「前立腺がん」の治療法を医師が解説 治療の種類や選択基準もご紹介
男性のがんの中でも発生率が高い「前立腺がん」。食生活の欧米化や高齢化などが要因となって、年々、患者数が増加していることでも知られています。一体、前立腺がんにはどのような治療法があるのでしょうか。今回は「たまプラーザいとう泌尿器科」の伊藤先生に教えていただきました。
監修医師:
伊藤 祐二郎(たまプラーザいとう泌尿器科)
目次 -INDEX-
前立腺がんの治療法にはどんな種類がある? それぞれの治療法を比較
編集部
前立腺がんの治療法には、どのような種類があるのでしょうか?
伊藤先生
基本的に、「手術療法」「放射線療法」「ホルモン療法」「化学療法」の4種類があります。どの治療法を選択するかは、患者さんの状態や年齢、病歴などを総合的に考えて決定します。
編集部
それぞれの治療法について、説明をお願いします。
伊藤先生
まず手術療法では、通常、前立腺を全て取り除く「前立腺全摘除術」をおこないます。以前は開腹しておこなう手術が一般的でしたが、近年では「腹腔鏡手術」や「ロボット手術」などもおこなわれるようになり、従来よりも低侵襲な手術が可能となりました。
編集部
手術療法では、前立腺を全て摘出してしまうのですか?
伊藤先生
以前は、全部摘出するのが一般的でした。しかし近年は、まだあまり進行していない初期の状態であれば、さらに低侵襲の治療として局所の「焼灼療法」が可能となり、全摘出しなくて済むケースもあります。
編集部
放射線療法とは、どのような治療ですか?
伊藤先生
放射線療法は高エネルギーのX線や電子線を患部に照射し、がん組織を死滅させることを目的におこなわれます。放射線療法には、体の外側から前立腺に放射線を当てる「外照射療法」と、前立腺に放射性物質を留置して体内から照射する「組織内照射療法」があります。
編集部
ほかの治療法についてはいかがでしょうか?
伊藤先生
前立腺がんは男性ホルモンの刺激が誘因となって病気が進行するという特性があります。そのため、ホルモン療法では男性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬を使用することでがんを抑制していきます。また、化学療法では、注射、点滴、内服などをおこなうことで、がん細胞を小さくしたり消滅したりすることを目指します。
手術・放射線治療など、前立腺がん治療の選択基準や効果は?
編集部
治療法を選択するのに、どのような基準がありますか? それぞれの適応について教えてください。
伊藤先生
まず手術療法は、がんがあまり進行しておらず、がんが前立腺の中にとどまっていて、余命が10年以上期待される場合におこなうことが推奨されています。こうした患者さんの場合、外科手術は放射線治療と同程度の治療効果が期待できます。
編集部
ほかの治療法はどうでしょうか?
伊藤先生
同じく、がんが前立腺の中にとどまっている場合には放射線療法も可能です。手術に比べて体の負担が少なくて済みますが、場合によっては副作用のリスクもあります。
編集部
放射線療法と外科手術は、どのように使い分けるのですか?
伊藤先生
PSA検査の数値や組織を採取しておこなう生検の結果などを確認しながら、どちらをおこなうか決定します。もし、放射線治療だけでは再発しそうなら、外科手術を選択します。また、外科手術ではがんを取りきれなかったり、局所的にがんが残ってしまったりした場合には、外科手術の後に放射線療法をおこなうこともあります。ただし、最初に放射線療法をおこなうと、その後に外科手術をおこなうことができないので、綿密に治療計画を立てる必要があります。
編集部
ホルモン療法や化学療法は、どのような場合に選択されるのですか?
伊藤先生
がんが前立腺の中にとどまっておらず、手術療法や放射線療法が難しい場合にはホルモン療法や化学療法を用いることが多いですね。それから超高齢者の場合、手術や放射線療法ではかえって具合が悪くなることもあります。その場合には治療の強さを加減しながら、ホルモン療法や化学療法を選択することになります。
編集部
複数の治療法を組み合わせることもあるのですか?
伊藤先生
あります。組み合わせることで互いに補完することができるため、現在では「手術療法+放射線療法」や「ホルモン療法+放射線療法」のように、組み合わせておこなうことが一般的です。
前立腺がん治療のリスクや副作用など、知っておきたい基礎知識
編集部
治療のリスクはあるのでしょうか?
伊藤先生
治療法によって異なります。まず手術療法では、尿失禁と機能性障害のリスクがあります。手術の際に尿道括約筋が傷つくことにより、尿の排出を調節することが難しくなり、咳をしたときなどのふとした瞬間に尿が漏れてしまうことがあります。また、手術直後は勃起障害が起こり、完全な回復は難しいとされています。
編集部
必ず勃起障害が起きるのですか?
伊藤先生
手術の方法によっては勃起の神経を温存することもできます。ただしその場合、がんを取り残すリスクもあるため、慎重に選択する必要があります。
編集部
放射線療法のリスクは?
伊藤先生
外照射療法のリスクは、頻尿、排尿、排便時の痛み、さらに排便時の出血や血尿などが考えられます。また、組織内照射療法では排尿困難や頻尿が起きることもあります。
編集部
ホルモン療法のリスクについてはいかがでしょうか?
伊藤先生
ホルモン療法では、のぼせやほてりなどのホットフラッシュがみられたり、性機能障害などが起きたりします。また、男性ホルモンが減少することにより相対的に女性ホルモンが増えるため、乳房が大きくなったり、乳頭に痛みが出たりすることもあります。
編集部
化学療法のリスクについても教えてください。
伊藤先生
使用する薬剤によって異なりますが、貧血、脱毛、食欲不振などが起こり得ます。このように、それぞれの治療法にはメリットとデメリットがあるため、その人の症状や容態、既往などによって治療法を決定する必要があります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
伊藤先生
情報があふれている現代社会では、ご自分でインターネットを使って治療法について調べる人も多いと思います。しかし、医学的に正しい情報と誤った情報が混在していることは否めません。ご自分でその情報が正しいか、間違っているか判断するのは、非常に困難でしょう。また、収集する情報量ばかりが多くなり、かえって混乱してしまうこともあると思います。もし、気になる症状がみられたら、必ず医師に相談してください。結果的に、その方が治癒までの近道になることもありますから、ためらわず医療機関を訪ねてほしいと思います。
編集部まとめ
命にかかわる進行がんから経過観察でも大丈夫な超初期のがんまで、前立腺がんの病期は様々であり、それぞれにふさわしい治療方法や対処法があります。初期であれば体に負担の少ない低侵襲の治療をおこなうことも可能なので、人間ドックや健康診断で指摘されたり、気になる症状がみられたりする場合は、早めに専門医の診察を受けましょう。
医院情報
所在地 | 〒225-0003 神奈川県横浜市青葉区新石川2-2-2FUJIKYUビル3階 |
アクセス | 東急田園都市線「たまプラーザ駅」 徒歩2分 |
診療科目 | 泌尿器科、腎臓内科 |