【不妊治療体験】「悩んでいるのは自分だけじゃない」周りの支えがあったからこそ授かることができた
基本的に「不妊」とは、妊活を開始して1年経過しても妊娠できない場合に診断されます。また、不妊の診断に年齢は関係なく、若くても診断されることもあります。今回は、20代半ばで「原因不明不妊」と診断され、2回目の体外顕微授精で晴れて第一子を授かった「吉田さんご夫妻」に不妊治療から授かるまでの軌跡を振り返っていただきました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年7月取材。
体験者プロフィール:
吉田 里沙さん
北海道在住、1992年生まれ。現在は専業主婦。2019年3月に結婚式を挙げ、同年6月より自己流タイミング法を開始。8月から近所の産婦人科にてタイミング法を開始。10月より不妊専門クリニックにてホルモン剤使用のタイミング法を開始。自ら必要そうな項目をクリニックに調べてもらいAMH(抗ミュラーホルモン)の値が基準値より低いことが判明。のんびりしていられないと思い、人工授精を3回実施。翌年7月より体外顕微授精の実績がある病院に転院。2回の採卵を経て移植を開始。そして、2回目の移植にて子を授かった。
体験者プロフィール:
吉田 貴宣さん
北海道在住、1990年生まれ。職業は会社員。妊活という意識はせずに、妻と話し合いながら不妊治療を進めた。妊娠がわかるまではもちろん、妊娠が発覚してからもメンタル面で常に冷静にいるように努めた。出産時には立会いをおこない、念願だった生命の誕生を妻と分かち合う。
記事監修医師:
今村 英利(いずみホームケアクリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
妊活スタートから「原因不明不妊」の診断まで
編集部
妊娠を意識され始めたのはいつ頃ですか?
吉田 里沙さん
結婚してからです。2人で話し合いながら、子どものことを意識するようになりました。
編集部
妊活を始める前に、ブライダルチェックも受けられたんですね。
吉田 里沙さん
はい。ブライダルチェックは私だけ産婦人科で受けました。検査項目は、基本的な性感染症の検査や風疹の抗体検査などでした。また、風疹は妊娠中に感染するとおなかの赤ちゃんに感染して生まれつき難聴や視力の異常などを生じることがあるというので、妊娠前に抗体をつけておく必要があるとのことでした。私の場合、検査結果で風疹の抗体がなかったことを想定して、追加でワクチンを接種しておきました。
吉田 貴宣さん
私はブライダルチェックを受けなかったのですが、妊活に備えておたふくの予防接種を受けました。おたふくは、成人男性が感染すると、不妊の原因になることがあるようです。
編集部
ブライダルチェックの結果は、問題なかったのですか?
吉田 里沙さん
はい。とくに問題ありませんでした。妊娠に影響するような異常や病気も見つかりませんでした。
編集部
不妊が発覚したのは、妊活をスタートしてどのくらいだったのですか?
吉田 里沙さん
妊活をはじめてから1年経たずに病院を受診したところ、「原因不明不妊」と診断されました。当時、私は27歳、主人は29歳でした。「妊活をはじめて1年経っても妊娠できなかったら不妊と診断される」とよく聞くと思います。しかし、私の場合は早く赤ちゃんが欲しかったので、1年待たずに病院に行き、なかなか妊娠できないということを相談しました。その結果、妊娠に影響するような異常は見つからず、年齢も20代半ばくらいだったので、原因が特定できない「原因不明不妊」だと言われました。
吉田 貴宣さん
私も精液検査を受けましたが、同じく結果は正常でした。
編集部
原因が分からないと言われたとき、どんな心境でしたか?
吉田 里沙さん
原因が分かるのもつらいかもしれませんが、分からないことはなんとも言えないもどかしさを感じました。
吉田 貴宣さん
原因が分からないと言われたときは非常に不安でした。ただ、解決できるまでは、検査や治療を受けようとも思いました。
体外顕微授精にステップアップし、念願の第一子を授かる
編集部
実際の不妊治療は、どのような流れでおこなったのですか?
吉田 里沙さん
不妊と診断されるまでは、自己流でタイミング法をおこなっていました。しかし、なかなか上手くいかず、また、周りの人がどんどん妊娠しているのを見て焦ってしまい、病院を受診しました。それからは、医師の指導のもとタイミング法を始めました。それでも授かることができず、ホルモン剤の内服も併用しておこなうようになりました。しかし、良い結果が得られなかったため、人工授精にステップアップしました。人工授精は排卵のタイミングで受診する必要があるのですが、なかなか都合がつかなかったこともあり、タイミング法もおこないながら3回受けました。それでも授からなかったため、転院して体外顕微授精にステップアップしました。
編集部
転院したのには、何か理由があったのですか?
吉田 里沙さん
転院は2回おこないました。はじめに受診した病院はブライダルチェックをおこなった産婦人科だったのですが、そこは妊婦さんがたくさんいる病院でした。そこで治療を続けるのが精神的につらかったので、病院を変えようと思い、不妊治療専門の病院に転院しました。しかし、転院先で人工授精を3回受けても授かりませんでした。そして、家からは少し遠いですが、不妊治療の実績がある別の病院に転院しました。
編集部
2回の転院を経て、授かることができたのですね。
吉田 里沙さん
はい。体外顕微授精2回目の移植で妊娠できました。また、やるかどうか悩みましたが、市販の妊娠検査薬でフライング検査をおこないました。結果は陽性の反応だったので、病院で検査してもらい、正式に陽性の判定をいただきました。
編集部
さぞ嬉しかったことと思います……! 不妊治療中、大変だったことはありますか?
