【眼科の定期検診】目の病気を予防するという考え方が、今後必要になるワケ
昨今、医療機関を「病気にかかってから治すところ」だけでなく、「病気にならないように通うところ」として活用する動きが広まってきました。そこで、「予防のための眼科検診」という切り口について、大川眼科の大川先生を取材してみました。どうやらキーワードは「寿命の身延」にありそうです。
監修医師:
大川 親宏(大川眼科)
人生100年時代を生き抜く
編集部
先生のご専門ではないですが、「歯の定期メンテナンス」が周知されてきている印象です。
大川先生
そうかもしれませんね。歯は削ったら元に戻らないので、「予防に努めて自分の歯を守っていこう」という機運が高まっているのかもしれません。国も、80歳になった段階で20本の歯を残そうという「8020運動」の周知に努めています。その一方、目の病気のなかにも、かかったら元に戻らない性質のものが多いですね。
編集部
わかりやすいのは、目のレンズが白く濁る白内障です。
大川先生
白内障には、人工レンズによる治療方法が確立されています。やはり怖いのは、視野欠損が起こりえる緑内障でしょうか。緑内障の症状は、1度出たら元に戻せません。早期発見によって、症状の拡大を防ぐしかないのです。なお、40歳以上における緑内障の発症率は、「約20人に1人」と言われています。
編集部
しかし、老眼も含めて「なんとかなってしまう」気がするのですが?
大川先生
そこが問題ですよね。日々の変化はわずかなので“慣れ”が生じます。その結果、治療により「快適な生活が送れていたはず」なのに、見えの悪さに甘んじてしまうのでしょう。そして、ある日突然、視野欠損が起きるかもしれないのです。今後、寿命が延びていくと、緑内障をはじめとした目の病気の発症率は増加するはずです。
編集部
「なんとかなってしまう」のは50代・60代の話で、そこから先に長い人生が待っていると?
大川先生
具体的な年代は個々によって違うにしても、「人生100年時代」を考えたとき、「100年間、見える目」を維持していかなくてはいけないということですよね。そして、「100年間、見える目」は、今までのヒトが想定していなかった領域です。医療によるカバーが必要でしょう。
見えの悪さは、ピントの取りづらさに限らない
編集部
そうなると、目にも「予防」という考えが必須になってきそうですね。
大川先生
ぜひ、目の定期検診を検討してみてください。ヒトが得る情報のうち、その8割は目から得ています。高齢になると運動器が衰えてきますから、それだけ「目の果たす役割」が重要になります。自宅での転倒による骨折などは、目がよく見えていれば防げていたかもしれません。
編集部
そういえば、「ロコモ」という標語がありました。
大川先生
はい。正式名称「ロコモティブシンドローム」は、運動・移動機能の低下した状態のことです。ロコモを防止するために、日頃からの運動の必要性が問われますよね。だとすれば、「見え」にも同じ事が言えるはずです。「見えの維持」はある意味で、将来の介護防止にもつながる観点だと考えています。
編集部
運転免許の更新も、視力が0.7以上出ていないとできなかったはずです。
大川先生
そうですね。一般に「目が悪くなったらメガネをかければいい」と思われていますが、メガネでは解決できない目の病気があります。例えば、白内障によるかすみや、緑内障による視野欠損です。単にピントが合わせづらいことと、「見る機能そのものが低下している」ことは、分けて考える必要があるでしょう。
編集部
「見え」と認知症の関連も聞いたことがあります。
大川先生
白内障と認知症の関連性を調べた調査については、筑波大学と奈良県立医科大学の研究が有名です。「白内障手術は認知症の予防策を兼ねる」と言っていいでしょう。モノがくっきり見えるほど、脳にたくさんの情報が届けられるからです。
症状がなくても、「1年に1回」受診
編集部
具体的なケースを聞いているうち、目の定期検診について、少し前向きになってきました。
大川先生
目の定期検診の頻度は「1年に1回」で十分です。歯科のメンテナンスほど頻回にする必要はありません。ただし、それだけに“忘れやすい”傾向もあるでしょう。ちなみに、「10」という数字を横にすると「まゆげと目の形」になることから、国は10月10日を「目の愛護デー」と定めています。または、ご自身の誕生日や、毎年の花粉症対策と合わせて検診を組み込んでもいいと思います。
編集部
ところで、自覚症状のない段階で受診すると、自費扱いにならないのですか?
大川先生
「自覚がない」ことと、「見えの状態に全く問題がない」ことは異なると思います。見えの不具合に対する“慣れ”があるからです。それこそが、眼科検診の目的といってもいいのではないでしょうか。「気づかないうちに失われているものがある」ということにご留意いただきたいです。
編集部
ちなみに、目の定期検診はどれくらいの時間をみておけばいいですか?
大川先生
特殊な検査を要しなければ、「20~30分」といったところでしょうか。検査項目として一般的なのは、視力測定、眼圧、目の状態を医師が見る診察などです。そして、最も力点を置いているのが緑内障の早期発見ですね。ほか、加齢黄斑変性など、年齢に応じて頻度の高い病気の有無を調べます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。
大川先生
「目の治療や予防を怠っていたから、要介護や認知症になった」と言うつもりはありません。そうではなく、一般的に生活の質を上げるのが、「見えの維持」だと考えます。視力が悪くなったら、原則として元には戻せません。視力が悪くなる素因を、病気と生活習慣の双方で、定期的に洗いだしてみましょう。
編集部まとめ
「見え」を維持しなくてはいけない期間は、かつてより、「50年間追加された」と考えていいでしょう。しかも、目の病気の多くは進行していき、元に戻りません。だとすれば、下り坂をいち早く平坦化する必要があるでしょう。そのきっかけが、眼科検診です。視力という財産を、知らないうちに減らしてはいませんか。その可能性だけでも知っておきましょう。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |