白内障は進行度合いによって手術リスクが変わるの?
監修医師:
和田 佳一郎(和田眼科 院長)
奈良県立医科大学卒業。2005年、兵庫県西宮市に「和田眼科」開院。以来、白内障手術6000件以上、多焦点眼内レンズ700件以上、ICL・網膜硝子体手術など総数約7000件以上の日帰り内眼手術実績を誇る。日本眼科学会認定眼科専門医、ICL研究会ICL認定医。日本眼科医会、日本眼科手術学会、日本白内障屈折矯正手術学会、日本糖尿病眼学会、日本緑内障学会の各会員。
白内障を放置することによる悪影響
編集部
白内障手術は、水晶体の濁り具合によってリスクが変わるのでしょうか?
和田先生
はい。白内障が進行すると、目のレンズに該当する水晶体は、白い濁りが進むとともに硬化していきます。水晶体が柔らかければ手術時にそのまま吸い取れますが、硬いと砕かなくてはいけません。そして、砕くときの振動が目の組織に悪影響を与えるかもしれないのです。加えて、濁りの部分が濃くて多いほど、手術による負担や手術時間を要しますので、白内障が進行すればするほど手術時のリスクは高くなります。
編集部
濁りの症状以外に“悪くなっている”ところはありますか?
和田先生
見えづらさなど目の症状を放置していたため、そこからくる仕事や日常生活への悪影響が大きいですね。転倒して骨折してしまうケースは意外に多いのです。ほかには、「手術による合併症」が懸念されます。わかりやすい例としては、手術による術後炎症ですね。白内障がかなり進行して、核硬度が進んだりチン小帯という支えが弱くなっていたりすると、手術がやや複雑になり炎症リスクも若干ですが増加します。加えて、合併症ではなく、全く別の病気を併発している可能性もあります。
編集部
全く別の病気は、白内障の手術リスクと言えなさそうですが?
和田先生
ところが、手術によって“見えてしまう”ことで気づく病気もあるのです。一例を挙げるとすれば、目の中にゴミが漂っているように見える「飛蚊症」ですね。手術前の水晶体は濁っているので、気づかないことがあります。飛蚊症は網膜剥離や硝子体出血など重篤な目の病気を知らせるサインでもありますから、こうしたサインが白内障の放置によって隠れてしまうと、別途、手術リスクを押し上げてしまいます。
編集部
もし、白内障と他の病気が同じような時期に発症していたら?
和田先生
目の状態にもよりますが、その場合は白内障とほかの眼疾患の同時手術をおこなう場合があります。総じて、白内障を放置しているとほかの病気も生じる可能性があり、手術リスク全体が高まってしまうということです。また、水晶体が変質する病気は、白内障だけではありません。例えば「水晶体融解性ぶどう膜炎」という病気は、変質して溶け出した水晶体が起こした目の炎症です。これらの病気を早期発見・早期治療するためにも、40歳を過ぎたら定期的に目のチェックをすることをおすすめします。
老眼のはじまりが白内障チェックのタイミング
編集部
放置に関連して、白内障手術の年齢上限はあるのでしょうか?
和田先生
きちんと術前後の通院と目薬が出来れば、基本的には医学的な年齢上限は「ない」とされています。また、白内障手術を受けてクリアな視界を取り戻すことが、認知症予防につながるという研究もあるようです。問題は、ご自身で白内障になかなか気づきにくいことだと思います。
編集部
白内障の好発時期には、老眼も絡んできますよね? 余計に年齢のせいだと思ってしまいそうです。
和田先生
そのとおりです。生活に具体的な支障が出るのを待つより、初期の老眼と同時に解決した方が好ましいと思います。つまり、老眼で悩みはじめたら、白内障の検査を受けてみましょうということです。
編集部
白内障が初期なら、目薬で進行を抑えられると聞いたことがあります。
和田先生
白内障の進行を“遅らせる”ことはできるとされているものの、進行自体を止めることはできませんから、最終的には「手術のみが唯一の解決策」という印象です。白内障手術は基本的に一度きりのものですから、見えづらさを抱えて仕事や日常生活を送るよりも、適切なタイミングで手術を受けることを検討してみてはいかがでしょうか。
病気の治療と捉えず、よりよい生活のために
編集部
白内障手術で気になるのが、人工レンズの焦点距離です。
和田先生
はい。単焦点眼内レンズや多焦点眼内レンズは日々研究され、高機能になってきています。白内障手術後のライフスタイルを見据えた眼内レンズの選択肢も増えてきました。手術を検討されている人が気になるのが「手術後の見え方のギャップ」ではないでしょうか。“いい意味でのギャップ”としては、手術をした結果「いかに家の中が散らかっていたかがわかった」「空がこんなに青いとは知らなかった」と感想を述べる患者さんもいらっしゃいます。また、「こんなことなら、もっと早く手術を受けておけばよかった」とのお声をいただくことも珍しくありません。
編集部
見え方のギャップと「放置や重篤化」に関連性はありますか?
和田先生
難しいですね。しかし、職業や趣味などによっては、「ものすごくやりやすくなった」というだけでなく、「今まで慣れ親しんできた見え方と違って戸惑う」ケースもあるのではないでしょうか。一時的にせよ、新しい見え方に慣れるまでの時間が必要です。とくに運転にはご注意ください。
編集部
つまり、ギャップが少ないうちに手術しておけば「戸惑い」も減るということですか?
和田先生
「戸惑いの解消」を白内障手術の勧奨理由にしたくはないですが、そういった面もあると思います。また、日常生活の不便さが積み重なっていく前に手術しておけば、「生活の質」はもちろん、「見え方の質」も担保できます。やはり、老眼の出はじめと前後して、白内障の進行度合いを調べてみてはいかがでしょうか。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
和田先生
個人差はありますが、白内障は加齢に伴い、ほとんどの人が罹患する目の病気です。にもかかわらず、進行がゆっくりしているため見え方の変化に慣れてしまい、「歳を取ってきたから仕方がない」と思い込み、治療が遅れがちになる病気でもあります。それだけに、ご自身の主観を挟まず、客観的な検査で調べてみましょう。老眼鏡をつくる際の眼鏡店の検査では、白内障が見逃されてしまうかもしれません。その前に、眼科へご相談ください。
編集部まとめ
「水晶体の変質度合い」、「手術をしたことによる合併症」、「隠れていた別の病気」の3点のリスクが、白内障の放置によって増してしまうということでした。なお、「どれくらい」高まるかには個人差があります。もちろん、白内障の治療だけで完結する場合もあります。したがって、個々の手術リスクを自分で把握することが大切であり、そのきっかけは「老眼のはじまり」になりそうです。老眼が気になってきたら、一度眼科できちんとした検査を受けることをおすすめします。
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