お酒を飲まないと手が震えるってアルコール依存症なの?
「一杯入れると、腕先がビシっと締まる」。見方によってはプロフェッショナル的な印象を受けるものの、あまり好ましい姿ともいえないでしょう。手の震えとアルコールの関係に加え、どうなったら「依存症」といえるのかを、「ライトメンタルクリニック」の清水先生に伺いました。
監修医師:
清水 聖童(ライトメンタルクリニック 院長)
富山大学医学部卒業。国立精神・神経医療研究センター病院や都内の精神科・心療内科クリニック勤務後の2020年、東京都新宿区に「ライトメンタルクリニック」開院。「精神医療をもっと身近に」をモットーに掲げている。日本精神神経学会精神科専門医、精神保健指定医の資格を有する。
手の震えだけでは、依存症の診断基準を満たさない
編集部
手の震えとアルコール依存症って関係しているのでしょうか?
清水先生
「お酒をのむと手の震えが止まる人」は、アルコールによりリラックス作用が生じていると考えられます。昨今、チョコレートなどの一部に、「GABA(ギャバ)」という文字が使われていますよね。脳内にあるGABA受容体がアルコールと結びつくことで、リラックスや催眠効果を生むとされています。
編集部
手の震えを止めようと思って、アルコールに頼るようになると依存症ですか?
清水先生
お酒が抜けることでリラックスしなくなり、緊張状態に陥って手の震えを起こすことは考えられます。そこで問われるのが、元々の震えはどうして起こるのかです。手の震えの原因は多岐にわたるため、本当にアルコールが原因であるかどうかを、「医師の診察」によって明確にしておきたいですね。
編集部
具体的な「医師の診察」とは?
清水先生
アルコール依存症の診断基準は6つあり、このうち3つ以上を満たすと正式にアルコール依存症と診断されます。その6つとは、①飲酒への渇望、②飲酒量の制御困難、③離脱症状の証拠、④アルコールへの耐性、⑤飲酒中心の生活、⑥有害な結果になってもやめられない飲酒、の各所見です。「お酒をのむと手が震える」だけでは、正式な診断がつきません。
編集部
アルコール依存症は、アルコール中毒とは違うのですよね?
清水先生
急性アルコール中毒は、お酒を飲んだことによる症状で、吐き気や意識障害などを伴います。これはアルコール依存症とは全く異なる症状です。
元々の震えはどうして起こるのか
編集部
そうなると気になるのが、手の震えの原因は何でしょうか?
清水先生
最も多いのは「生理的な震えの増強」でしょう。これは、疲労やカフェインの摂りすぎ、不安、ストレスなどで生じます。続いて高頻度なのが「一定の姿勢を保つときに起きる震え」です。例えば、背伸びしたり、物を取ろうと手を伸ばしたりするときにみられます。その原因として、お薬や代謝の影響などが考えられる一方、“病的”ではない震えも含まれます。
編集部
病的な震えもあるのですよね?
清水先生
なにもしていないときに生じる震えの代表が、パーキンソン病に伴う症状です。また、湯飲みを口元にもっていくなど、なにかしようとするときに起きる震えは、小脳の病気や血管障害、腫瘍などの患者さんに多いですね。
編集部
加えて、アルコール依存症として手が震える場合もあると?
清水先生
そうですね。ただし、繰り返しになりますが、飲酒量がどんどん増えていくとか、肝障害などの有害事象が増えていてもやめられないというほどでないと、依存症とはいえません。他方で、「依存症ではないから毎日のんでもいいのだ」という考えは危険です。依存症は急になるのではなく、次第に進行していきます。
編集部
病的ではない手の震えなら、放っておいていいのでしょうか?
清水先生
本当に「病的といえないのか」に尽きますね。調べておいて損はないと思いますし、生活のしづらさを伴うようなら、遠慮なくご相談ください。今では、効果的なお薬も出ています。
震えとお酒との、上手な付き合い方
編集部
手の震えに効果的な薬があるとのことでしたよね?
清水先生
手の震えが病的なものでなければ、投薬治療は推奨しません。ただし、手が震えて生活に困るほど重症な方は、α、β遮断薬である「アロチノール」が保険適用となります。それでも効果が不十分な方には、β遮断薬である「インデラル」、抗てんかん薬である「プリミドン」などが使われます。
編集部
病的な震えの治療方法はどうでしょうか?
清水先生
パーキンソン病による震えの場合、治療の基本は、抗パーキンソン病薬になります。お酒で先送りすることに意味はありません。難治例に関しては、手術療法である脳深部刺激療法(DBS)も適応になります。バセドウ病でも、薬物療法と手術療法により治療できます。薬剤や生活習慣、他の内科的疾患が影響している場合は、内科疾患のコントロール、薬剤の減量、生活指導などがおこなわれます。
編集部
脳の病気ということは考えられませんか?
清水先生
先述のとおり、小脳の病気や、大脳皮質の運動野の脳梗塞、動脈瘤による神経の圧迫などがあると、なんらかの運動障害となって表れるでしょう。最悪の場合、命を失うリスクも考えられます。なおのこと、早期受診が望まれますよね。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
清水先生
私はお酒を抑制するようにお話する“立場”です。しかし私もお酒は好きですし、うまく付き合いさえすれば、それほど悪いものではないと思っています。ここで重要なことは、アルコールにコントロールされず、コントロールするものだという視点です。アルコールを道具として使いこなすことができれば、対人関係の潤滑油として役立ちますし、うつ病や動脈硬化の予防すら不可能ではありません。
編集部まとめ
手の震えとアルコールには関連性が認められるものの、手の震えだけをもってアルコール依存症とは決めつけられないようです。それより、お酒をやめようとしてもやめられなかった場合が要注意なのでしょう。試しに、1週間前後の禁酒宣言をしてみてはいかがでしょうか。もしお酒にコントロールされているようだったら、受診を検討してみてください。
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診療科目 | 精神科、心療内科 |