【闘病】「いつもの不調」に思わぬ病気が潜んでいた《ベーチェット病・線維筋痛症・シェーグレン症候群》
はっきりとした原因が分からないまま、与えられた治療を漠然と受け入れていたという奈央さん(仮称)。一人の麻酔科医から言われた「このままでは薬漬けになってしまう」という指摘で目が覚め、積極的に治療していこうと意識転換をしたそうです。なかなか診断がつかない時期のことや治療前後の違いなどについて、奈央さんに話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年7月取材。
体験者プロフィール:
奈央さん(仮称)
1976年生まれ。千葉県在住。2015年にベーチェット病と診断され、2021年には線維筋痛症、慢性疲労症候群、シェーグレン症候群と診断される。大学生の息子と鳥16羽との二人暮らし。
記事監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
薬を増やしても良くならなかった
編集部
最初に不調や違和感を覚えたのは、いつどのような状況だったのでしょうか?
奈央さん
2014年頃、お手洗いが近くなり、生活に支障をきたすようになってきて困っていました。投薬コントロールなど何か手立てはないかと思い、別件で長年お世話になっている麻酔科のA先生に相談して、同じ病院の泌尿器科を紹介してもらいました。
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
奈央さん
泌尿器科では、「過活動膀胱」という診断でしたが、ほぼいつも下痢をしていることを伝えたところ、「潰瘍性大腸炎」の疑いもあるとのことで同病院の消化器内科に紹介され、すぐに潰瘍性大腸炎と診断されて治療が始まりました。
編集部
あらかじめ伺っていた病名とは異なりますね。
奈央さん
そうなのです。最初は潰瘍性大腸炎と診断されました。潰瘍性大腸炎の難病認定を取ってから、ヒュミラという生物学的製剤を用いた治療を受けたのですが、アレルギー反応が出て、さらには口内炎や皮膚の紅斑も出始めました。また、ある時からひどい関節痛で朝は立てない程になってしまい、医師から「様々な症状から判断すると潰瘍性大腸炎ではなくベーチェット病」であると診断されました。改めてベーチェット病での難病認定を取ってから、免疫抑制剤の服用など薬の内容も若干変わり、生物学的製剤としてはレミケードを用いる治療に変わりました。
「このままだと薬漬けになってしまう」と医師
編集部
その後、ベーチェット病ではなく線維筋痛症とシェーグレン症候群の診断に至るまでの経緯を教えてください。
奈央さん
どんなに食べ物に気をつけて薬を増やしても快方へは向かわず、入退院を繰り返すようになっていました。ある時、麻酔科のA先生から「投薬の内容等を見ても治療方針が見えない、他院へ転院したほうが良い」とアドバイスをもらいました。また、私の症状から、「ベーチェット病以外の病気があるのではないか」と感じているようでした。
編集部
そこからどうされたのですか?
奈央さん
A先生のアドバイスに従い、大学病院の専門医に診てもらい、そこで薬の量や使い方などを細かくチェックして管理してもらうことで、副作用の肝臓の数値等に変化が見られるようになりました。それでもなかなかおさまらない酷い倦怠感や体の痛みがあり、これまでの治療をひとつずつ確認していったところ「線維筋痛症」ではないかという話が出てきました。「線維筋痛症」とは、全身の様々な場所に激しい痛みを生じる原因不明の慢性疾患です。
編集部
また別の病気の疑いが出てきたのですね。
奈央さん
その大学病院では線維筋痛症を診る専門医がいないということで、別の病院の専門医(B先生)を紹介していただきました。そこでは、初回の問診で「間違いなく線維筋痛症」だという診断があり、線維筋痛症に対しての治療が始まりました。また同時にシェーグレン症候群(免疫のバランスが崩れることで、涙や唾液を作る臓器に炎症が生じ、目や口など様々な部位の乾燥を引き起こす病気)でもあるという診断も受けました。
編集部
そのときの心境について教えてください。
奈央さん
結構厄介なことになっているということがわかり、少し落ち込みました。B先生からは、私の生活自体にも問題があるのでしっかり正していかなければならない、との指摘も受けて、色々と生活面に関しても考えるようになりました。確かに、最初に潰瘍性大腸炎の診断がついたときには「薬を飲めば今までの症状は良くなるのだろう」という甘い認識でした。なかなか良くならない症状に心許なさを感じつつも「まあ仕方ないかな」くらいに考えていました。麻酔科のA先生に「このままだと薬漬けになってしまう」と言われたことで、初めて漫然と改善の見られない治療を続けていてはいけないのだと思うようになりました。
患者が自分自身をマネージメントすること
編集部
治療や闘病生活の中で、何か印象的なエピソードがあれば教えてください。
奈央さん
「薬漬けになってしまう」と指摘してくれた麻酔科のA先生にはとても感謝しています。薬の効果を感じられなくても「難病は完治しないから」というマインドでただ言われた通りにしていた私に、そこを正して積極的に治療する方向へ導いていただけたと思っています。
編集部
良い出会いだったのですね。
奈央さん
はい。また、B先生からは「自分をマネージメントすること」と言われたことが印象的でした。ただ通院して薬を飲んでいれば良いわけではなく、患者自身が自分の生活や考え方等を見直して、自分の体をマネージメントしなければならない。そんな指摘を受けたことはありませんでした。それは決して簡単なことではなく、なかなかうまくいかずに毎日苦戦していますが、大切なことだと実感しています。線維筋痛症の治療は外来通院での投薬治療が基本で、あとは注射治療もしています。主治医は患者の話を良く聞きアドバイスもしっかりされているため、待ち時間も長いのですが、医師としっかり話すことで色々な気付きや課題もみえてくるので、病態を良くするためには大きな意味があると感じています。
編集部
どのように苦しさを乗り越えていますか?
