【闘病】自覚症状無しの2年間を経て突然”自己免疫性肝炎”と診断。「もしもあのまま放置してしまったら…」
病気は必ず前兆や自覚症状がわかりやすく出るものだけではありません。今回お話を伺った坂本千里さんも、血液検査の異常値がありながらも自覚症状がなく、2年後にようやく異変を感じて受診した病院で指定難病の「自己免疫性肝炎」と診断されました。治療では約半年間のステロイド剤を服用し、辛い副作用も経験されています。自覚症状がない状態から、「自己免疫性肝炎」と診断された経緯や、治療時の副作用、治療のモチベーションなどの闘病生活について、詳しくお聞きしました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年9月取材。
体験者プロフィール:
坂本 千里(仮称)
50代女性。夫・子ども2人・義母と暮らしており、病気が判明した当時は個人でアクセサリー製作を行う。2018年に献血検査で肝臓の数値異常が見つかるが、近所のかかりつけ医からは異常なしと診断。その後も数値異常を指摘されることはあるが、無症状で経過。2020年3月頃から疲れやすさを感じ、徐々に食欲不振・浮腫・大幅な体重増加が起こる。同年8月に総合病院で精密検査を行った結果、「自己免疫性肝炎」と診断。
記事監修医師:
梅村 将成(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
目次 -INDEX-
「大腸がんかもしれない」と言われ、恐ろしさを感じながら日々を過ごしていた
編集部
坂本さんが罹患された「自己免疫性肝炎」とはどのような疾患なのでしょうか?
坂本さん
自分の免疫が暴走した結果、自分の肝臓を攻撃してしまい、炎症を起こして肝硬変へつながる病気です。免疫が暴走する原因は未だに不明で、難病指定されています。
編集部
坂本さんの病気はいつ頃見つかりましたか?
坂本さん
正確な診断が出たのは2020年8月頃ですが、今思えば初期症状は2018年の献血を受けた時から異変が起きていました。というのも、2018年に受けた献血の検査で「肝臓の数値に異常がある」と言われたんです。ですが、献血検査後に近所の胃腸内科で再度血液検査とエコー検査を受けても、様子見と言われただけでした。
編集部
では、最初の2018年頃から前兆や体調の変化を感じることはありましたか?
坂本さん
当時から、自覚症状は全くありませんでした。2019年2月に再度受けた献血検査でも異常が出ましたが、同年6月に受けた健康診断では異常がなかったので、困ることもありませんでした。
編集部
では、顕著に症状が現れ始めたのはいつ頃ですか?
坂本さん
2020年3月頃からです。やたらと疲れやすく、食後は何もやる気が起きないほどでした。ただ、当時はコロナウイルスが流行していたので外出をあまりしなかったこともあり、ただの運動不足のせいだと思っていました。ですが、その一か月後の4月には一日中軽い吐き気と食欲不振を感じ、5月になると食欲はないのに体重が増えて、今まで履いていたズボンが履けない、という状態になったんです。あとは、麦茶のような色の尿が出たり、強烈な吐き気があったりしました。なので、いよいよ「おかしい」と思ってかかりつけ医を受診しました。
編集部
医師からは何と言われましたか?
坂本さん
そのかかりつけ医からは「コロナが流行している影響で検査が難しい」と言われ、吐き気止めと胃薬を処方されただけでした。でも、就寝中にふくらはぎがつって起きる、腹部膨満感、のどの圧迫感、玉のような硬便などの症状が次々と起こります。薬を飲んでも改善せず、わずか4カ月で体重が5㎏も増えました。そのため、別の病院を受診しました。
編集部
それからどのような経緯がありましたか?
坂本さん
新しく受診した病院でエコー検査を受けたら、肝臓の表面がボコボコになっていたんです。そこの医師からは「大腸がんかもしれない」と言われました。その後、直腸内視鏡検査も受けましたが、それでは異常が見られなかったので、紹介状をもらって総合病院を受診しました。そこでは、精密検査と肝生検も行い、ようやく「自己免疫性肝炎」及びそれによる肝硬変と診断されました。IgGという免疫グロブリンの数値が上限の2.8倍になっていましたが、幸いがんは発見されず、肝臓の繊維化もそれほどひどくなかったそうです。
編集部
病気が判明した時はどのようなお気持ちでしたか?
坂本さん
「がんの疑いがある」と言われて正直怖かったので、少しほっとしたのが本音です。ですが、肝硬変はお酒をたくさん飲む人がなる病気だと思っていたので、すごく意外でした。肝臓の知識もほとんどないので、これからどうしたらいいのか想像もできませんでした。そして、自分は健康が自慢だったのですが、自己免疫の暴走と聞いて「免疫力が強すぎるのも良いわけではないんだ」と感じました。結果的に肝硬変は軽症でしたが、もし「あのまま何もせずに放置してしまったら」と考えると恐ろしいです。
編集部
診断後はどのような治療が行われたのでしょうか?
坂本さん
医師からは「ステロイドで肝臓の炎症を抑えていきますが、さまざまな副作用が出るので体調に変化があったらすぐに受診してほしい」と説明されました。そして、プレドニゾロンを1日60mg、肝臓の働きを助けるヘパアクト、胸やけを抑えるネキシウムを服用し始めたら、2日目には胃腸の不快感がなくなり、久々に楽しく食事ができました。体も良く動くようになり、1週間後には肝臓の数値が大幅に改善しました。
編集部
ステロイドは何カ月くらい内服していたのですか?
坂本さん
5カ月半ほどです。内服開始2週目にはステロイドを20mg、3週目には15mg、2カ月目に10mg、3カ月目に7.5mg、4カ月目に2.5mgと徐々に減薬し、5カ月半頃に肝臓の数値が基準値内になったためステロイドは終了になりました。
編集部
ステロイドによる副作用はありましたか?
