【闘病】発熱の正体は「ベーチェット病」だった “命に関わる”特殊型とは?
籠谷友實さんは、2006年に不完全型ベーチェット病を発症し、3年後に腸管型ベーチェット病と診断されました。それでも入退院を繰り返しながらも自身の楽しみや仕事を見つけ、体調を安定させながら生活されているそうです。そんな籠谷さんに、これまでどのようにベーチェット病と付き合ってきたのかについて、話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年7月取材。
体験者プロフィール:
籠谷 友實(コモリヤ トモミ)
北海道札幌市在住、1984年(昭和59年)生まれ。両親と妹の3人、犬が2匹と同居。診断時の職業は介護職。現在は、在宅でシナリオライターをしながら、SNSで自身の経験を発信している。今後は、病気や命についてもっと大きく発信出来るように方法を模索中。自称「明るく元気な不良患者」。趣味は文筆活動と、文房具集めで、青いボールペンには目がない。手先を動かすことが好きで、趣味でDIYや編み物をするのが得意。飼っている2匹のミニチュアシュナウザーと、のんびり過ごすのが好き。
記事監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
発症時は高熱に苦しむ
編集部
ベーチェット病とはどのような病気ですか?
籠谷さん
ベーチェット病は口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。ベーチェット病には完全型と不完全型があります。病気が悪化しやすい活動期と、落ち着いている寛解期を繰り返しながら、病気自体が改善する人もいれば、何年経っても病気に悩まされる人もいます。
編集部
どのような症状があるのでしょうか?
籠谷さん
口腔内に円形の境界鮮明な潰瘍ができます。皮膚に結節性紅斑様皮疹(発疹)がみられることや眼痛、充血、関節炎など、ほかにも様々な症状が出る場合があります。
編集部
発症時のことは覚えていますか?
籠谷さん
真夏の夜中、猛烈な寒気と全身を襲う筋肉痛のような激痛で目を覚ましました。風邪を引いた時の関節痛をひどくした感じの痛みで、身体を少し動かしただけでも激痛が走りました。昔から扁桃腺の炎症で高熱を出しやすい体質でしたが、喉は痛くないし咳も出ていなかったので、今までとは少し違うなと思いながら、開いていた窓を閉めて、冬用のスウェットと羽毛布団を出したことを覚えています。熱を測ってみると、体温計は40度を超えていました。夏風邪だと思い風邪薬を飲み、また布団に入りました。
編集部
病院はすぐに受診しなかったのですか?
籠谷さん
昼間は関節の痛みや全身の倦怠感はあったのですが、少し落ち着いてなんとか仕事はできる状態でした。しかし、生活にも支障が出るようになったので、近所の内科を受診しました。私が小学生の頃からお世話になっている医院です。先生は珍しく首を傾げて唸っていました。喉も炎症を起こしていないし、胸部のレントゲンも正常。尿から少しタンパクが出ているだけとのこと。血液検査の結果は3日経たないと結果がわからないため、その日は解熱のための座薬と、鎮痛剤と抗生物質を処方されて帰りました。
編集部
大きな病院には行かれましたか?
籠谷さん
昼間にも高熱が出るようになり、大きな病院を受診することにしました。その際も、内科の担当医は首を傾げて不思議そうにしていましたが「膠原病の類かもしれないから」と、リウマチ科の受診を勧められました。そのままリウマチ科を受診したのですが、それがいまの主治医との最初の出会いでした。
編集部
すぐに診断は出たのでしょうか?
籠谷さん
いいえ。主治医からは「膠原病だったらすぐにでもステロイドによる服薬治療ができるが、今は高熱と関節炎のほかに決め手となる症状がない。膠原病としてはグレーゾーンなので、今ステロイドを使ってしまうとこの先の検査の数値が正確ではなくなるため使えない」と説明がありました。「新しい症状が出たら、すぐに受診するように」と言われ、その病院でも解熱鎮痛剤を処方されて帰ってきました。
編集部
ほかにも特徴的な症状はありましたか?
籠谷さん
その翌日、足に激痛が走り目を覚ますと、太ももから足の指先まで2倍ぐらいの太さに腫れあがって、1cm大の赤い発疹ができていました。腫れあがったせいで関節を曲げることも出来ず、皮膚はテカテカに光っていました。腕にも同じような発疹ができており、すぐに主治医のもとへ向かい、腫れあがった足を見せました。主治医から「口内炎は出来ているか? 先日採血した所は炎症を起こしていない?」と聞かれ、採血した手の甲を見せると、赤く腫れ上がって化膿していました。これがベーチェット病特有の「針反応」と呼ばれるものだったそうです。さらに、それらを診た上で「女性だから答えにくいかもしれないが、陰部に潰瘍は出来ていないか?」と聞かれました。できていることを伝えると、主治医は口内炎を見て「これは痛くて辛かったね」と言いながら、説明をはじめました。
編集部
医師からはどのように説明があったのでしょうか?
籠谷さん
私の場合は「不完全型ベーチェット病」に分類されると診断されました。不完全型ベーチェット病は、将来的に特殊型と呼ばれる腸管型、血管型、神経型に移行する可能性が高いことや、ブドウ膜炎になってしまうと失明してしまう可能性があることも説明がありました。
ステロイド治療が効果的に働く
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
籠谷さん
ステロイドを服用する治療を始めると説明を受けました。ステロイドはとても広く効果があり、色んな病気にも使われる薬ですが、その分副作用も多いので不安でしたが、主治医に言われるまま、ステロイド治療を開始しました。
編集部
ステロイドの効果はありましたか?
