「醜形恐怖症」と診断される基準は? 病院での診察や治療の流れを医師が解説
実際のところ他人はそれほど気にしていないのに、自分の容姿が異常に気になってしまう醜形恐怖症。重症化すると日常生活がままならなくなったり、自殺行動に至ったりすることもあります。そのような悩みがあるときには専門医に相談をしてもらいたいところです。そこで、醜形恐怖症の診察から治療までの流れを新橋メンタルクリニックの狩野先生に聞きました。
監修医師:
狩野 彰宏(新橋メンタルクリニック)
醜形恐怖症の症状と受診の目安
編集部
「醜形恐怖症」とはなんですか?
狩野先生
外見上の欠点やささいな欠陥が気になってしまい、日常生活に支障をきたしたり、他人とのコミュニケーションが取りづらくなったりした状態のことを言います。
編集部
醜形とはなんですか?
狩野先生
醜形というのは、文字通り「醜い」ということです。重要なのは、他人が見てもわからないような欠点に囚われてしまうということ。それにより不安や失望、苦痛を感じるのが醜形恐怖症の特徴です。
編集部
たとえば、どんなことが気になるのですか?
狩野先生
太っている、目が小さいなどの容姿が気になることもありますし、体毛が濃い、背が低い、ニキビ痕が気になるなどのケースもあります。そのほか、人の目に触れる・触れないに関わらず、目、鼻、歯、唇、皮膚、頬骨、胸、体毛、肌の色など、体のどの部位でも対象になります。
編集部
誰でもそのような感覚は多かれ少なかれあると思いますが、どの程度で醜形恐怖症と診断されるのですか?
狩野先生
臨床的には、他者からの評価と比較して圧倒的に自分の容姿に対する評価が低いことが診断基準のひとつになります。それなら「身体的特徴や欠点が他者にも明らかであれば、醜形と言えないのか」というと、そういうわけではありません。思い込みや囚われによって多大な苦悩があったり、摂食障害や不登校、出社拒否など日常生活に問題が起きていたりする場合には醜形恐怖症が疑われます。その場合には早めにメンタルクリニックを受診してほしいと思います。
編集部
放置すると重症化することもあるのですか?
狩野先生
実際に、何年も受診を放置してしまうケースは少なくありません。しかし、そうすると長い時間を苦悩に費やすことになりますし、統合失調症やうつ病などを併発することもあります。また、症状が重くなると自傷行為が見られたり、自死に至ったりすることもあります。どのくらい治療期間が必要なのかは人によって異なりますが、できるだけ早めに相談してください。
醜形恐怖症の診察
編集部
醜形恐怖症の診察は、どのように行われるのですか?
狩野先生
まずはカウンセリングで、いつごろからどのようなことが気になっているのかお聞きします。醜形恐怖症は、強迫症の関連症状として分類されることが多く、醜形恐怖症と診断された人のうち、約3割が強迫症を抱えているとされています。強迫症に由来するほかの症状が見られないか、また、うつ病や統合失調症などほかの疾患とも鑑別する必要があります。
編集部
醜形恐怖症と診断された場合には、どのように治療が進められるのですか?
狩野先生
まず、患者さん自身が「認知が歪んでいる」ということを自覚する必要があります。というのも、多くの患者さんは「外見上の問題であり、精神上の問題ではない」と考えているからです。「欠点に囚われているのは精神的な原因があるからだ」ということを自覚する必要があります。
編集部
どのようにして、認知の歪みを改善していくのですか?
狩野先生
これには認知行動療法が有効です。認知行動療法とはその名の通り、個人の「認知」にアプローチして、気持ちを楽にするための治療法。うつ病を始め、パニック障害や強迫性障害、統合失調症などさまざまなメンタル疾患に対して行われています。
編集部
どのようにして認知の歪みを改善していくのですか?
狩野先生
認知というのは「物事に対する受け取り方や捉え方」のこと。強いストレスがかかると、人は誰でもネガティブな思考に縛られてしまいます。認知行動療法では、患者さん自身の歪んだ認知が、感情や行動に影響を与えているということを確認させて、その歪みを解消していくことで心の縛りを楽にしていきます。
編集部
認知行動療法以外には、どのような治療がありますか?
狩野先生
醜形恐怖症は美醜が問題なのではなく、その背後にある不安感や自信のなさ、幼少期のトラウマなどが原因となっていることが少なくありません。実際のところ、醜形恐怖症の患者さんは、幼少期の虐待やネグレクト、心理的トラウマが影響していることも多いのです。そのため、そうした問題に焦点を当てたカウンセリングを行うこともあります。
醜形恐怖症の薬物療法
編集部
ほかには、どのような治療法が考えられますか?
狩野先生
醜形恐怖症には薬物療法も効果的です。抗うつ剤の一種である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)効果があるとされています。これは脳内でセロトニンが再取り込みされるのを阻害して、セロトニンの働きを強くする薬。脳内のセロトニン濃度を上昇させることで、抗うつ作用を期待します。
編集部
ほかには、どのような薬を用いるのですか?
狩野先生
クロミプラミンなどの三環系抗うつ薬が用いられることもあります。これは、脳内のセロトニンやノルアドレナリンの活性を高めることで抗うつ作用を期待する薬。日本では古くからうつ病に対する治療薬として用いられています。
編集部
治療で気をつけることはありますか?
狩野先生
醜形恐怖症の好発年代は思春期や青年期とされています。発症年齢で多いのは15~19歳で、特に16~17歳の発症が最多という報告もあります。成人期に発症することもありますが、青年期に発症すると成人期に発症するよりも自殺に至る可能性が高いという説もあります。しかし、本人は美醜の問題として捉えており、メンタルに問題があるとは気づいていないため、自主的に治療を受けてもらうのは困難。そのため家族など身近な人がサポートし、受診を促してあげることが必要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
狩野先生
醜形恐怖症が進行すると、人と接することを避けたり、給料をほとんど美容整形につぎ込んで金銭トラブルに発展したり、遅刻や欠勤を繰り返して社会的トラブルを生み出したり、さまざまな弊害が起こります。醜形恐怖症を発症するのは完璧主義者に多く、悩みが長引けば長引くほど、自分を追い詰めてしまいがちです。そうした悪循環を断ち切るためには適切な治療が必要。自分自身が醜形恐怖症の傾向がある、あるいは身近な人でそのような人がいる場合には、ぜひ医療機関に頼る(頼らせる)ことを考えてみましょう。
編集部まとめ
特に思春期で発症することが多い醜形恐怖症。思春期は心身ともに変化が大きく、ナーバスになりがちな時期です。そのような変化への戸惑いが、醜形恐怖症の発症に影響しているのではないかと考えられています。あまり知名度の高い疾患ではありませんが、潜在的に醜形恐怖の悩みを抱えている人も多いはず。もし、日常生活に支障が出ているくらい悩んでいる場合は早めに医師に相談しましょう。
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