経管栄養でも誤嚥するのはなぜ? 注入中の注意点について看護師が解説
「経管栄養をすすめられたけど、イメージがわかない」という方は多いと思います。経管栄養は、口から食べるよりは誤嚥のリスクが低いものの、誤った方法で行うと、経管栄養でも誤嚥を起こすことがあります。そこで今回は、経管栄養の安全な方法や注入中の注意点について、看護師の高久さんに教えていただきました。
監修看護師:
高久 容子(看護師)
経管栄養にはどんな種類があるのか
編集部
経管栄養は何のために行うのですか?
高久さん
経管栄養は、口から食事が食べられなくなった時の栄養補給として行います。例えば、意識障害や喉のケガで咀嚼や飲み込みができない場合や、食べる量が少なく栄養状態が悪い時などですね。また、口から食べられるけど、何度も誤嚥して肺炎を起こしているというケースでも、経管栄養にするケースもあります。
編集部
経管栄養にはどんな種類があるのですか?
高久さん
大きく分けて2種類あります。1つ目は、長い管を鼻から胃まで通す方法で、「経鼻経管栄養」というものです。2つ目は、お腹の皮膚から胃や腸にかけて、手術で貫通させて管を通す「消化管ろう」です。
編集部
2つの種類の中からどうやって選ぶのですか?
高久さん
経管栄養を実施する期間によって変わります。4週間未満の場合は経鼻経管栄養、それ以上だと消化管ろうを行うのが一般的です。また、消化管の機能や、その方の持つ認知能力などからも総合的に判断します。退院後の生活が、自宅か施設かということも判断材料になりますね。しかし、そもそも経管栄養を行うかどうか最終的に決定するのは、ご本人になります。ご本人やご家族が納得して決定できるよう、主治医や看護師と十分に話し合ってください。
編集部
経管栄養にしたら、もう口からは食べられないのですか?
高久さん
食べられるようになります。口から食事をすることを目的に、一時的に経管栄養にすることも多いですよ。その場合は、医師や看護師とともに、食べるトレーニングを行います。
経管栄養では誤嚥や下痢、皮膚トラブルのリスクがある
編集部
経管栄養にはどんなメリット・デメリットがありますか?
高久さん
一番のメリットは、安定して栄養が摂れるため、栄養状態が改善されることです。そして、食事が食べられるようになれば管の抜去も行うことも可能です。デメリットは、経管栄養によるトラブルがあることですね。嘔吐や下痢、管の刺激による皮膚トラブルがリスクとしてあげられます。また、誤嚥のリスクもあります。
編集部
誤嚥しないために経管栄養にしたのに、それでも誤嚥することがあるのですか?
高久さん
そうですね。経管栄養でも、嘔吐したり食べ物が逆流したりすることによって、誤嚥が起こることもあります。歯磨きなどのケアが不十分な時でも、口腔内の雑菌により誤嚥することも考えられます。
編集部
誤嚥するとどうなりますか?
高久さん
誤嚥は肺炎につながります。これを誤嚥性肺炎といいます。症状は、発熱や痰がらみの咳で、風邪と同じような症状が出ます。しかし、高齢の方は症状が出ない場合も多く、重気づかない内に症化しやすいことが特徴です。「なんだかいつもと様子が違うな」と思ったら、早めに医師や看護師に相談しましょう。
手順と注意点を守ればリスクは大幅に軽減する
編集部
リスクを避けるためにはどうすればいいですか?
高久さん
●経管栄養の手順
① 栄養剤の準備として、栄養剤を専門の容器に移し替える。
② 要介護者のベッドの背を30度以上に上げる。もしくは車いすやいすに移動する。
③ 管の位置が適切か確認する。経鼻経管栄養では、先端の丸い注射器で胃の内容物を吸引することで確認できる。
④ チューブをつなげて注入する。医師に指示された速度を守る。
⑤ 注入したら白湯を流す。
⑥ 30分~1時間は座位のままでいる。
●口から食べなくても歯磨きを行う
口から食べないと、唾液が減るため雑菌が増えます。なので、食べ物のカスで汚れなくても丁寧に口腔ケアを行ってください。
編集部
注入中の注意点を教えてください。
高久さん
上記の、“②座位30度以上”④注入の速度は医師から指示された速度” を守りましょう。私たちも、寝っ転がって食べたり早食いをしたりすると、むせることはよくあると思います。経管栄養でもその点は同じです。経管栄養といえども、食事をするのにふさわしい姿勢や食事のスピードを意識すれば、誤嚥のリスクは軽減されるでしょう。
編集部
注意していても誤嚥してしまう時はどうすればいいですか?
高久さん
医師か看護師にご連絡ください。正しい方法で行っていても、誤嚥を繰り返す時は、注入速度を落としたり、量を減らしたりして対応します。そして、状態を観察しながら安全な量や速さを探ります。また、開始後すぐにむせこむ時は、誤嚥している可能性があります。肺に多量の栄養剤が流れ込めば窒息の恐れもあります。すぐに注入をとめ、緊急連絡先や医師、看護師に連絡してください。
編集部まとめ
経管栄養は、口から食べられない時に行う栄養補給です。食べるトレーニングによって、また口から食べることは可能です。誤嚥を繰り返す時にも経管栄養にしますが、それでも誤嚥のリスクがあります。体位や滴下の速度を守ることでリスクは軽減できます。それでもむせこみや誤嚥がある場合は医師か看護師に相談しましょう。