籠谷さん
はい。ステロイドを服用してみると、悩まされていた高熱や関節痛がなくなり、発疹もすぐにきれいになくなりました。その後も月に1回は定期受診しながら、初めは1日に20mg服用していたステロイドを5mgずつ減量して、症状が落ち着いた頃に、コルヒチンの内服が始まりました。
編集部
毎月の受診で様子を診ていくのですね?
籠谷さん
はい。主治医からは「この病気は見通しを立てるのが非常に難しい。病気の出方を見ながら、それに合わせた治療法を考えるしかない」と言われています。また、私の場合、発症時の症状が地味だったので、将来的に特殊型になりやすい傾向にあるとも言われました。特殊型になってしまった場合には、それ相応の治療をしなければ命に関わる可能性もある、と言われたのを覚えています。
編集部
先述の特殊型には移行したのでしょうか?
籠谷さん
はい。その後、特殊型の「腸管型ベーチェット病」になりました。発症から約3年後の事でした。腹痛と下血を繰り返したことから、その診断を受けました。下血していたので緊急入院となり、その後の大腸カメラで小腸と大腸の繋ぎ目の回盲部に潰瘍が見られ、そこからの出血であったことが確認できました。
編集部
腸管型ベーチェット病と診断された時の説明内容は?
籠谷さん
これからは一生ステロイドと付き合いながら生活をしなくてはならないと説明されました。腸管の潰瘍の状態を診てステロイドを増減しながら、補助的にほかの薬剤も試して効果のある薬を探すとの事でしたが、そこからが長い旅路の始まりでした。入院しながら、様々な生物学的製剤や免疫抑制剤、抗リウマチ薬を手当たり次第試しましたが、あまり合う薬に出会う事はできていません。
編集部
入院中の治療の内容を教えてください。
籠谷さん
入院生活中は、大量のステロイド治療が主で、口から60mgを服用する時と、潰瘍や採血の数値が悪い時にはステロイドパルス療法を行いました。ベーチェット病は膠原病とは違う「自己炎症性疾患」という炎症性の病気なので、クローン病や潰瘍性大腸炎、関節リウマチと似たような治療となります。自己炎症性疾患に効果のある薬剤を、たくさん試しました。
病気に対しての気持ちの変化
編集部
病気が判明した時の心境について教えてください。
籠谷さん
難病だと言われて、ショックというよりは合点がいったような安堵感のほうが強かったです。不安よりは「これだけ大変だったんだから、難病でも仕方ないか」という思いのほうが強かったように思います。症状が出てしばらくは、目に見えない病魔との闘い、見通しの立たない将来に対してヤキモキする気持ちが強く、常に何かに追い詰められているような状態でした。
編集部
その後の生活に変化はありましたか?
籠谷さん
今まで走りまわって仕事をしていたのに、一転してベッドの上で安静にしなければならず、行くことができるのは病院内のコンビニのみ。外出も一切禁止という状況の中、精神のバランスが崩れました。
編集部
お仕事には影響はありましたか?
籠谷さん
不完全型だと診断された時は、夜勤もあるシフト制の介護職をしていましたが、次第に身体に限界を感じることが多くなって、現在は在宅でシナリオライターをしつつ、SNSで自身の経験を発信しながら暮らしています。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
籠谷さん
真の助という名前のミニチュアシュナウザーという犬を飼っていたので、家族がお見舞いに来る時には、一緒に車に乗って会いに来てくれました。また、私は三姉妹で妹が二人いるのですが、私が腸管型ベーチェット病の治療をしている入院中に、妹達もベーチェット病の可能性が出てきました。結局、一人は疑いのまま元気でいますが、もう一人はベーチェット病だと判明し、その時には既に腸管型になっていました。腸管型になった妹と2人で病気の愚痴や色んな情報を共有できたのは、不幸中にしてとても心強かったです。入院していても同じ病気の人には会ったことがなかったので、本当に身近で共感できる存在ができ、一緒に闘える仲間がいたのは心強く、それは病気に対する考え方が変わった転機にもなりました。
編集部
現在の体調や生活の様子について教えてください。
籠谷さん
現在の体調については、活動期が多い状態ですが、笑って過ごせています。入院しながら薬の調整をしたり、新しい治療法を試したりして、現在はステロイドと解熱鎮痛剤を服用し、シンポニーという生物学的製剤の自己注射をしながら過ごしています(記事監修医註:本邦でシンポニー(一般名:ゴリムマブ)はベーチェット病への保険適用はありません)。
編集部
あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。
籠谷さん
病気は、自分や大切な人がなってみないとあまり意識しないものだと思います。私も病気になるまでは、ドラマや映画の中の世界だと思っていました。突然「あなたの病気は難病です」と言われると、時間は有限であったことに気付きました。何気ない家族とのやり取り、友達との会話も本当はとてもありがたいことなんだと気付かされました。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
籠谷さん
医療従事者の方には、感謝しかありません。リウマチ科の主治医は、出会ってから今までずっと一緒に闘ってくれています。シリアスな場面でも、すべて包み隠さずに結果から伝えてくれます。オブラートに包んで優しく言われるよりも、スパッと言ってくれて非常に助かっています。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
籠谷さん
病気になる過程は人それぞれですが、病気になるのは「不運」だとも「不幸」だとも思っていません。病気も障害も、一つの個性だと捉えています。読者さんにはこの記事をきっかけに、私の病気だけではなく、世の中にある難病や障がいに目を向けて貰えればうれしいです。私と同じような病気の方も、貴方は独りじゃありません。一緒に闘う友達がいる事は、それだけでとても励みになります。そのためにSNSを活用することが私には大切でした。一人で抱え込まずに、一緒に頑張りましょう。
編集部まとめ
籠谷さんがたどってきた病状は、ベーチェット病なら誰もが必ず通る道ということではないそうですが、詳しく話を聞かせてもらえたため、同病に悩みや疑いのある人に参考としてもらえるのではないでしょうか。