奈央さん
情報収集するためにSNS(Instagram)を始めたのですが、そこで全国の同じ病気を抱えた様々な方と知り合うことができ、悩みを共有できたことがとても励みになりました。ネットで情報を調べるだけでは限界があり、またそれぞれ症状も違うため、個々の状態を知ることができるSNSは良いツールだと思います。同じように頑張っている人がいると思えることはとても心強いです。
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
奈央さん
日々の「当たり前」に、疑問を持つことも大事だと思いました。何か不調があっても「疲れているからだろう」「単なる風邪だろう」とスルーせずに、きちんと自分で身体の声に耳を傾けようと思うようになりました。また、私のような外見的には分かりにくい病気を抱えている人がたくさんいることを知り、他人への思いやりの気持ちを持てるようになりました。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
奈央さん
自身の体の不調を見逃さないような健康管理をすることが大切だと思いました。「いつもこうだから」と放置してしまいがちな症状が、実はその奥に病気が潜んでいることもあるということ、特に子育てなどで自分が後回しになってしまうとそれが常態化してしまいます。いつもの自分の普通をきちんと把握して、良い意味で無理ができたり、きちんと病院受診を考えられたりするような自己管理ができないといけないと痛感しました。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
奈央さん
今の生活は、体調は一進一退ですが、自分の軸を大切にしながら「やれる時にやれることを頑張る」という、少し肩の力を抜いた生活にしているおかげで、調子を保てているように思います。また、少し余裕がある時には、障害年金などについても調べたり、相談先を探し始めたりしています。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
奈央さん
これ以上望むことはありません。それぐらい私の関わっている医師や看護師、また医療機関の方々は親切に接してくださいます。コロナ禍でも安心して医療が受けられるように尽力してくださり、本当にありがたいです。ただ、行政に対して望むことはあります。まだ難病認定のない線維筋痛症などの難病認定や、医療費負担についてです。全国統一の難病認定の書類を医師に頼むにあたっても、文書代金が病院によって大きく異なることに疑問を感じます。
編集部
もちろん金銭面も負担になりますよね。
奈央さん
医療費の補助を受けているので、これ以上の贅沢は言えませんが、やはり負担はかなり厳しいです。せめて費用は全国統一にしてほしいです。また、難病の人が無理せずに働ける場所も作ってもらいたいです。がんに対してはがんサバイバーという言葉もいくらか浸透して、企業でも理解を深めようという姿勢があるようですが、そのほかの難病などに対してはそういう場がなかなかないと感じます。そういう難病の患者は、健常者の方々と同じように雇用され、無理をして我慢をしながら働いているのが現状です。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
奈央さん
ヘルプマークについて知ってください。元気そうだから、若いからと、見た目では判断できなくても援助や配慮を必要としている人たちがいます。また、自身の健康はいつどうなるかわかりません。いざそうなった時にきちんと判断できる力も必要です。様々な情報に惑わされないように気をつけなければなりません。世の中には情報が溢れていますが、自分にとっては何が大切なのか、どうすべきか、しっかりとした判断をし、意志を持つことが大切だと思います。
編集部まとめ
「薬さえ飲んでいれば良い」という考え方だったところから、「自分の体の声を聞く」「自分の体をマネージメントする」という考え方にシフトしていったという奈央さん。「病気になる前よりしっかり生きようとしているかもしれません」という言葉が印象的でした。