【お母さん必見】「運動苦手な子どもがお友達ともトラブルになる」これって発達障害が原因?
文部科学省の調査により、全国の公立小中学校に通う児童の8.8%が「発達障害」の可能性があると発表されました。発達障害をもつ子の特徴の一つとして、運動面での不器用さや、周囲とのコミュニケーションの困難さがあると言われています。その理由や対処法について作業療法士の小玉さんにお話を伺いました。
著者:
小玉 武志(作業療法士)
共著:
宮田 里依(作業療法士)
不器用と運動能力について
編集部
子どもに対して「不器用」という言葉を使うことがあると思うのですが、その子は運動が苦手ということですよね?
小玉さん
一言で「不器用」と言っても、どのような状態を示すかは人それぞれだと考えます。手先の細かな動きが苦手、いわゆる「巧緻性(こうちせい)」が低い状態のことを「不器用」とも言いますが、不手際が多い人のことを「不器用」と表すこともありますよね。そう考えると、生活の中で何らかの生きづらさを感じている人を「不器用」と表現することが多いのではないかと思います。
編集部
なるほど。では「運動が苦手」な場合は、どのような力が足りていないのでしょうか?
小玉さん
運動を上手にこなすためには、いくつかの必要な能力と、それらを組み合わせてバランスよく使う力が求められます。必要な能力の中には、パワーを出すための「筋力」、運動を長時間続けるための「持久力」、素早い動きをするための「スピード」、細かな動きを調整するための「巧緻性」など、パッと出てくるものでもこれだけ挙げられます。こうした様々な力が絡み合い、運動がおこなわれているということを理解しておくことで、幅広い視点で捉えることができると考えます。
編集部
ちなみにそれらの運動に必要な力は、どのように育っていくのでしょうか?
小玉さん
生まれたばかりの赤ちゃんを想像してみてください。生まれてすぐに走ったりジャンプをしたりすることはできませんよね。まずは寝転がった状態で、大人に抱っこをされたり、さすってもらったりすることで、様々な感覚を取り入れていきます。少し成長すると首がすわり、寝返りを打つようになったり、バランスをとってお座りが出来るようになったりします。その後、協調的な運動を身につけていき、立ち上がることや走ることができるようになっていきます。このように、運動の発達は一つひとつ段階を踏んで進んでいきます。ですので、運動に苦手意識がある子に遊びを提供する時は、その子が今どの段階にいるのかを評価し、必要な経験を積み重ねていけるよう支援しています。
コミュニケーションの難しさと社会性について
編集部
周囲とうまくコミュニケーションが取れないことは、「社会性が低い」と表現していいのでしょうか?
小玉さん
社会性を表す要素はいくつもあります。例えば、ルールに従って行動するためには「自己抑制」という力が必要です。そして宿題をおこなったり、朝遅刻をしないようにしたりするためには「計画性」も重要になります。他者と言葉を交わし、互いのことを認め合うためには、自分自身の存在を肯定することができる「自己肯定感」も一定程度持ち得ている必要があるでしょう。社会性も、運動能力のようにいくつかの要素が複雑に関与している結果であると考えます。
編集部
確かに、計画性が乏しくて行き当たりばったりだけど、いつも周りの人に助けられて、大切にされている人もいると感じます。社会性が身についていくのも段階を踏む必要があるのでしょうか?
小玉さん
そうですね。具体的には、基本的な信頼を持つことから始まり、自我が芽生え、そこから自分と他者との違いに気づくことや、周囲と同調する意識などが身についていきます。そうして最終的に社会適応的な行動を起こすようになると言われており、運動発達と同様に一つひとつ積み上げていく必要があります。
編集部
なるほど、ある時いきなり社会性がつく訳ではなく、少しずつ段階を踏んで身についていくのですね。
小玉さん
その通りです。しかし、段階を踏む過程の中で、社会性が高くなることに、とある力が関与しているとも言われています。
運動能力と社会性を結びつけるキーワード「実行機能」とは
編集部
社会性が身につく過程の中で、社会性が高くなることに影響を与えると言われている力とは一体どのような力なのでしょうか?
小玉さん
それは「実行機能」です。これも運動能力や社会性と同様に、何か一つの力のことを指すのではなく、いくつかの要素が互いに関連しながら力を発揮しています。
編集部
具体的にはどのような能力が含まれているのですか?
小玉さん
頭で一時的に記憶をとどめておく「ワーキングメモリ」、自分をコントロールする力「自己統制」など、いくつかの要素を含みますが、これは文献にもよって異なる解釈がされており、一概に「これ」と表すことはできません。人と会話をしている時のことを思い浮かべるとイメージがつきやすいでしょう。相手の話を聞いて、次に自分が何を言おうか考えておく、そして相手の話が終わるまで自分は話さずに待つ、いざ話すときはどのような順番で出来事を話すか考えなど、会話のシーンだけをとっても実行機能の要素がたくさん必要であり、社会的に適応できているかを評価する一場面にもなります。
編集部
そんなに見られていると想像すると、何だか緊張してしまいますね。
小玉さん
ただ、これらはその国や地域の文化というものが大きく影響していることを忘れないでください。日本では相手が話をしている間は最後まで聞くことが社会に適応しているとみなされることが多いですが、海外の文化によっては全然話しをしてこないので社会に適応していない、と思われるかもしれません。また繰り返しになりますが、あくまでたくさんの力が相互に関与し合っている、という意識が大切です。発達障害などがあり、衝動的な行動が目立つ子に対して、衝動コントロールだけにアプローチしようとするのではなく、ほかにどのような要素に困難さを抱えているのかを常に考え、それらの関連性を踏まえて支援していく必要があります。
編集部まとめ
今回は、発達障害児によく聞かれる困りごと、運動能力と社会性について作業療法士の小玉さんに解説していただきました。どちらも何か一つの能力を指すのではなく、様々な力が相互に関連し合って成り立っていることがよくわかりました。発達障害のある子への支援のポイントなども今後は意識してみると良いかも知れません。