【闘病】いつも食べていたものが食べられなくなった《クローン病》
闘病者の亜理沙さん(仮称)は、クローン病と診断され、絶食などの時期を経て、今は体調を予測し、身体と相談しながらある程度食べたいものを食べられるまでに回復しました。そこで、難病であるクローン病が発症してから現在までの様子などについて、話を聞かせてもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年11月取材。
体験者プロフィール:
亜理沙さん(仮称)
1985年生まれ、北海道在住。2007年ごろから頻繁にお腹を下し、胃腸炎と診断され整腸剤を服用。その後発熱し、解熱しなかったため現在も通院する医療機関へ受診したところ入院することに。採血、レントゲン、エコー、大腸カメラ、小腸造影などの検査の結果、クローン病と診断を受ける。現在は半年おきのバルーン拡張術、投薬で治療を続ける。2017年には転職をし、6時間勤務のパート社員として働く。
記事監修医師:
今村 英利(いずみホームケアクリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
「死ぬ病気ではない」が食事制限が必要に
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
亜理沙さん
もともと、よく胃腸炎を起こすほうではあったのですが、当時(2007年ごろ)、アルバイトをしながらお昼ご飯はほぼファストフード、夜は寝る前にチョコレートをひとかけら食べるという生活をしていた時期がありました。その半年ほどで体重が10kg減少。やがて就職をし、そのタイミングで胃腸炎のような症状が出たんです。そのときは熱が40度近くまで上がり、3日ほど下がりませんでした。
編集部
それを受けて病院を受診するのですか?
亜理沙さん
はい。かかりつけ医を受診したところ別の病院の受診を勧められ、紹介状を書いてもらい、現在お世話になっている病院Aを訪ねました。病院Aで採血をした結果、そのまま入院することになりましたね。そこから1か月近く入院し、絶食や上部・下部内視鏡検査など、いろいろな検査を受けた結果、クローン病が確定しました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
亜理沙さん
食事制限と薬での治療です。脂質や繊維質が多いもの、また刺激物は控えるようにと忠告されました。NG食と言われる食べものが書いてある冊子のようなものをもらいましたね。
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
亜理沙さん
死ぬ病気ではないと言われたこと、食事制限しなければいけない、という現実を突きつけられたことしか覚えていないですね。ショックや、どうしようという不安は、むしろしばらく経ってから実感した気がします。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
亜理沙さん
スーパーやコンビニで、つい1か月前までは普通に買って食べられていたものが、すべて食べられなくなり、裏の成分表を見るようになりました。しばらくは、コンビニなどのお菓子コーナーはいけなかったですね。なるべくお腹に優しいもの、NG食ではないものを食べるようにしています。外食は、メニューが多いファミレスや、パスタ・和食・回転寿司など、自分が食べられるものがあるお店しか選ばなくなりました。調子が悪いときは、生野菜でも食べると下してしまうので、温野菜にしたり、カップ麺もノンフライ麺のものや春雨スープなどに変更したりしました。また牛乳も脂質の関係上、念のため低脂肪乳に変更しました。
「きちんと病気と向き合いなさい」と励まされた
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
亜理沙さん
看護師さんや病院の入院仲間ですね。入院した消化器内科の患者さんには、ご年配の方が多いのですが、そんな中に、22歳の若い子がご飯も食べられない状態で1か月もいるものだから、ちやほやされたのは今でも覚えています。若いのに大変だねとか、仲良くなったおじさんが毎回食べられないって言っているのに「アイス食べるか?」とか声をかけてくれました(笑)。
編集部
就職して、すぐに病気が判明したとのことですが。
亜理沙さん
そうなんです。就職したばかり、1週間出勤しただけで長期入院となったにもかかわらず、当時の職場の人たちが心配してくれたのも、ありがたい良い思い出です。会社の人から、寄せ書きのTシャツをもらいましたね。会社の社長や専務には、良くしてもらい、正社員としてそのまま雇用してもらえました。
