【社内禁煙プログラム】禁煙を成功させるコツは行動変容と習慣化!? 禁煙外来の初診に密着してみた 〜前編〜
当メディアを運営する株式会社GENOVAでは、「健康経営宣言」の一環として喫煙率低下のためのプロジェクトを社内で実施することが決まり、いよいよ「禁煙プログラム」がスタートしました。飲食店・職場などの「原則屋内禁煙」が義務化されたことや社会的な意識の高まりを受け、禁煙に取り組む企業も増えています。
今回は当メディア関係者の佐々木さん(25歳)が、禁煙外来で“卒煙”に挑戦するところに密着し、実際の診療の流れや体験談をレポートします。禁煙したい方も、禁煙してほしい誰かがいる方も、ぜひ参考にしてみてください。
監修医師:
天野 方一(eHealth clinic(イーヘルスクリニック))
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を終了。腎臓病学や高血圧学の臨床や研究に従事し、腎臓専門医や抗加齢医学専門医などの資格を取得。大学病院の医師として勤務を行いながら、予防医学やアンチエイジングの重要性を実感。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、eHealth clinicを2022年4月に開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
腎臓専門医・指導医、抗加齢医学専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)の資格を有する。
被験者:
佐々木 颯(株式会社GENOVA 社員)
今回取材に協力していただいたのは、新宿三丁目駅すぐにあるクリニック。複数企業の嘱託産業医としても勤務中で、社員の健康相談や生活改善指導、企業のヘルスケアに関する講演を多数おこなっている天野先生に診察を担当していただきました。
事前インタビュー
編集部
禁煙しようと思った「きっかけ」を教えてください。
佐々木さん
医療業界に勤めていますので、自分だけでなく周りの健康意識も徐々に高まり、気のせいかもしれませんが、「周りの人に煙たがれている」と感じることがありました。自分のためにも周りのためにも禁煙したいな……と思いながらも、なかなか実行に至らなかったのですが、最近になって、タバコを吸った時に嗚咽などの症状が出るようになり、決心がつきました。
編集部
喫煙年数はどのくらいですか? 1日の喫煙本数は?
佐々木さん
5年前後です。1日に15~20本くらいは吸っていました。
編集部
過去に禁煙に挑戦したことはありますか? 失敗した原因は?
佐々木さん
過去に何回か、自分でチャレンジしましたが、自分の意思だけでやっていたので、1週間以上続いたことがありません。普段は我慢できても、お酒の席など、環境が変わると吸ってしまう、などが失敗した原因ですね。
編集部
なぜ喫煙をやめられないのかについて、自分なりにどう考えていますか? また、ついつい吸ってしまう場面などあったら教えてください。
佐々木さん
仕事中は、「仕事上の付き合いや、息抜きに必要」と思っており、仕事が終われば「タバコを吸うとお酒がおいしくなる」という感覚があり、気づいたら吸っている状態でした。身体的にも依存している自覚はあり、30分おきにタバコのことを思いだして、我慢できずに吸っていました。
編集部
現在ご自身の健康で不調に感じること、また禁煙成功時に健康面で期待していることについて教えてください。
佐々木さん
1年くらい前から逆流性食道炎に悩まされており、歯磨きや飲食で嗚咽、吐き気を感じるようになりました。さらに、先ほども言った通り、タバコを吸っても嗚咽が止まらなくなり、時に頭痛も伴います。スポーツ時の息切れも気になっています。全てがタバコのせいだとは思いませんが、症状が治り、息切れせずにスポーツを楽しめたらと思っています。
編集部
そのほか、“タバコを吸わない生活”にどんなことを期待していますか?
佐々木さん
食べ物がおいしくなることや、1日に1時間以上、喫煙の時間があったので、それを有効に使っていきたいと思っています。
いざ、禁煙外来へ!
17:00 クリニック到着
【受付→問診票記入】
クリニックに着いたら、受付を済ませ、まずは問診票に記入していきます。問診票に記入する内容は主に次の2つ。
①「ブリンクマン指数」
(1日の喫煙数)×(喫煙年数)で計算します。
(例:1日10本を、25年吸い続けている人の場合、10×25=250)
こちらが200以上だと、健康保険等で禁煙治療を受けることができ、35歳未満の場合はこの数値に関わらず保険適用となります。また、この「ブリンクマン指数」が400を超えると、肺がんのリスクが高くなり、600以上では肺がんの高度危険群といわれています。
②「TDSニコチン依存度テスト」
1. 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか?
2. 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか?
3. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか?
4. 禁煙したり本数を減らしたときに、次のどれかがありましたか?
(イライラ、神経質、落ち着かない、集中しにくい、憂鬱、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、 食欲または体重増加)
5. 4でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか?
6. 重い病気にかかったときに、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか?
7. タバコのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか?
8. タバコのために自分に精神的問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか?
9. 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか?
10. タバコが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか?
こちらの結果が5項目以上該当した方は、ニコチン依存症と診断されます。佐々木さんは、「ブリンクマン指数」が75と低値だったものの、「TDSニコチン依存度テスト」が6項目該当し、立派な「ニコチン依存症」でした。
17:10 看護師との面談
ここからどうやって禁煙を進めるか、看護師さんが丁寧に問診してくれます。
看護師さん
今、タバコは持っていますか? それはどうする予定ですか?
