~実録・闘病体験~ ダンスパートナーが人生のパートナーと最大の理解者に《全身性エリテマトーデス》
諦めていた出産も経験し、今は仕事も自分らしい形でできている響子さん(仮称)は、全身性エリテマトーデス(SLE)を患い、病気と向き合いながら、不安な時期を乗り越えて現在に至ります。難病を抱えていることが発覚した大学時代から現在までの、治療や生活状況などについて、話を聞かせてもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年10月取材。
体験者プロフィール:
響子さん(仮称)
東京都在住、1988年生まれ、現在は元気な娘と旦那の3人暮らし。2009年に全身性エリテマトーデス(SLE)の症状のひとつ「レイノー症状」を発症。血液検査の結果や全身の関節痛、倦怠感などの症状を踏まえ「SLE」と診断される。ステロイドを服用しながら大学、社会人生活を送る。2014年結婚、出産。産後、病状が悪化。ステロイドパルス治療のため2ヶ月の長期入院を経験。現在の体調は良好で第二子出産に向け妊活中。ママの場づくりとして遊び教室や子連れヨガを主催している。SLEの方向けのオンラインヨガも不定期に開催しているほか、自宅でオンライン取材のライターとしても活動。
Instagram :@hibiki_88
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
競技ダンス部生活で感じた異変
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
響子さん
大学時代、男性とペアで踊る「競技ダンス部」に所属していました。異変を感じたのは、合宿の後でした。薬指の先が白くなり、こわばる感覚がありました。その後も寒い日や、試合前など、緊張やストレスが多いと同じ症状が出ていましたね。
編集部
そこから具体的に、どのように判明していくのですか?
響子さん
遠方に住む父と母に白くなった指先の写真を送りました。父は、薬学部卒で当時、製薬会社に勤めており、母は看護師だったこともあって、すぐに「レイノー症状」ではないかと指摘されました。父母が大きな病院の受診を勧めてくれたので、その病院に掛かり、早期に見つけられました。両親の存在はありがたかったです。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
響子さん
「ステロイドが一般的な治療法です。ただ一度服用しはじめると、ずっと服用し続けなければならない可能性があります」と医師からは伝えられました。
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
響子さん
ショックでしたね。わりと健康には気を遣う方だったので、まさか自分が病気になるなんて……。初めて耳にする病気だったので、ネットでたくさん検索しました。すると「妊娠、出産はリスクが大きい」といった言葉がよく目につきました。大学の専攻が女性学や家族論などということもあり、人より子どもに興味が強かった分、将来子どもを授かれないかもしれない不安は、大きなストレスでした。遠方の母との電話や、受診の医師の前ではよくポロポロと泣いていましたね。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
響子さん
ダンスの大会では、出場直前に緊張で手が白くなりこわばることが多かったです。パートナーと手をつなぐ感覚が鈍くなり、テンポがずれることもありました。手だけでなく足の指先もこわばることがあったので、冬でも素足のサンダルで踊る競技ダンスはなかなか過酷でした。感覚がないと踏ん張りがきかず、踊りたいように踊れないもどかしさもありましたね。ホッカイロやあたたかい飲み物を常に持参したり、大会の日は朝湯船につかったりなど、自分なりに対策をしていました。
家族の理解とサポートに感謝
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
響子さん
親の支えは大きかったです。将来に不安をもつ私を「医療は発達するから大丈夫」と電話で支えてくれました。当時のダンスパートナーは今の旦那になるのですが、旦那の支えは大きいですね。力が入りにくくなるダンス終盤は強めに手を握りサポートしてくれました。
編集部
家族の理解が大切ですね。
響子さん
そうですね。「SLE」は倦怠感の強い病気で、倦怠感の強さや頻度も日によって異なります。結婚後は、家事ができる日と横になる日が入り混じります。旦那からは、どんなときも「なんでやってないの?」と責められるようなことはありません。ダンス部のときからの付き合いもあり、頑張りたいけど今日は頑張れないこと、それでも頑張ろうとしていると認めてもらえている感じがあり、生きやすいです。義実家の家庭も病気への理解があり、助かっています。「病院に行っただけで疲れる」この感覚は、なかなかわかってもらいにくいですからね。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
響子さん
「子どもも産めたよ」と伝えたいですね。1359g 、31週での出産でした。未熟児でしたが、現在は標準体重になっています。小学1年生になり、思いやりとユーモアのある明るい女の子に育っています。
編集部
長期入院も経験されたと伺いました。
響子さん
はい。産後に調子が悪くなり2ヶ月入院しました。娘は義実家へ。義父母の助けと理解に本当に感謝しています。娘は当時1〜2歳だったでしょうか。旦那と娘が戯れる動画や面会時の「ママ〜」と寄ってくる声が励みになりましたね。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
響子さん
去年から妊娠可能な薬へ切り替え、妊活中です。ステロイドもほぼ発症当初と同じ量まで減りました。関節痛はほぼなく、倦怠感も少ないですね。現在は、子連れヨガや遊び教室を主催し、不定期ですがSLEの方向けのヨガもオンラインで開催しています。そのほかライティングスキルを身につけ、取材ライターとしての仕事も始めました。気持ちや体に無理がかかると、炎症が出やすいので、自分のペースで開催できる教室運営やオンラインヨガは気に入っています。取材もオンラインがメインなので、日光を避けて仕事ができるのもSLEの自分にはありがたいです。
自分らしく、自分にしかできない人生
編集部
あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。
響子さん
私の場合は目に見えるレイノー症状があったので、病気に気づきやすかったと思います。SLEの方は必ずしも目に見える症状が出るとは限りません。目に見えない倦怠感や関節痛に悩まされる人もいます。体の節々が時々痛い、なんだかだるい。そんな症状が続くときはSLEの可能性も疑ってみてください。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
響子さん
「一般的にはこのパターンが効果的」と言い切るよりは、私自身の過去の傾向を一緒にみていただき、患者と納得した治療法や薬の調整ができると嬉しいです。現在は話を聞いてもらった上で、提案していただき、納得して治療に向き合えています。また、長期入院だと話す相手が日頃より少なくなるので、看護師さんの明るい声がけは励みになりました。入院は見知らぬ人との共同生活です。体だけではなく、メンタル面も心掛けてくれるのは嬉しかったです。
編集部
最後に、読者や同じ病気の闘病者に向けてのメッセージをお願いします。
響子さん
病気への不安、将来への不安から、先が真っ暗になることもありました。ただ、自分のできることを探してみると、どんどん自分らしく自分にしかできない形で人生が動き出したように思います。ついつい不調な日に目が行きがちですが、調子のいい日に目を向けてみてください。私はよかった日は何をしたからよかったのか、小さなことでもメモしています。よかったことの積み重ねで、いい循環が生まれるかもしれません。長期入院中は、退院したらやりたいこと、人生でやりたいことをひたすら書き出しました。今日も生きていることに感謝し、死ぬときにはいい人生だったと言いたいです。人と自分に優しく、その日できることを堪能して生きていきたいと思っています。
編集部まとめ
「病気をとおして価値観の幅が広がり、人と自分に寛容になれた」と振り返られた響子さん。難病を患いながらも、不安な状況をみるだけでなく、前を向きさまざまなことにチャレンジされています。読者の中には、病気でつらい中を通られている方もいらっしゃるかもしれません。その中でも、自分のやりたいことに目を向けてみませんか?