましたが?
安藤先生
眠っている間に装着する視力矯正用コンタクトレンズのことですね。そのとおりで、お子さんにも処方できるようになりました。睡眠中に角膜の形を矯正して、見えやすくする治療方法です。
編集部
子どもの近視を予防する治療はないのですよね?
安藤先生
実は、低濃度のアトロピンを点眼する予防方法があります。ただ、正視のうちから予防しようという方はあまりいらっしゃいませんので、多少の近視が出てから進行抑制という形で使われることがほとんどです。なお、保険は効かず自費診療になります。
編集部
市販されている近視グッズ類の信ぴょう性は?
安藤先生
根拠に乏しいですし、受診機会を妨げる原因にもなりますので、お勧めはできません。医師の診察を受けることが、確実な近視対策です。
編集部まとめ
子どもの近視の治療方法として、
・オルソケラトロジー・・・眠っている間に装着するコンタクトレンズ。睡眠中に角膜の形を矯正して、見えやすくする治療方法。
・低濃度のアトロピンを点眼・・・タイミングとしては多少の近視が出た段階。保険は効かず自費診療。
以上のものがあるようです。
また、そもそも近視にならないよう、1日2時間以上は屋外で活動するようにしたり、スマホを操作する時のような近くのものを見続ける行為を控える意識が大切です。
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