切らない眼瞼下垂手術にリスクはある? 医師が切る手術や埋没法との違いやデメリットを解説
「年齢とともにまぶたが下がってきた」「たるんできた」などのお悩みを抱える方は多いと思います。実は、まぶたが下がってしまう「眼瞼下垂」(がんけんかすい)は、それが視野に影響するような場合、保険適用で治療が可能だといいます。今回は、「切らない眼瞼下垂手術」について、眼科・形成外科医の松田弘道先生(まつだ眼科形成外科・院長)にMedical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
松田 弘道(まつだ眼科形成外科)
目次 -INDEX-
まぶたが下がる眼瞼下垂( がんけんかすい)とは? 切るor切らない、埋没法など手術法の種類と違いなどを説明
編集部
まぶたが下がってしまう「眼瞼下垂」には、どのような原因があるのですか?
松田先生
多くの場合は、加齢の進行とともにまぶたを上げる筋肉の腱が緩んでしまうのが原因です。先天的に筋肉や神経の働きが不十分という場合にも起こります。発症リスクとして、コンタクトレンズの長期装用例(20年以上)や、花粉症などで繰り返し目をこする癖、などには注意が必要です。似たような病態として、まぶたの皮膚が伸びて視界が遮られる「眼瞼皮膚弛緩症」があります。
編集部
眼瞼下垂になることで、どのような症状が出るのですか?
松田先生
大きく分けて「目の症状」「外見」「全身症状」「精神症状」の4つがあります。「目の症状」は、目が疲れやすかったり、上方が見えにくかったり、まぶたが重たかったり、「外見」としては疲れた表情や顎を上げる癖、前額部のしわといった見た目の変化などが現れます。「全身症状」としては、難治性の頭痛・肩こりなどがあげられます。そして、抑うつ気分などの「精神症状」が起こることもあります。
編集部
では、治療としては、どのようなものがありますか?
松田先生
手術が一般的です。手術方法には、まぶたを引き上げる筋へのアプローチ別に、「皮膚を切る術式」と「切らない術式」があります。まぶたの状態は、お一人お一人ごとに違いがあるため、事前の問診や診察の上、最も適切と思われる術式を選択します。
切らない眼瞼下垂手術のメリット・デメリットは? 後戻りのリスクや失敗する可能性などについて教えて
編集部
眼瞼下垂の手術について、もう少し詳しく聞かせてください。
松田先生
国内では「切る眼瞼下垂手術」が一般的に行われていますが、「切らない眼瞼下垂手術」は皮膚面に傷跡が残らない、術後の腫れや皮下出血が少ない特徴を有する大変有用なアプローチ法です。「切らない眼瞼下垂手術」には、「埋没法」と「挙筋腱膜タッキング法」の2種類があります。「埋没法」は、結膜面から筋肉(と思われる)部位に通糸して糸の力で縫い上げる方法です。「挙筋腱膜タッキング法」は、まぶたの結膜側(後面)を短く切って筋肉を直視下に確認した状態でまぶたを上げる方法です。
編集部
それぞれのメリット・デメリットは?
松田先生
「埋没法」は、手技が簡便であり国内で広く行われていますが、肝心の筋肉を直視することが出来ず、まぶたの上がり具合が不十分となってしまうことがあります。また再発のリスクも、切る術式と比較して高い傾向にあります。
編集部
挙筋腱膜タッキング法のメリット・デメリットは?
松田先生
手技がやや困難で限られた施設でのみ行われているのが現状ですが、良好な手術結果が得られやすく、再発リスクも低いといった利点があります。両術式ともに、皮膚面に傷を作らずに、自然なまぶたの動きを維持できるため、“まぶたは上がっていても、手術を受けたことを周りに気付かれなかった”といったお声を頂けることが多いです。ただし、皮膚を切らない術式の特性上、皮膚切除の同時施行はできないことから重度の眼瞼皮膚弛緩を合併している場合には2期的に対処する必要があります。
切らない眼瞼下垂手術の施術方法や当日の流れ、術後の腫れや抜糸、保険適用についても知りたい
編集部
手術当日までの流れはどのようになりますか?
松田先生
問診・診察がメインで、検査などは必要に応じて行います。「血液をサラサラにする薬(抗凝固薬・抗血栓薬など)」を飲んでいる方は術後の腫れが相対的に強くでることがありますが、休薬は必ずしも必要ありません。診察の際に内服していることを主治医と確認するようにして下さい。
編集部
では、手術当日についてや「痛み」についても教えてください。
松田先生
日帰りによる手術が可能で、手術時間は片側10分程度です。事前の絶食は必要なく、普段通り過ごしていただいて結構です。痛みは、麻酔の注射の際のみ、若干感じることもありますが、その後は術中・術後を通じて痛みを感じることはまずありません。それでも手術への不安が強いという方は、施設によっては痛みや不安を取り除く追加の処置が可能なこともありますので主治医と相談されると良いでしょう。
編集部
手術の後はどのようになるのですか?
松田先生
手術の腫れや内出血が引くまでの、いわゆる「ダウンタイム」については個人差がありますが、「切る手術」では2週間程度、「切らない手術」では数日で落ちつくことがほとんどです。また、「切る手術」では約1週間後に抜糸を行います。「切らない手術」では抜糸の必要はありません。術後、数日間は激しい運動は避けること、飲酒もほどほどに留めてください。可能な方は、まぶたを軽く冷やすと腫れの引きは早くなります。施設によっても違いはありますが、翌日から外出やシャワー浴、コンタクトレンズの装用なども可能です。
編集部
保険適用や費用についても教えていただけますか?
松田先生
保険適用の可否はまぶたの状態や現在までの経緯、手術を受けられる方の希望などによって判断されます。術式の違いで決まる訳ではありません。見た目を特に重要視される方は自費診療を選択されるほうが良いこともあります。保険適用の場合の自己負担額(片側)は、1割負担の方で約8000円、3割負担の方で約2万5000円となります。その他にかかる費用などは施設によって異なりますので、治療予定の医療機関に確認してみてください。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあればお願いします。
松田先生
「眼瞼下垂」を治療された患者さんは、「空が見えて気持ちも前向きになった」「何年も悩まされていた肩こりが無くなった」などとおっしゃられます。眼瞼下垂に対する手術法は様々なものがありますが、良好な結果を得るための大事な点として、最適な方法はお一人ごとに異なるということです。画一的ではなく、どの手術が、どの医療機関で行われているのか、まだ分かりにくいと感じていますが、こういった医療情報サイトなどを活用し、情報収集していただくと、適切な治療が受けられる一助となるかと思います。
編集部まとめ
まぶたが下がる「眼瞼下垂」で、頭痛や肩こり、抑うつ状態まで引き起こすことを初めて知りました。適切に治療することで改善が期待できる「眼瞼下垂」、まずは、対応可能な医療機関に相談してみることをお勧めします。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |