【体験談】腎細胞がん手術は「心配ない」はずが… 意外な術後の痛みのワケ
医学の進歩により、早期発見や治療の方法が開発され、がんは「不治の病」ではなくなってきました。今回は、健康診断での便潜血から大腸に腫瘍が見つかり、腎臓がんの診断に至ったというDAIさん(仮称)に、これまでの話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
体験者プロフィール:
DAI(仮称)
1973年生まれ、鳥取県在住。2019年に大腸と腎臓に腫瘍が見つかり、短期決戦の闘病生活を経験。現在は体をいたわりながらも、好きだったバスケットボールは術後1か月で再開できるまでに回復している。
記事監修医師:
石川 智啓(名古屋大学医学部附属病院泌尿器科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
「おそらく初期のがんだろう」
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
DAIさん
令和元年6月に受けた健康診断で「便潜血あり」と言われたのが始まりです。かかりつけのクリニックを受診したところ、精密検査を勧められ、肛門科のある外科医院へ紹介されました。触診では異常がみられなかったのですが、念のため内視鏡検査をしたところ、大腸(上行結腸)に大きな腫瘍がみつかりました。その外科医院では対処できず、別の総合病院を再度受診することになりました。
編集部
「大きな腫瘍」ですか。それは怖いですね。
DAIさん
やがて、総合病院の消化器内科で血液検査とCT検査を受けたところ、大腸の腫瘍のほかに、腎臓にも影があると指摘され、そのまま泌尿器科も受診することになりました。泌尿器科を受診した際に、医師から「経過観察しないと最終的な判断はできないが、おそらく初期のがんだろう」と言われました。その日はそこまででしたが、更なる検査を重ねた結果、数週間後に最終的な確定診断が出ました。
編集部
診断結果はどのように?
DAIさん
大腸の腫瘍は、「上行結腸脂肪腫」という良性の腫瘍で、腎臓については「右腎腫瘍、腎がんの疑い」とのことでした。実際に細胞を採取してからでなければ確定できないため、診断名は「腎がんの疑い」となっていましたが、「がんであることは間違いない」と言われました。
編集部
そのときの心境について教えてください。
DAIさん
最初はもちろん驚きましたが、意外に冷静で、「さっさと取ってください」と医師に言っていました。その時、消化器内科の医師からは「大腸の腫瘍は大きいけれど良性なので心配はいらない」と、また泌尿器科の医師からは「腎臓の影はがんではあるけれど、まだ初期の初期だから経過をみながら治療を進めていきましょう」と、それぞれ説明がありました。こちらの「さっさと取ってください」という想いと比べると、動きがゆっくりな印象でした。
編集部
その後の治療はどのように進められましたか?
DAIさん
大腸の腫瘍は内視鏡手術、腎臓の腫瘍は小さいので系列の大学病院でダヴィンチというロボット手術で部分切除すると言われました。しかし、その年の11月に受けた大腸手術中、事前に言われていた内視鏡手術から外科手術に切り替わりました。腫瘍が大きすぎて、内視鏡では切除できず、腹腔鏡手術になったものの、それもダメで、最終的に開腹手術をしてようやく腫瘍を取り除くことができたそうです。当初3時間の予定が9時間もかかる手術となりました。
編集部
予定よりもかなり大変な手術となったのですね。
DAIさん
そしてその影響で、腎臓の手術にはダヴィンチが使えない、ということになり、令和2年1月に腎臓に関しても開腹手術を行うことになりました。腎臓の腫瘍は部分切除で取り除き、病理診断の結果、腎細胞がんと確定されました。
退院後、突然の猛烈な腹痛
編集部
闘病生活で大変だったことは?
