繰り返す胃の不調、もしかしたら「機能性ディスペプシア」かも!? 検査や治療方法、セルフチェックのやり方について解説
検査では異常が見当たらないにも関わらず、様々な腹部症状を生じることがある「機能性ディスペプシア」。あまり聞き慣れない病名ですが、悩んでいる人は意外と多くいるそうです。また、軽度の腹部症状で病院を受診していいものか疑問に感じている人もいるでしょう。そこで今回は、機能性ディスペプシアのセルフチェック方法や病院での検査方法、治療などについて、「おつじ内科クリニック」の尾辻先生にお話を伺いました。
監修医師:
尾辻 健太郎(おつじ内科クリニック)
機能性ディスペプシアとは
編集部
あまり聞き慣れませんが、機能性ディスペプシアとはどんな病気ですか?
尾辻先生
機能性ディスペプシアは、レントゲンなどの画像検査で明らかな原因となる異常がないにもかかわらず、慢性的なみぞおちの痛みや胃もたれなどの不快感(ディスペプシア症状)を呈する病気のことです。
編集部
機能性ディスペプシアと診断される患者さんは、どれくらいいるのでしょうか?
尾辻先生
患者さんの数は意外に多く、健康診断を受けた人のうち11~17%、腹部の不快症状で病院を受診した人のうち44~53%に診断されると言われており、じつは非常に身近な病気なのです。しかし、症状が強くならないと受診しない場合も多く、実際には機能性ディスペプシアで軽度の症状を感じているものの、受診に至っていない患者さんが一定数いらっしゃることも想定されます。
編集部
機能性ディスペプシアの原因は何ですか?
尾辻先生
機能性ディスペプシアの原因は複雑で、いくつも重なって発症することがあります。原因となるものには、胃や十二指腸になんらかの障害や知覚過敏などがある場合や精神的不安などがある場合があります。ほかにも遺伝的要因やサルモネラ感染症などの感染性胃腸炎、生活習慣の乱れ、瀑状胃(ばくじょうい)などの胃の形態、ピロリ菌感染などが挙げられます。
編集部
機能性ディスペプシアは治る病気なのでしょうか?
尾辻先生
最近では、機能性ディスペプシアに有効とされる内服薬が増え、症状の改善が期待できるようになりました。患者さん一人ひとりの症状に合わせて内服薬を組み合わせるなど調整することで、症状のコントロールを図ることが可能です。しかし一方で、機能性ディスペプシアは再発しやすい側面もあります。内服薬でいったん症状がよくなっても、再発してしまうこともあるのです。短期間の内服治療では症状をコントロールすることは難しく、ある程度の治療期間が必要です。
機能性ディスペプシアの検査方法
編集部
機能性ディスペプシアかどうかを自分でチェックする方法はありますか?
尾辻先生
機能性ディスペプシアかどうかをセルフチェックするために、「GSRS」「GOSスケール」「出雲スケール」「改訂Fスケール」などの問診票があり、ガイドラインでもその有用性が確認されています。インターネット上で公開されているものもありますので、腹部症状でお悩みの場合にはスケールを活用してセルフチェックをおこない、受診を検討してみるのも1つの方法と言えるでしょう。そのうえで、機能性ディスペプシアの可能性が高いと判定された場合、医療機関での検査をおすすめします
編集部
確定診断のためには、どのような検査がおこなわれるのでしょうか?
尾辻先生
まず問診をして、機能性ディスペプシアの兆候の有無を確認します。そのうえで、腹部症状の原因となる胃や大腸などの消化管以外に腫瘍などの病変がないかを確認するため、腹部の超音波検査をおこないます。病院によっては、CT検査などをすることもあるでしょう。超音波検査やCT検査などで目立った所見がなく、機能性ディスペプシアの可能性がある場合には、内服治療を先行し、経過に合わせて内視鏡検査をおこなうこともあります。しかし、ここで注意が必要なのが「警告症状」と呼ばれる症状をきたしている場合です。高齢の患者さんの場合や体重減少がある場合、嘔吐を繰り返している場合、吐血などがある場合、嚥下障害、腹部の腫瘤、発熱、食道がんや胃がんの家族歴がある場合などには、内服治療を先行する前に、早めに内視鏡検査をすることが推奨されています。
編集部
機能性ディスペプシアの診断で内視鏡検査をおこなうのはどうしてですか?
尾辻先生
胃がんとの鑑別やピロリ菌感染、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎がないかなどを確認するためです。
機能性ディスペプシアの治療法
編集部
検査の結果、機能性ディスペプシアと診断されたら、どのような治療をおこなうのでしょうか?
尾辻先生
症状に合わせた内服治療で進めていきます。具体的には、「消化管運動機能改善薬」や「胃酸分泌抑制薬」、「漢方薬」などを使用します。そのほか、患者さんのお話を十分に伺ったうえで、精神的ストレスなどが要因として考えられる場合には、二次治療として「抗不安薬」や「抗うつ薬」を使用することもあります。どの内服薬を使用するかは、患者さんの訴える症状に合わせて、いくつか組み合わせたり経過に合わせて使用する内服薬を変更したりして調整していきます。
編集部
治療のほかに、日常生活での注意点はありますか?
尾辻先生
規則正しい生活習慣を心がけることが重要です。機能性ディスペプシアに限らず、不規則な生活を送っていると様々な不調につながります。例えば、飲酒量が多い場合や食事内容が偏っている場合には、食欲不振や腹部の不快感などの原因になることがあります。さらに、夜遅い時間の飲食を避けるほか、十分な睡眠時間をとっていただくことも重要です。機能性ディスペプシアの患者さんは、これらの習慣を改善することによって症状が軽快する場合もあるのです。薬を内服するだけでなく、食事や睡眠などの生活習慣にも気をつけていただければと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
尾辻先生
機能性ディスペプシアは、まだあまり名の知れていない病気です。胃潰瘍などと比べて身近ではなさそうに感じられるかもしれませんが、じつはこの病気で悩んでいる患者さんは意外と多くいらっしゃいます。機能性ディスペプシアを発症すると、症状によっては生活の質が低下することも多く見受けられます。しかし、適切な内服治療をおこなえば、症状の改善や生活の質の向上も期待できるのです。ほかの病気との鑑別も必要なため、もともと胃が悪いなどと捉えず、気軽に消化器科で相談してみてください。
編集部まとめ
機能性ディスペプシアかどうかは、ガイドラインでも有用性が確認されている様々なセルフチェックを使用することでも把握できるとのことでした。しかし、確定診断のためには医療機関で検査を受けることが必須です。腹部症状が続いているという場合には、軽度であっても放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。
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