佐々木さん
家に、10本くらいあります。どうするかは……特に考えていなかったです。
看護師さん
最後に吸い納め、と全部吸っちゃう方もいらっしゃいますので、できれば捨てるとか人にあげるなどして、「家にタバコを置かない状態」にすることをお勧めします。
朝起きてから、タバコを吸い始めるまでの時間はどれくらいですか?
佐々木さん
5分以内です。
看護師さん
この時間が短い人は、「吸いたい」という欲求を感じる前に吸っているので、喫煙が「習慣化」しています。これは、別の習慣に置き換える方法が有用です。ラジオ体操など、何か別のことをするように習慣づけていきましょう。
禁煙できる自信は何%くらいありますか?
佐々木さん
……90%です! 自信というか、覚悟です!
看護師さん
最後にもうひとつ、「呼気一酸化炭素濃度測定検査」をしましょう。
佐々木さん
それは、何ですか?
看護師さん
タバコの煙の中には、数千~1万ppm以上の一酸化炭素(CO)が含まれており、1日に吸うタバコの本数と呼気中のCO濃度は相関します。これを測定するのが「呼気一酸化炭素濃度測定検査」で、息を吐くだけで簡単に測定できます。
編集部
佐々木さんは、「15ppm」という結果が出ました。これは「ミドルスモーカー」の数値です。これが、最後の外来ではどのようになっているのか……乞うご期待! 結果は「後編」でお伝えする予定です。
17:30 医師との面談
次に、医師との面談です。
天野先生
佐々木さんは今回、「ニコチン置換療法」を行います。ニコチン置換療法とは、禁煙開始時に現れる離脱症状に対して、別の方法でニコチンを体内に補給することにより、症状を軽減し、禁煙を継続に導く方法です。
ニコチンを体内に補給する方法はいくつかあるそうですが、今回佐々木さんは「ニコチネルTTS」という貼付薬(パッチ)を使います。ニコチネルTTSは、24時間有効なので、1日1回、体のどこかに貼るだけ。狭心症や心筋梗塞、重度のアレルギーがなければ、どんな方にでも使えるお薬です。(注:保険適用されるためには、いくつかの条件があります)
3種類の大きさがあり、最初の4週間は最も大きい30㎠を使い、徐々に20㎠(2週間)、10㎠(2週間)、と軽いものにしていきます。最初に使用する30㎠のパッチは、想像よりもかなりビッグサイズでビックリしました! その後、ニコチンパッチなしで4週間過ごせたら、めでたく禁煙成功です。
天野先生
禁煙を成功させるためには「行動変容」の観点からも、二つのことをお伝えしています。一つはまず「今からもう“吸わない”と決めること」、もう一つは「行動を確定してしまうこと」です。例えば、次回の禁煙外来をすぐに予約する、今この場で、ニコチンパッチを注文してしまう、などです。
編集部
さらに天野先生からは、パッチを貼るとニコチンが血液中に取り込まれるので、そこから更に喫煙してしまうと、血中のニコチン濃度が急激に上がって危険ということも伺いました。これも「吸ってはいけない」と踏みとどまれる理由の一つになりますね。
17:40 会計
説明後は受付で会計をして終了。今回の費用は、診療費が1760円、薬代が1370円、合計で約3130円でした。(保険診療)
診療後インタビュー
はじめての「禁煙外来」を終えた佐々木さんに、お話を伺いました。
編集部
はじめての「禁煙外来」はいかがでしたか?
佐々木さん
思ったよりも時間もかからず、気軽に相談できるイメージでした。現状のカウンセリングから始まり、タバコをやめる方法や薬などについて説明していただきました。実際の患者の事例なども聞くことができたので、禁煙するまでのイメージができましたね。
編集部
特に印象に残ったことなど、ありましたら教えてください。
佐々木さん
喫煙レベルを測定する機器(呼気一酸化炭素濃度測定検査)があるのですが、息を吐くだけで日々どれくらい吸っているのか計測できてましたので、タバコの有害物質が体の中にずっと溜まっているのだと思うと「ぞわっ」としました。
編集部
受診の前と後で、「タバコ」もしくは「禁煙」に対する思いや感覚などは変わりましたか?
佐々木さん
気持ちの面で大きく変わりました。もともと、ニオイなどで周りから煙たがれていた自覚はあったので、禁煙のイメージができたことでより覚悟が決まりましたね。
編集部
禁煙外来を受けようかどうか迷っている人に、一言お願いします。
佐々木さん
人によるとは思いますが、やめたくてもやめられていない人などは、一度医療の力を借りるのも良い選択だと思います。本当にやめたい人にはお勧めできます。特に、「誰かのためにやめたい」という人には、強くお勧めしたいです。
編集部
最後に、12週間後の自分は、どうなっていると思いますか? また、どうなっていたいですか?
佐々木さん
今まで喫煙していた1日2時間程度の時間を、自分の時間として大切にし、喫煙していた時のように、感情に振り回されるようなことはなくなっていたいです。
編集部まとめ
これから佐々木さんは、ニコチンパッチを貼りながら8週間、その後、パッチなしで4週間過ごしていただきます。この間、オンラインで禁煙外来を3回受診して、状態確認などを行います。最後にもう一度、禁煙外来を受診し、初回に行った「呼気一酸化炭素濃度」を測定して、禁煙プログラム終了となります。佐々木さんの「覚悟」は貫き通せるのか!? 後編での経過報告も楽しみにしていてください!