DAIさん
腎臓がんの手術(部分切除)後、退院して1週間は患部の痛みに苦しみ、寝たきりでした。半年後、やっと痛みもなくなり普段の生活に戻っていたのですが、突然猛烈な腹痛に襲われて動けなくなったんです。しばらく我慢していたら痛みがおさまったことと、翌月に術後の検査で受診予定だったこともあり、すぐに病院に行くことはしませんでした。しかし翌月の検査で腎臓の横に大きな液溜りが見つかりました。腎臓の縫合時、腎臓内の尿の通り道の縫合が不十分だったようで、腎臓の縫い口から尿が漏れ出している状態であると言われました。少し前の猛烈な腹痛は、尿が漏れ出した時の痛みであったようでした。
編集部
どのように治療されたのですか?
DAIさん
急遽入院し、暫定で液溜まりに針を刺して液を抜きましたが、根本的な治療ではなかったので、管を留置して体に排液バッグをぶら下げながら生活することになりました。しばらく様子を見ようと言われましたが、排液バッグをぶら下げての生活がとても不便だったのでどうにかならないかと相談したところ、液漏れをしている部位を特定し、そこに流れる血管を詰める方法を提案され、腎臓の血管塞栓手術を受けることになりました。
編集部
以降、症状は落ち着きましたか?
DAIさん
液溜まりは消えてはいないのですが、小さくなってきています。来月検査がある(取材時)ので、どこまで小さくなっているのか確認してもらう予定です。あまり変わっていないようなら、再度針を刺して液を抜くかもしれないと言われています。
入院中に辛かったこと
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください
DAIさん
ちょっとした違和感でも医療機関に相談することを心掛けるようになり、「大丈夫だろう」と自己判断をしないようになりました。また、自分だけでなく周りの人にも検診や受診を勧めるようになりました。ほかにも私の病気や手術を知った昔の友人たちが全国から見舞いに来てくれて、それをきっかけに連絡をとりあう機会が増えましたし、疎遠になりつつある親戚にも連絡をとるようになりました。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
DAIさん
今回の病気の発見に直接繋がっていたかどうかは分かりませんが、体重や血圧など、自分自身の体の変化をもっと気にしておくべきだったと思います。普段から体の変化に目を向けていれば、もう少し早期に何かしらわかっていたかもしれません。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
DAIさん
大腸なのか腎臓なのかわからないですが、時々チクリと痛みが走ります。主治医にも相談済みで、腎臓の手術時に脇腹の神経を切っているせいで起こる痛みだそうです。生活は、腎臓に負担をかけないように水分を十分に摂取するようにしています。病気になる前から楽しんでいるバスケットボールは、術後1か月から再開することができました。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
DAIさん
入院生活で寝たきりの時期を過ぎ動けるようになった時には、外の空気が吸いたくなります。入院した総合病院は患者が屋上に行くことができず、外の空気を吸おうと玄関から出ても、病院の敷地内に落ち着く場所はありませんでした。落下防止の措置を考えた上で屋上の解放など、外の空気を吸うことをできる場所の設置を望みます。病室にいても、私のベッドは通路側で窓もなく、カーテンで仕切られていて閉塞感が強かったため、それが辛かったです。専門医の受診を勧めてくれたクリニックや触診だけでなく内視鏡検査を勧めてくれた外科医院のおかげで大腸と腎臓の腫瘍を発見することができました。診察や検査は時間やお金がかかりますが、選択肢を与えてくれたことに感謝しています。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
DAIさん
ほんの小さな違和感でも自己判断せず、何かの予兆かもしれないと考えて症状を記録し、面倒でもまずは医師に診てもらいましょう。もうひとつ、大病を患ってしまうと医療保険に入ることができなくなるか、保険料がかなり高額になってしまうので、安くはないですが医療保険には入っておくことをお勧めします。
編集部まとめ
健康診断の「便潜血あり」から、およそ半年の間に大腸、腎臓と2回も開腹手術をされたことに驚きました。それでも「良性の腫瘍」と「初期の小さながん」だったというのですから、もし発見が遅くなっていたら、もっと多くの手術や治療が必要になっていたのではないかと思うと、早期受診、早期発見の大切さを感じずにはいられません。