吉田 里沙さん
排卵誘発剤の自己注射による副作用がつらかったです。痛みというよりは、メンタルの不調が出てしまって……。1回でもつらかったのですが、私の場合は2回おこなったので精神的に滅入ってしまいました。
編集部
ご夫婦で大変な時期を乗り越えるため、配慮したことや工夫したことなどはありますか?
吉田 里沙さん
とにかくストレスを溜め込まないようにしました。これは性格によるものかもしれませんが、私は溜め込んでしまうとつらくなってしまうタイプなので……。体外顕微授精を受ける前、家族や友人に治療を受けることを打ち明け、たくさん話を聞いてもらうことができました。コロナ禍ということもあり、人と会う機会が少なかったため、2回目の移植から判定日までの日々、とくに家族や友人と電話で話をしたことはとても救いになりました。それに、話す機会が増えたことで、余計なことをあまり考えずに済んだように思います。1人でいる時間が長いと、ついマイナスな方向に考えていたかもしれませんが、そのようなことも減り、楽に過ごせました。私の場合はたくさん話すことが効果的でしたが、何か趣味などに没頭するのもおすすめだと思います。
吉田 貴宣さん
私はなるべく冷静でいるよう努めました。妻は治療中、感情の起伏が激しかった時期もありましたが、なるべく受け流すことで私まで感情的にならないよう気を付けました。
不妊治療を振り返って
編集部
不妊治療を振り返ってみて、率直な感想を聞かせてください。
吉田 里沙さん
不妊治療を受けたくて受けたわけではないですが、「こうして治療を受けてきたことでこの立場になれたのだ」と思っています。治療を受けなければ分からないこともたくさんありましたが、「今こうして子どもを授かることができて、本当にありがたいことだな」と実感できています。
吉田 貴宣さん
過去の自分たちからすれば、まさか不妊治療を受けるとは思ってもいなかったでしょうが、実際に不妊治療を受ける当事者になったことで視野が広がったように感じています。不妊治療を受けている人たちの中に自分たちも入り、不妊治療を受けている人や受けたことがある人の気持ちが分かるようになりました。
編集部
治療の前後でご夫婦の関係性などに変化はありましたか?
吉田 里沙さん
変化はとくに感じていないです。不妊治療を受けて妊娠すると、「男性側が親身になってくれたり優しくなってくれたりするのかな」なんて思っていたのですが、主人はもともと冷静かつ親身になってくれていたので、妊娠後も接し方は変わっていません。主人は不妊の検査や治療に関しても何の文句も言わず快く受けてくれたので、感謝しています。
吉田 貴宣さん
検査を嫌がる男性が多いと聞きますが、私の場合は妻の提案に快諾していました。
編集部
最近では不妊治療にも保険が適用されるようになりましたが、「もっとこうなったらいいのに」と思うことはありますか?
吉田 里沙さん
私が治療を受けたときは保険適用されてはいなかったものの、助成金がおりたので、その点はとても助かりました。ただ、体外顕微授精を2回受けましたが、助成金もなく3回、4回と受けていたら、大きな負担になっていたと思います。不妊治療は身体的・精神的・金銭的な負担が生じるので、1つでも軽減されればとても楽になると思います。私の知人でも、「保険が適用になったから不妊治療受けてみようかな」と話している人もいます。実際には、助成金がおりたり保険適用になっていたりしても、クリニックによって使用薬剤や金額が異なることがあるので、その点などがもっと改善されれば、不妊治療に踏み出せる人も増えるのではないかと思います。
吉田 貴宣さん
不妊治療では、結果が出るまで費用を出し続けることになるので、相当な金額になってしまうこともあると思います。そのため、夫の立場からしても不妊治療への金銭面がもっと改善されればいいなと思います。
編集部
ありがとうございました。現在不妊で悩んでいる人や、これから不妊治療を受ける人に向けて、メッセージをお願いします。
吉田 貴宣さん
男性目線では、妻を支えることが一番なので、そこに徹することが大切だと考えます。また、金銭面の配慮をするなら、「治療は何回まで」と事前に夫婦で話し合ったり家族に相談したりしておくといいかと思います。不妊治療は大変なこともたくさんあるかと思いますが、頑張ってください。
吉田 里沙さん
不妊と聞くと、何となく「年齢を重ねたら」と考えてしまいがちでしたが、年齢が若くても不妊になってしまうことはあるのだと実感しました。私の場合は20代で不妊と診断されて「私だけなんで……」と思い、つらい気持ちでした。しかし、色んな人に話を聞くようになってから、実際に多くの人が不妊で悩んでいるということを知りました。「自分だけじゃないんだ」と思うだけで、精神的にだいぶ楽になったことを覚えています。そのため、今では「不妊で悩んでいるのは自分だけじゃない」ということを多くの人に知ってもらいたくて、Instagramで情報発信を始めました。色々な人の悩みを聞いて「妊娠できました」と聞くと、自分のことのように嬉しく思います。今現在、不妊治療中でなかなか授からず悩んでいるという人も、「悩んでいるのは自分だけじゃない」ということを知っていただけたら、精神的に楽になるのではないかと思います。
編集部まとめ
不妊治療中は、いつ授かるのか分からないということからも、多くのストレスや負担が生じることが懸念されます。治療中、貴宣さんは里沙さんに寄り添い、また里沙さんは色々な人に話を聞いてもらえたことで、治療中のストレスに上手に配慮できていたようです。また、「不妊で悩んでいるのは自分だけじゃない」と知ることができたことも大きな救いだったと話してくれました。現在、不妊で悩んでいる人や不妊治療中でなかなか授からずつらさを感じている人も、「しんどいのは自分だけじゃないんだ」と捉えることで、精神的な苦痛を和らげることができるかもしれませんね。