アルコール依存症の治療法を解説「孤独にならないことが治療継続のカギ」
20歳を超えた人の飲酒は合法です。しかし、やめたくてもやめられない依存症が存在する点では、麻薬や覚醒剤と同列でしょう。つまり、依存症としての専門的な治療が存在するということです。今回は、そのアルコール依存症について「塩釜口こころクリニック」の河合先生を取材しました。
監修医師:
河合 佐和(塩釜口こころクリニック)
「アルコール依存症」の判断基準
編集部
「アルコール依存症」は、単にお酒をやめられない病態なのでしょうか?
河合先生
お酒をやめられないことに加えて、“社会機能”にどれだけ影響が生じているかを診ていきます。例えば、「遅刻しないで出社できるけど、周囲が気づくほどの酒の臭いが残った状態で出社している」ようなケースですね。そのことを上司から指摘されても繰り返すようなら、治療介入が必要になってきます。
編集部
よく散見するのが「チェックシート」ですが、○項目以下であれば「アルコール依存症ではない」と言いきれますか?
河合先生
言いきれません。たった1項目だけでも「セーフ」とは捉えないでいただきたいですね。該当する項目が多ければ多いほど「依存症の疑いが濃い」のであって、濃淡で捉えてください。また、「自分では迷惑をかけていないと思うこと」と「実際にご家族や周囲が感じている困りごと」は、それぞれ違うかもしれません。つまり、自分を客観視できているかどうかも問われます。
編集部
具体的な弊害はなく、もっぱら健康のために「お酒を断ちたい」という人もいるはずですが?
河合先生
健康目的であっても、飲酒欲求が抑えられない場合は、アルコール依存症と診断される可能性があります。例えばですが、年に1カ月くらい「禁酒期間」を設けてみて、自己テストするのも方法でしょう。もし禁酒期間を守れなければ、「アルコール依存症」予備軍かもしれません。このとき、ご本人の自覚があれば、保険診療の対象になります。ご家族のみの相談受診の場合、自費診療になる可能性があると思いますので、事前に確認しておきましょう。
編集部
「寝酒」が習慣化している場合はどうでしょうか?
河合先生
深酒で眠ったとしても脳は休まっておらず、ずっと徹夜しているような状態です。もし、寝るために飲酒をおこなっているのであれば、適切な睡眠薬を専門医に処方してもらった睡眠の方がよほど健康的ですね。「飲まないと眠れない」としたら、依存症かもしれませんので気をつけてください。
アルコール依存症の治療法
編集部
続けてアルコール依存症の治療方法についてです。どのように進めていくのでしょうか?
河合先生
大前提として、アルコール依存症を扱える医療機関の数は少ないのが現状です。そのうえで、薬物やギャンブルと同じく「心の治療」が必要になります。なお、「意志の弱い人がアルコール依存症になる」わけではありません。本人の意思に関係なくお酒を欲するような状態になってしまうのがアルコール依存症なのです。まずは、このメカニズムを自分で知ることが大切だと思います。
編集部
薬物と同じような「依存」を自覚したうえで断酒に臨むということですか?
河合先生
そうなのですが、断酒の一歩手前の「節酒」というステップを設けている医療機関や自助グループなども増えてきました。いきなり「断酒」から入ると、患者さんが治療を断念してしまうからです。アルコール依存症の患者さんで医療機関を受診する人は、全体の約4%と言われています。とにかく、はじめること、そして続けていただくことが重要ですね。
編集部
受診の垣根を低くしているわけですね?
河合先生
はい。そして、「お酒に頼る原因」を見定めていきます。その多くは、ストレスの緩和でしょう。例えば、仕事の対人関係のストレスを家庭での飲酒でなだめているようなケースです。なお、「他者に頼れない性格の人」ほど、自分でなんとかしようとします。その現れが飲酒ですね。「酒に逃げる弱い人」と捉えるのではなく「お酒のおかげで、生きてこられた人」と治療者は考えています。
編集部
だとすると、お酒以外の「心の拠り所」を見つけることが治療につながるということですか?
河合先生
そうですね。その場合でも、「お酒以外の心の拠り所」を見つけることが肝要でしょう。
編集部
すでにお酒が原因の病気が進行している場合は、その治療もしていくわけですよね?
河合先生
はい。例えば「肝硬変」が認められて、ウイルスなどの他因ではなく純粋に「お酒のせい」だとしたら、肝臓の治療を優先する場合もあります。もちろん、その場合は禁酒が大前提です。長年の飲酒によって肝硬変の状態にまで悪化すると、様々な合併症が発症します。ですから、それ以上の進行を防ぐ意味でも、お酒は断っていただきます。
アルコール依存症にならないためには
編集部
具体的な治療の方法についても教えてください。
河合先生
一例として「自助グループや集団精神療法」があり、医療機関でおこなう場合は保険診療の対象になっています。もっとも、医療機関の垣根が高く、民間のNPO法人などで「グループミーティング」に所属して、断酒を頑張っている人々もいらっしゃいます。「他者に頼れない性格の人が、1人で閉じこもって黙々とお酒を飲む」。この典型的な図式を打破していきます。
編集部
集団療法というと、「ダメな自分の告白会」のようなイメージがありますが?
河合先生
必ずしもそうではありません。例えば「来週のミーティングまでに2日間の“休肝日”を設ける」と宣言していただいて、達成したら褒めて「成功体験」にするようなプロセスもあります。ちなみに、治療期間はずっと続きます。依存症は「一生、回復を重ね続ける」病気です。
編集部
通院、あるいは通所を続けるモチベーションが求められそうですね。
河合先生
日々の生活の中に治療を組み込むイメージですね。一般の人がランニングなどの健康習慣を日々の中に取り入れることと同様です。ちなみに、治療からの離脱は残念ながら多々、起こり得ます。治療継続するかしないかは、ご家族などの支えとなる存在の有無が大きく、「孤独」に生きる人にとっては治療継続がとても難しいと感じます。自助グループの目的と重なる部分ですが、仲間を作ってお互いに手を取り合い、お互いの断酒をサポートしていくことが大切です。
編集部
最後に、アルコール依存症に陥らない方法はありますか?
河合先生
ベースにあるのは「生きづらさ」なのでしょう。そのつらさを「他者に頼って解決してもいい」ということなんですよね。他者に頼る力のある人は、精神疾患全般のリスクも低いと思います。他方で、他者に対して心を開くことができないと孤独に陥ります。自他共に欠点や魅力を認め合うことが、アルコール依存症の予防方法かもしれません。このとき、欠点も見方によっては「長所」であるように、視点を切り替えてみましょう。誰も完璧な人間はいません。人それぞれ弱さや未熟な部分があっても、それを互いに認め合い、助け合い、人と人が心でつながることが生きる力となります。そして、これまで酒の力で生きてこられた人たちの新たな生きる支えとなるでしょう。
編集部まとめ
他者に頼れないから、孤独になって飲酒へと走る。どうやら、このパターンが「アルコール依存症」の典型であるようです。そして治療の核にあるのは、単にアルコールの制限というより、「自他の是認」を軸にした“ココロ”の在り方なのでした。これは、アルコールに限らず、依存症全般に共通して言えることです。
医院情報
所在地 | 〒468-0073 愛知県名古屋市天白区塩釜口1-851 ドミール八事1階 |
アクセス | 地下鉄鶴舞線「塩釜口駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 心療内科、精神科 |