編集部
就職先での出会いに励まされたのですね。
亜理沙さん
はい。途中、病気だからと甘えて会社に行けなくなった時期や、不眠になり精神的にも疲弊して迷惑をかけていた時期もあったのですが、そんなときに「きちんと病気と向き合いなさい」と言ってくれたのが、その会社の専務でした。「逃げるな、ちゃんと向き合え。病気を理由に会社へ来ないのは、甘えているからでしょ?」と当時の私はまさにその通りだったので、しっかり怒ってくれた専務には今でも感謝しています。その会社は結局、辞めることになりましたが、なんだかんだ腐らずにやっていけているのは、やっぱりはっきり叱ってくれた専務のおかげだと今でも思っています。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
亜理沙さん
「なかなか病気を受け入れられないし、受け入れられていないっていう自覚もないと思うけど、意外となんとかなるし、食べたいものも食べられるし、仕事もなんとかなっているから大丈夫だよ」ですね。
自分の調子を見ながら食事に気をつけています
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
亜理沙さん
現在は薬での治療と、回盲部(右わき腹のあたり。小腸と大腸のつなぎ目)に狭窄があるため、定期的なバルーン拡張術(風船によって狭窄部を広げる治療法)をしています。食事も朝は食べないで、昼と夜に固形物。間食した方がいいと栄養士さんに言われたので、職場でエンシュア、ラコール(ともに半消化態栄養剤)を飲むといった生活です。自業自得ですが、調子に乗って完全にダメなものを食べた日は、お腹が張ったり、翌日にお腹を下したりする日もあります。その際は、経鼻経腸栄養でエレンタールを夜寝る前から朝にかけて注入したり、固形物を食べるのを辞めて、エンシュアやラコールのみの生活に切り替えたりしています。
編集部
食事で気をつけていることはありますか?
亜理沙さん
クローン病になってから、食事は継続的に注意しています。脂身の少ないお肉はOKなので、牛肉も普通に食べられます。一般的に便秘に良いとされるものは、すべてNGだと考えています。あとは、刺激物とよばれる辛いものや、柑橘系の果物も酸が刺激となるので食べられません。調子が悪いときは、固形物を入れるとその分腸が働いてしまうので、なるべく腸が動かないようにお粥やうどん、そうめんなどの消化に優しいものを食べるようにしています。お腹の調子も、ある程度年月が経つと、張っているな、なんか調子が悪いなというのがわかるようになるので、自分の体調を見ながら、食べるものに気をつけるという生活をしています。
編集部
あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。
亜理沙さん
クローン病という病名自体を聞いたことがない人も多いでしょうし、名前だけだとどんな病気なのか想像もつかないと思います。クローン病は症状が出ても、お腹が痛いという表現しかできないことが多いです。また、人によって全然症状が違いますし、「お腹が痛いだけでしょ?」と思われることが非常に多いですが、冷や汗が出るほどの痛みだったり、トイレから出られなくなるなど、生活に支障をきたりすることもしばしばあります。こういう病気があることを理解してもらいたいなと、よく思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
亜理沙さん
病気について知ると食事制限があるから、周囲の人は「気軽にご飯に誘えない」と気を遣うと思います。これはその人の性格にもよりますけど、私は誘われると嬉しいです。目の前でステーキを食べられても平気ですし、なんなら「一口ちょうだい」というタイプです(笑)。もし自分が食べられないものを目の前で食べられても、本人はそこまで気にしていないという人も多いのではないかと思うのですよね。一口食べたところですぐにお腹が痛くなるというわけでも、急激に悪化するという病気でもないので、あまり神経質にならないでほしいですね。
編集部まとめ
クローン病になった当時は、食べたいものが食べられないことや、仕事も休みがちになってしまうなどした亜理沙さん。取材後、現在では、ご自身の体調もある程度予測しながら、「食べたいものを食べる不良患者です!」と明るく語ってくださりました。病気と戦うことも大切ですが、病気と寄り添うことも重要であることを学べたインタビューでした。