坂本さん
最初に出たのは不眠で、夜中は頻繁に目が覚めていました。ほかには、全身の蕁麻疹・かゆみ、胸痛、胸やけ、顔の吹き出物、ムーンフェイス、嗅覚・味覚過敏などです。時期によってさまざまな副作用が出ましたし、元々あった症状がぶり返すこともあり、つらい時期でした。
編集部
ほかにも内服薬は処方されましたか?
坂本さん
骨粗しょう症予防の「ボナロン経口ゼリー」や胸やけ予防の「ネキシウムカプセル」、免疫抑制剤の「イムラン」、胆汁酸の分泌を促進する「ウルソデオキシコール酸」、低アルブミン血症による浮腫を改善するために「ヘパアクト」などが処方されていました。
検査結果が改善されていく 治療中の楽しみは自分の体と向き合うこと
編集部
診断前後で生活の変化はありましたか?
坂本さん
病気が判明する2年くらい前から免疫の暴走は始まっていたと思いますが、自覚症状も体調の変化もなく、かゆみや黄疸もありませんでした。しかし、「自己免疫性肝炎」と判明する半年くらい前から診断されるまで胸やけや食欲不振などの体調不良があり、1回の食事量は少なく、回数は多くしていました。また、当時は義母の認知症介護をしていたので、「疲れやすさは歳を取って体力がなくなったから」と思っていました。それ以外には生活で大きな変化がなかったことも、発見に時間がかかった原因かもしれません。治療を開始した最初の3カ月はステロイド剤の副作用がたくさん出ていたので、治療前よりも治療を始めてからのほうが「しんどい」と感じることは多かったです。
編集部
治療中の心の支えや楽しみだったことがあれば教えてください。
坂本さん
副作用がつらくて予約外診察にも度々行って、その度に対応してもらいました。診察後に血液検査の結果を確認して、異常値がどんどん改善されていくことを感じることが、私の治療のモチベーションにもなっていました。
編集部
治療期間はどのくらいでしたか? 体調や治療の状況についても教えてください。
坂本さん
私の場合は炎症を抑えるステロイド剤の「プレドニゾロン」を約半年ほど服用し、今では血液検査の結果でも異常はなく制限なしで生活できています。ただ、これからも免疫抑制剤のイムラン、肝臓の働きに関係するヘパアクトとウルソデオキシコール酸は服用を続けなければならないようです。肝硬変があると肝臓がんや胃がんのリスクが高くなるそうで、半年に一度はエコー検査とCT、毎年のMRIと胃カメラ検査は継続しています。
編集部
坂本さんが日頃から気を付けていること、取り組んでいることはありますか?
坂本さん
主治医に指導されて、肝臓に負担がかからない食生活を心掛けています。例えば、暴飲暴食しない、アルコールは飲まない、サプリメントは使用せずに食事の栄養バランスを意識するなどです。生活面では適度な運動やストレスを溜めないなど、自分の健康を一番に考えるというのを大事にしています。
40代・50代の方は忙しくても健康診断を受けてほしい
編集部
現在は以前とほぼ同じ生活を送られているのでしょうか?
坂本さん
今では快適に暮らしていて、小学生の息子と親子マラソンに参加できるほど体力が戻っています。また、病気をきっかけに子どもや夫が家事と介護を手伝ってくれるようになったので、私ができなくても家のことが成り立つ状態にできたのは大きな変化だと思います。
編集部
坂本さんの自己免疫性肝炎は発見までに時間がかかったようですが、医療従事者に伝えたいことはありますか?
坂本さん
最初のかかりつけ医には「心因性」、別の医院では「大腸がんか肝臓がんの可能性」と言われたので、医療従事者の中には「自己免疫性肝炎」をあまり知らない人もいるかもしれません。珍しい病気ではありますが、もっと多くの方に周知されると良いと思います。
編集部
坂本さんの体験を通して、同年代の方にお伝えしたいことをお願いできますか?
坂本さん
自己免疫性肝炎の早期発見のためにも、定期検診と血液検査が大切です。私と同じく好発年齢の40代・50代の方は、毎年の健康診断を受けるようにしてください。罹患して治療する際は、ステロイド剤を使用することになると思いますが、効果はあるものの副作用もつらかったので覚悟しておいたほうがいいです。
編集部
最後に坂本さんから読者の方にメッセージをお願いします。
坂本さん
私は自己免疫性肝炎になるまで、ろくに病気をしたこともない人生でした。病院を受診するほど大きなことは妊娠・出産くらいで、風邪をひいても寝て治すくらいでした。ですが、50代に近づくにつれてホルモンバランスが崩れ始め、不調が訪れます。「加齢によるもので、自力では治せない」ことも増えるので、どんなに健康体の人でも「自分は大丈夫」とは思わないほうがいいと思いました。アラフィフは自分から健康面に気を付けないと周りに迷惑をかけることになるので、健康診断は毎年受けてもらいたいです。
編集部まとめ
坂本さんが罹患した自己免疫性肝炎は、自己免疫性の疾患の一種で原因は不明とされています。しかし、健康診断や人間ドックなどのスクリーニングで比較的発見しやすく、血液検査で肝臓の異常を指摘されるケースが多くあります。ただし、初期症状がほとんどないため、ある日突然食欲不振や黄疸といった急性肝炎の症状が現れます。血液検査の肝臓の数値だけでは診断しづらく、肝生検・エコー検査・CT・MRI検査まで行って診断が確定できます。健康診断で頻繁に肝臓の数値異常を指摘される方は、早めの受診で早期発見に努めましょう。